第43話:白亜の執行人
――カツ、カツ、カツ。
金属質の床を鳴らすブーツの音が、冷たいドック内に響き渡る。
純白のMSのタラップから降り立ったFELIXは、感情を完全にナノマシンで抑制された、氷のように冷徹な瞳でJUSCOを見下ろした。
「……お前が、あの蒼きイレギュラーのマスターか」
その声には、地下世界の人間に対する憎しみすらなく、ただ淡々と「不純物を排除する」ためだけの平坦さがあった。
「そうだよ! 私がゼロのメカニック、JUSCOだ! あんたたち上層階の人間は、自分たちの綺麗な世界を守るためなら、下の人間を窒息させたり、こんな網で捕まえたり、平気でそんなひどいことができるんだね!」
JUSCOは電磁ネットに身体を縛られながらも、FELIXを強く睨みつけた。
その瞬間。
キチリ、と、FELIXの脳内の生体IDが、小さなエラーパルスを弾いた。
目の前の、泥と煤にまみれた15歳ほどの少女。その真っ直ぐな瞳を見た瞬間、彼の高度な演算システムが、一瞬だけ原因不明の「処理遅延」を起こしたのだ。
(……またか。なぜ、この個体の言語ログを聴くと、私の精神波形が通常値を逸脱する……?)
「どうしました、フェリックス准将」
背後から、エレノアの涼やかな、しかし値踏みするような声が飛ぶ。
「思考パターンに、わずかな躊躇が見られます。速やかにその少女から『マスター・コード』のキーを没収し、処分シーケンスへ移行しなさい。それが、ゼニスの意志です」
「……問題ない。排除ログを実行する」
FELIXは即座に思考を冷徹なマシーンへと引き戻し、腰のホルダーから高エネルギーの電磁ピストルを引き抜いた。銃口が、真っ直ぐにJUSCOの胸へと向けられる。
『――させん、と言っているだろう……ッ!!』
ドォォォォォン!!!
激しい爆鳴とともに、ゼロの全身から蒼い火花が狂ったように噴き出した。
数十機の白磁の猟犬が放っていた電磁ネットが、ゼロが無理やり解放した魔力炉の過負荷によって、一斉にショートし、弾け飛ぶ。
「何っ!?」
エレノアが驚愕に目を見開いた。
『主人にその銃口を向けるな。――我がフレームが融解しようとも、お前たちシステムの人形に、彼女の髪一筋さえ触れさせはしない!』
ゼロは網を破り捨てると、過負荷で装甲からバチバチと赤黒い放電を起こしながら、JUSCOを庇うようにその巨大な身体を滑り込ませた。
「ゼロ……! ダメ、それ以上出力を上げたら、あなたのブレインが焼き切れちゃう!」
JUSCOが叫ぶ。
「チッ……どこまでも不合理な機体だ」
FELIXは即座に後退し、自らの純白のMSのコクピットへと跳躍。瞬時に機体を起動させた。
ガシャァァァン!!
純白のMSが、その洗練された光子のビーム・サーベルを抜き放ち、隔離ドックの天井を眩しく照らし出す。
逃げ場のない天上の白い檻の中で、限界を超えて暴走する蒼き相棒と、システムに操られる冷徹なエースたるFELIXの、生き残りを賭けた超至近距離の死闘が始まろうとしていた。




