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第47話:宣戦布告の空

――ズズズズズ……。

第七居住区の錆びついた空が、不気味に、そして重低音を響かせながら震えていた。

無菌ドックから決死の脱出を果たし、JUSCOたちはなんとか我が家へと帰還した。しかし、彼らを迎えたのは勝利の歓声ではなく、街全体を包み込む圧倒的な「恐怖」の静寂だった。

「お、おい……バベル・ホールの様子が変だぞ……!」

カイルが装甲車から飛び出し、血の気の引いた顔で天を指さす。

見上げる世界の天井。いつもは上層の廃熱でどんよりと曇っているだけの暗闇に、今、見たこともないほどの「純白の光の陣」が、幾重にも重なる幾何学模様となって浮かび上がっていた。それは上層世界『カイゼル・シェル』の全自動防衛システムが、最高警戒レベル『コード・レッド』に移行した証だった。

「JUSCO、ゼロを早くガレージへ! 街の防壁システムを最大出力で立ち上げるよ!」

マダム・チェイシーが重機から降り立ち、大声でジャンク街の住人たちに指示を飛ばす。

JUSCOは、ルカとシンに支えられながら、動かなくなったゼロの巨体をガレージの作業台へと横たえた。左腕は完全に融解し、胸の魔力炉からは弱々しいエラー音がブザーのように鳴り続けている。

「ゼロ、今すぐ冷却剤を注入するからね……! 待ってて!」

ハンダコテとレンチを握るJUSCOの手が、外から響く地鳴りのせいで激しく震える。

『――感謝する、マスター。だが、私の修復ログより先に……あの『声』を聞くべきだ。上層のメインAIが、このエリアの全周波数を強制ジャックしている』

ゼロの言葉と同時に、街中の古いラジオ、壊れかけのモニター、そして自警団の通信機から、一斉にザーッという激しいノイズが走った。

ノイズの向こうから現れたのは、ホログラムで投影されたエレノアの、冷酷極まる美貌だった。第七居住区の汚れた空気の中に、彼女の純白の姿が不気味に浮かび上がる。

『――第七居住区の反乱分子、およびエラーコードの保持者へ通達』

その声は、街の隅々にまで冷たく染み渡っていった。

『あなたたちは、聖域である上層ドックを汚染し、システムの秩序を著しく損ないました。中央評議会『ゼニス』は、現時刻をもって、第七居住区のすべての生存権(インフラ配給)を永久に剥奪します』

「な、なんだって……!?」

シンの顔が驚愕に歪む。

『さらに12時間後、フェリックス准将率いる『白亜の粛清艦隊』を奈落へ降下させ、当該エリアの「完全焼却ミリタリー・クリーン」を実行します。……これは警告ではなく、確定したシステムログ(未来)です』

ブツン、とホログラムが消え、街は再び静まり返った。

12時間後の、完全消去。

逃げ場のない地下世界の底で、住人たちは言葉を失い、お互いの顔を見合わせた。上層世界はついに、虫を駆除するように、この街ごと歴史から消し去る決断を下したのだ。

「……やってやろうじゃんか」

静まり返るガレージの中で、JUSCOがポツリと呟いた。その瞳には、恐怖ではなく、激しい怒りの炎が灯っていた。

「お父さんが遺してくれたこの街を、みんなの家を、あんな冷たい人形たちに消されてたまるもんか! 12時間あれば、ゼロの魔力炉だって、ルカの銃だって、街の防壁だって全部最高の状態に組み替えてみせる!」

JUSCOは歪んだスパナを高く掲げ、ゼロの融解した装甲へと力強く突き立てた。

『合理的判断ではないな、マスター。だが……これこそがジャンク屋のカウンターというわけだ。我がすべての回路を、君のスパナに委ねよう』


絶望のカウントダウンが響く中、地下世界のクズ鉄たちの、命を賭けた12時間の総力戦が幕を開ける!

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