第22話:宴のあとと、境界線(ボーダー)の夜
鉄屑同盟の重機群が炎上し、黒煙が世界の天井へと細く伸びていく。
静まり返った荒野に、パチパチと金属が爆ぜる音だけが響いていた。
「う、嘘でしょ……。あの数を、たった数分で……」
自警団の指揮車両から降りてきたレイラは、膝をがくがくと震わせながら、俺の蒼き機体を見上げていた。銃一丁で生き抜いてきた彼女にとって、目の前の光景は「戦闘」ではなく、ただの「災害」にしか見えなかったのだろう。
「呆然としている暇があるなら、パーツの回収(仕分け)を始めたらどうだ、レイラ」
俺は冷徹な電子音を響かせ、足元に転がっていた隊長機の無事なシリンダーを、マニピュレーターで無造作に拾い上げた。
「これほどの良質な鉄塊だ。放置すれば、今度は別のハイエナどもが群がるぞ。第七居住区の防壁を補強するなら、熱が冷めないうちが勝負だ」
「あ、ああ……そうね。おい、みんな! 生きている重機を出せ! 使えるパーツを全部剥ぎ取るんだ!」
レイラの怒声混じりの指示に、自警団の面々が我に返ったように動き出す。恐怖は瞬間に、歓喜へと変わっていた。これだけの物資があれば、この冬どころか、あと数年はエネルギー不足に悩まされずに済むからだ。
――数時間後。
すっかり日が落ち、人工太陽の残光すら消えた地下街のガレージ。
「ゼロ、おかえりなさい! 怪我はない?」
ガレージに戻るなり、JUSCOが駆け寄ってきた。彼女の手には、俺の関節部を拭くための新しい蒸気タオルが握られている。
「問題ない、JUSCO。予定通りの防犯活動だ。それと、レイラからこれを受け取ってきた」
俺は胸のハッチを開き、レイラから譲り受けた【高密度大容量バッテリー】をJUSCOに見せた。ガレージの暗がりのなかで、その古いパーツは青白く、静かに発光している。
「これ、レイラのお父さんの……。レイラ、なんて言ってた?」
「『これで貸し借りなしよ。それと、これからは私たちの背中も守ってよね、JUSCOの守護神様』だとさ。人間というパーツは、時に費用対効果の合わない感傷的な取引を好むらしい」
俺の言葉に、JUSCOはふっと柔らかく微笑んだ。
「ううん、それが『隣人』ってことだよ、ゼロ。……さあ、冷めないうちにスープの残りを温め直すね」
小さなコンロに火が灯り、泥芋のスープがコトコトと音を立て始める。
蒼きモビルスーツのメインモニターに、スープを覗き込むJUSCOの横顔が映る。
鉄屑同盟を壊滅させたことで、俺たちの名はさらに広く知れ渡ることになるだろう。だが、この小さなガレージに流れる静かな時間だけは、何者にも侵させはしない。俺は胸の奥の古いラベルの破片をそっと駆動させ、次の防衛演算を開始した。




