第19話:自警団の少女レイラと、迫り来る鉄の飢餓
「……上層の残骸を狙って、周囲の勢力が動き出してる」
ガレージに足を踏み入れたレイラは、腰のホルスターに手を置いたまま、厳しい視線を俺の蒼い装甲へと向けた。彼女はこの第七居住区の自警団を率いる、勝ち気だが責任感の強い少女だ。幼い頃に両親を亡くして以来、銃一丁でこの荒れ果てた街を生き抜いてきた。
「周囲の勢いって?」
JUSCOがオイル布を握りしめながら尋ねる。
「西のブロックを仕切る『鉄屑同盟』よ。カイゼル・シェルが落とした高純度のエネルギー結晶を独占しようと、この居住区の境界まで武装重機を進軍させてきているわ。このままだと、私たちの冬の蓄えが全部強奪される」
ふむ。世界の天井が破れ、富が降ってきた途端にこれだ。人間というパーツは、どこまでも強欲に駆動するように設計されているらしい。
「自警団の戦力では防ぎきれないの、レイラ?」
「旧式の自動小銃と、採掘用の改造重機が数機よ? 上層の戦闘データ(ログ)を学習したあいつらの武装スクラッパー相手じゃ、10分も持たないわ……だから」
レイラは悔しそうに唇を噛み、俺を見上げた。
「ゼロ。あなたの力を、この街のために貸してほしい。……タダでとは言わないわ。これを受け取って」
彼女が差し出したのは、錆びついてはいるが、旧文明の規格で作られた【高密度大容量バッテリー】だった。俺の蒼き機体が発する、規格外の出力を安定させるためには喉から手が出るほど欲しいパーツだ。
「レイラ、これは……」
JUSCOが息を呑む。それはレイラの亡き父親の遺品であり、自警団の最後の砦となる予備電源のはずだった。
「街が潰れたら、こんなものただの鉄屑よ。JUSCO、私はあんたたちの家も、この街の日常も守りたいの」
レイラの言葉に、俺のメインプロセッサが演算を開始する。
バッテリーの価値、住人たちの生存確率、そして――何より、JUSCOがこの街で浮かべる笑顔の損失率。
「ふむ。交渉は成立だ、レイラ。そのパーツ、我が機体の予備電源として有効に活用させてもらおう」
ガギィン、と蒼いマニピュレーターがバッテリーを受け取る。
「JUSCO、留守を頼む。少し、境界線の『大掃除』に行ってくる」
蒼きモビルスーツは、レイラを引き連れ、排気煙を上げながら鉄の街の境界へと出撃した。




