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第29話:取引成立!ジャンク街の経済学

電磁障壁の危機から数日。第七居住区には、これまで以上の活気が戻っていた。

黒蜘蛛『ブラック・アラクネ』の残骸から回収された超硬質ワイヤーや高密度基盤は、地下街の技術者たちにとって垂涎の的となり、交易所では連日、それらのパーツを巡る激しい取引オークションが行われていた。

「おい、ルカ! 今日も自警団の見回りか? 精が出るな!」

「あ、トンプソンおじさん。うん、義足の調子が良いから、いくら歩いても平気なんだ」

路地を行くルカに、住人たちが親しげに声をかける。背中に旧文明の長銃ライフルを背負った少年は、すっかりこの街の一員として、そして自警団の優秀な斥候スカウトとして認められていた。

一方、いつものガレージでは――。

「ゼロ、これ今回の防衛報酬と、アラクネのパーツ売却益の『山分け』よ。しっかり受け取って」

革の手袋を外したレイラが、ずっしりと重い金属製のコンテナを床に置いた。中には高純度の液化エネルギーオイルと、いくつかの旧文明製マイクロチップが整然と並んでいる。

「ふむ。計算が合うな。レイラ、貴様にしては正確な事務処理(マージン計算)だ」

俺――「ゼロ」は蒼きマニピュレーターでコンテナを回収し、内部のログに記憶させた。

「悪かったわね、大雑把で。でも、これであなたの蒼い装甲のメンテナンス費用も、しばらくは安泰でしょ?」

「ああ。特にこの液化オイルは、魔力炉ジェネレーターの冷却効率を12%向上させる。次の戦闘への移行時間が短縮できるな」

そんな実務的な会話を交わす俺たちの横で、JUSCOが嬉しそうに、新しいパーツの並んだ棚を整理していた。

「これでルカの銃の予備弾薬もたくさん作れるね! ゼロ、レイラ、本当にありがとう」

「いいのよ、JUSCO。ルカのあの狙撃がなかったら、今頃私はあの世でスクラップになってたんだから。それに……」

レイラはガレージの開いたシャッターから、遠い天井を見上げた。

電磁の霧が晴れた世界の天井には、かつて俺が撃ち抜いた「上層世界へ続く大穴」が、今も黒々とした口を開けている。

「暫定評議会、だったかしら。あいつら、味を占めてまた次の刺客を送り込んでくるかもしれない。街の守りを固めるだけじゃ、いつか限界が来るわ」

「……その通りだ、レイラ」

俺のメインプロセッサが、冷徹な未来予測を弾き出す。

防衛戦ディフェンスだけでは、いずれこちらの消耗率が100%に達する。上層の残党どもを完全に沈黙させるには、いずれ俺たちが、あの穴の向こうトップ・フロアへ攻め入る必要があるだろう」

その言葉に、ガレージの中の空気が一瞬で引き締まる。

日常を守るための戦いは、少しずつ、しかし確実に、そのスケールを広げようとしていた。

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