第23話:訪問者、あるいは錆びた銃弾
トントン、と。
深夜の静寂に包まれたガレージの裏口を、遠慮がちな、しかしどこか硬質な音が叩いた。
コンロの火はとうに消え、JUSCOはコクピットのシートで毛布にくるまって泥のように眠っている。俺――「ゼロ」は、メインプロセッサを休止状態から即座に復帰させ、網膜の熱源センサーを裏口へと向けた。
そこに立っていたのは、一人の小柄な少年だった。
ボロ布のような防塵マントを羽織り、手には自分の体躯ほどもある旧文明の『長銃』を握りしめている。その銃口は、小刻みに、しかし明確な意志を持って俺の蒼い装甲へと向けられていた。
「……そこから動くな、蒼いたまご」
少年の声は、かすかに震えていた。だが、瞳の奥にはジャンク街の住人が持つ特有の、飢えた獣のような光がある。
「ふむ。その銃身のライフリングは完全に磨耗しているな。おまけに装填されている弾薬の火薬比率が狂っている。引き金を引いた瞬間、弾頭が飛び出す前に貴様の右腕が爆風で消し飛ぶぞ」
俺はハッチを閉じたまま、外部スピーカーから冷徹な電子音を響かせた。
少年は一瞬ギクリと表情を強張らせたが、銃口を下げることはしなかった。
「うるさい……! お前が『鉄屑同盟』を一人で全滅させたっていう化け物か。頼む……僕を、僕をあんたたちの仲間に、自警団に入れてくれ!」
「お断りだ。我が家は託児所ではない」
「僕は足手まといにはならない! この銃だって、西の廃棄エリアから一人で拾ってきたんだ! 街の奴らはみんな僕を『呪われたガキ』って呼んで追い出すけど……僕には、もうここしか行く場所がないんだよ!」
少年のマントの隙間から、錆びた機械義足の左足が覗いた。地下の過酷な環境で、不完全なパーツを無理やり結合されたのだろう。オイルが漏れ、駆動するたびに痛々しい金属摩擦音が響いている。
「……騒々しいぞ、小僧。主人の睡眠を妨害するパーツは、例外なくリサイクルの対象だ」
俺が重々しく蒼い片脚を踏み出そうとした、その時。
「待って、ゼロ」
コクピットの奥から、目をこすりながらJUSCOが顔を出した。彼女は少年のボロボロの姿と、その歪な義足を見た瞬間、すべてを察したようにハッチからハシゴを降りていく。
「JUSCO、下がるんだ。その個体は不安定な火器を所持している」
「大丈夫だよ、ゼロ」
JUSCOは俺の制止をすり抜け、少年の前にそっと膝をついた。そして、怯える少年の手からそっと長銃を取り上げると、優しく微笑んだ。
「お腹、空いてるでしょ? スープの残り、温め直してあげる。……私はJUSCO。あなたの名前は?」
「……ルカ」
少年は銃を奪われたことにも気づかないまま、JUSCOの温もりに圧されたように、ぽつりとその名前を溢した。
新たなる居場所を求める、錆びた銃弾のような少年ルカ。
鉄屑の街に、また一つ、割り切れないパーツが紛れ込んできた。




