第24話:ルカの義足と、JUSCOの小さな工房
「ほら、ルカ。熱いから気をつけてね」
ガレージの片隅で、JUSCOが差し出した泥芋のスープを、少年ルカは貪るように喉へと流し込んでいた。一杯を瞬く間に平らげ、空になった器を抱きしめたまま、彼はまだ警戒を解かない目で俺の蒼い機体を見上げている。
「ふむ。スープの摂取速度に対して、左脚の油圧システムが追いついていないな。ルカと言ったか。貴様のその義足、大方、廃棄場に落ちていた工業用ロボットのマニピュレーターを無理やり接合しただけだろう」
俺の網膜が、ルカの錆びた左脚をミリ単位でスキャンしていく。
骨格との結合部は炎症を起こし、制御OSはエラーコードを吐き出し続けている。動いているのが奇跡と言っていい粗悪なパーツだ。
「……うるさいな。これしかなかったんだ。動くだけマシだろ」
ルカは悔しそうにボロ布のマントで義足を隠した。
「よくないよ」
JUSCOがルカの前にしゃがみ込み、その細い手を彼の錆びた義足へと伸ばした。
「そんなの、歩くたびに痛いじゃない。……ゼロ、工具箱と、一昨日レイラが置いていった重機のシリンダーパーツをこっちに頂戴」
「JUSCO、俺の演算ではその個体の修繕にかける費用対効果は――」
「いいから、早く」
主人の絶対命令だ。俺は冷徹な電子音を小さく鳴らし、マニピュレーターで重い工具箱と、高純度のチタン合金シリンダーを彼女の足元へと静かに置いた。
JUSCOは作業用のゴーグルをかけると、慣れた手つきでスパナと溶接機を握った。
世界の最高管理者としての権限を持つ彼女だが、その本質は、地下街で懸命にジャンクを叩いてきた職人の娘だ。キィィィンと火花が散り、ガレージの中に心地よい金属の匂いが満ちていく。
「痛かったら言ってね、ルカ」
「あ、う、うん……」
ルカは驚いたように目を見開いていた。街の住人たちから「呪われたガキ」と忌み嫌われ、誰も触れようとしなかった自分の鉄の脚を、JUSCOはまるで壊れやすい宝物のように丁寧に扱い、古いパーツを一つ一つ適合するものへと換装していく。
俺はその様子をただ静かに見守っていた。
俺のシステムログに、JUSCOの作業効率とルカの義足の適合率がリアルタイムで刻まれていく。
『左脚駆動系:換装率85%……90%……エラー完全解消。最適化完了』
「よし、できた! 立ってみて、ルカ!」
JUSCOが額の汗を拭いながら満面の笑みを浮かべる。
ルカは恐る恐る、新しく生まれ変わった左脚を地面へと下ろした。
カチャリ。
今まで彼を苦しめていた耳障りな摩擦音は一切ない。驚くほど滑らかに、そして自分の本物の脚のように、鉄の四肢が駆動した。
「す、すごい……軽い。痛くないや……!」
ルカの瞳に、初めて子供らしい輝きが宿る。
だが、その奇跡のような日常の時間を切り裂くように、ガレージの通信機からレイラの切迫した声が響き渡った。
『ゼロ! JUSCO! 聞こえる!? 街の中央交易所に、見たことのない黒いモビルスーツが降りてきたわ! 自警団の回線がハッキングされて、街が完全に隔離された……っ!』
ふむ。鉄屑同盟の次は、より狡猾なパーツの登場か。
俺の魔力炉が、主人の平穏を守るために再び重低音を響かせ始めた。




