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第42話:天空への曳航(えいこう)

「嫌だ……! 離してッ!!」

磁力ワイヤーの強烈な牽引力によって、JUSCOの身体がガレージの床から、そして愛する第七居住区の地面から引き剥がされていく。

電磁の網に絡め取られたゼロが、回路を火花で焼きながらも、必死に右腕を伸ばした。

『マ、スター……! 我がマニピュレーターに、これ以上の出力を、くっ……!』

バチバチと蒼いエーテル粒子が激しく霧散するが、網を放ち続ける数十機の『白磁の猟犬』たちが重石となり、その巨体をがんじがらめにしたまま空中へと引き揚げていく。

「JUSCOーッ!!!」

地上から、シンが泥だらけの顔で叫び、高圧汚染水ランチャーを天に向けて乱射した。しかし、上昇していく二人の足元には届かない。

ルカが片膝をつき、激しいジャミングのノイズを網膜に受けながらも、必死に長銃レール・ライフルの照準をワイヤーへと固定する。

「落ちろ……ッ!」

乾いた電磁音が響き、放たれた超音速弾が、ゼロを縛るワイヤーの一本を激しく弾いた。だが、上層階の冷徹なシステムは、その程度の抵抗など最初から計算式に組み込んでいた。すぐに予備の磁力ネットが展開され、隙間を埋めていく。

「あいたたた! クソッ、お人形さんたちの網は、ベタベタしてて外れないよ!」

マダム・チェイシーの巨大重機も、猟犬たちの放った電磁ネットに車輪を絡め取られ、完全に駆動を停止させられていた。

すり鉢状のジャンク街が、またたく間に遠ざかっていく。

見慣れた錆びついたトタン屋根、リンの浄水タワー、そして自分を育ててくれた大人たちの叫び声が、風の音にかき消されて小さくなっていく。

やがて、二人の身体は暗黒の天井『バベル・ホール』の境界線を完全に越えた。

――ガシャンッ!!!

不気味な気圧の変化とともに、周囲の景色が一変する。

そこは、どこまでも冷徹で、汚れひとつない、一面の「白」の世界。上層世界『カイゼル・シェル』の最下層にある、軍用隔離ドックだった。

「――サルベージ完了。対象のバイオ・ログ、およびエラー・コードの出力を確認しました」

無機質な通路の先から、ヒールの硬い音がカツ、カツと響く。

待っていたのは、純白のドレスを身にまとった情報統治官――エレノアだった。彼女の冷酷な瞳が、ホログラム端末の光に照らされている。その背後には、完全に武装したカイゼル軍の警備兵たちが、銃口をJUSCOに向けて整列していた。

「あなたが、地下の反乱分子を統率していた『バグの核心マスター』ですね。そしてそこのクズ鉄が、システムを揺るがすイレギュラー機」

エレノアは、網の中で息を荒くするJUSCOを、まるで実験室のサンプルでも見るような目で見下ろした。

「あなたたちの存在は、この世界の調和システムに必要ありません。すぐに脳の全ログをスキャンし、ダスティ博士の遺したデータを抽出した後、記憶洗礼神殿で処理します」

「お父さんの名前を、あんたたちが安っぽく呼ぶな……っ!」

JUSCOは床に膝をつきながらも、エレノアを鋭く睨みつけた。

『……主人、に、手を出すな……!』

電磁ネットの出力が最大に引き上げられ、ゼロのメインモニターが消えかかる。

「安心しなさい。あなたたちの『処分』の執行人として、これ以上ない適任者を用意していますから」

エレノアが冷たく微笑み、指をスワイプする。

ドックの巨大なハッチが開き、そこから姿を現したのは――傷ひとつない純白の装甲を取り戻した、FELIXの最新鋭MSだった。

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