第33話:白と蒼のパルス
――ガガ、ギギィィィン!
第七居住区の北側、防壁・境界線に設置された旧文明製の自動機銃が、けたたましい駆動音を立てて上空へ銃口を向けた。
「敵影、中央吹き抜け(シャフト)から急降下! ――速い! 無人機の速度じゃないぞ!?」
防壁の陰で迎撃体制を取る自警団のカイルが、通信機に向かって怒鳴り声をあげる。
人工太陽が赤く警告の光を放つ中、世界の天井に開いた大穴『バベル・ホール』から滑り降りてきたのは、これまで地下を襲撃してきた錆びた無人機ではなかった。
それは、汚れひとつない「純白」の装甲を纏った、洗練され尽くした人型機動兵器。上層世界の最新鋭MSだった。
ズズゥゥゥン!
白い機体は、すり鉢状の段丘に鉄屑を溶接して作られた防壁の真っ只中へ、重力制御の推進炎を美しく吹き上げながら音もなく着地した。
砂塵が晴れたその中心で、白いMSの頭部センサーが冷徹な赤に明滅する。
『こちらフェリックス准将。第七居住区に到達。……フム、相変わらず油と粉塵が酷いな。システムの最適化から最も見放された、文字通りのゴミ溜めだ』
そのコックピットに座る青年――FELIXの瞳には、感情のゆらぎが一切なかった。脳内の生体IDを通じて中央情報システムと完全に同期した彼は、軍事総監ギルフォードの命である「マスター・コードの回収、および地下反乱分子の排除」を、まるでただの書類仕事のように淡々と遂行しようとしていた。
「撃て! 街に入れるな!」
カイルの号令とともに、実弾の豪雨が白いMSへ一斉に浴びせられる。
しかし。
キィィィン……!
白いMSの表面で空間がわずかに歪むと、放たれたクズ鉄の弾丸はすべて、見えない光の壁――『光子防壁』に干渉し、火花を散らして弾け飛んだ。装甲に傷ひとつつかない。
「嘘だろ……、俺たちの火器がまったく通じねえ!」
『エネルギーの無駄だ、地下の人間。お前たちの存在そのものが、この世界の循環効率を著しく低下させている。……速やかに「大掃除」を開始する』
FELIXが冷酷にコントロールレバーを引く。白いMSの右腕にマウントされた『熱光学収束兵器』が、目も眩むような高熱のプラズマをチャージし始めた。
その銃口が、防壁の陰で立ち尽くすカイルへと向けられる。
「あ……」
カイルが死を覚悟した、その刹那。
――ガキィィィィィン!!!
激しい金属衝突音がジャンク街に轟いた。
火花が飛び散る中、カイルの目の前に割り込んだのは、周囲のジャンクを強引に再構成して纏った、ボロボロで、けれど力強い「蒼鉛の装甲」――ゼロだった。
「カイル兄ちゃん、下がって!」
ゼロの肩口から顔を覗かせたJUSCOが、必死の形相で叫ぶ。彼女の右手には、父の形見のスパナが固く握られていた。
ゼロは、自らの『絶対守護領域』を瞬間的に展開し、白いMSが放とうとしたビームの出力を正面から力技でねじ伏せていた。
『警告。主人(JUSCO)。目の前の個体が駆動させる機体出力は、過去に交戦した「ブラック・アラクネ」の3.4倍を記録。……チープな急造装甲のままでは、次の直撃で我がフレームの40%が溶解する』
「でも、ここで引いたら街が、みんなが焼き払われちゃう……! 止めるよ、ゼロ!」
JUSCOの叫びと同時に、彼女の胸の奥に眠る『マスター・コード』が激しく脈動する。それに呼応するように、ゼロの胸部の魔力炉が青白い粒子を爆発的に吹き上げた。
ジジ……。
その瞬間、白いMSのコックピット内で、FELIXの脳内システムが激しい警告音を鳴り響かせた。
『何だ……? 敵機と接触した瞬間、システムスコアが乱れている。それに、この不快な胸のざわつき(バグ)は……一体何だ?』
メインモニターに映し出される、蒼きクズ鉄の機体。そして、その傍らでスパナを構える15歳の少女。
互いが何者なのか、いまは何も知らぬまま、上層の「白」と地下の「蒼」が、鉄錆の境界線で激しく火花を散らせるのであった。




