第40話:蒼鉛の反撃
――ズバァァァン!!!
ガレージの天井を突き破る勢いで跳躍したゼロが、滞空していたレオンのガンシップの真下へと一瞬で肉薄した。
インフラの呪縛から解き放たれ、本来の出力を取り戻した蒼鉛の機体の加速は、上層世界のシステム予測を遥かに凌駕していた。
『な……何だと!? 完全に機能を停止していたはずでは――』
レオンが驚愕の声をあげる暇すら、ゼロは与えない。
『我が主人のスパナ(技術)を、上層の計算式で測るな。――破砕駆動!』
ゼロの蒼き鉄拳が、ガンシップの頑強な機首へと容赦なく叩き込まれた。
バリィィィン!!!
強固なはずの光子防壁が、魔力炉の直撃を受けてガラスのように粉砕される。そのまま拳は白い船体を歪ませ、レオンのガンシップを激しく吹き飛ばした。機体は制御を失い、黒い煙を吹きながら中央シャフトの壁面へと激突する。
『バ、バカな……! 私の最新鋭機が、地下のクズ鉄一機に……!?』
通信回線からレオンのプライドが引き裂かれた悲鳴が響く。残る2機のガンシップが慌てて照準をゼロに合わせようとするが、地上からはすでに、ルカのレール・ライフルと自警団の対空砲火が容赦なくその退路を塞いでいた。
「これ以上、私たちの街をめちゃくちゃにさせないんだから!」
JUSCOが壊れたガレージの屋根から、力強く叫ぶ。その声に呼応するように、第七居住区の各所に灯った「奈落の灯火」が、暗闇の街を青白く、逞しく照らし出していた。
『全機へ通達。目標の戦闘能力は想定以上だ。一時撤退し、作戦を再構成する!』
レオンは屈辱に歯噛みしながら、大破した機体を強引に制御し、残存部隊と共に中央シャフトへと急上昇していった。またしても、天上の軍勢を退けたのだ。
「やった……やったよ、ゼロ! みんな!」
JUSCOが大きく手を振る。チェイシーも、シンも、泥だらけの顔で歓声をあげた。
しかし、その戦いの一部始終は、中央AI大聖堂のモニターを通じて、ある一人の少女の瞳に克明に焼き付けられていた。
上層世界『カイゼル・シェル』――。
ホログラムの残像を見つめるエレノアの端正な顔が、冷酷な光に照らされる。
「……信じられません。レオンの部隊まで敗北するとは。あの蒼き機体、そしてあの少女の存在は、これ以上放置できませんね」
彼女の指が、端末の画面を冷たくスワイプする。
画面に映し出されたのは、次回の排除作戦の最高責任者としてロックされた、もう一つの「純白の機体」のデータ――。
「フェリックス准将。システムはあなたに、次なる戦場での『確実な抹殺』を要求しています」
天と地。
絡み合った運命の歯車が、最も残酷な激突と向かって再び回り始める――。




