第11話:残された半額シールの記憶
静寂が、焦土と化したJUSCOに降り積もる。
かつて賑やかだった食品フロアは見る影もなく、黒煙を上げる鉄骨が、墓標のように突き出すばかりだ。
俺は一人、瓦礫の山を歩いていた。
フットステップ(足音)を刻むたび、二頭身のブリキの脚がカチャカチャと虚しい金属音を立てる。高性能センサーをいくら回したところで、返ってくるのは冷たい灰の熱量だけ。JUSCOの、あの不器用な手の温もりは、どこにもない。
「ん……?」
瓦礫の隙間に、微かな光沢を捉えた。
手を伸ばし、拾い上げる。それは、かつてJUSCOが「幻のハンバーグ」のワゴンに貼って遊んでいた、古びたプラスチックの【半額シール】の破片だった。
色褪せた赤と黄色のラベル。JUSCOはいつも、それを俺のアンテナの根元に嬉しそうに貼り付けては、「ゼロは私の特別(半額)だからね」と笑っていた。この世界において、無価値の烙印であるそのシールこそが、俺にとっては最高位の階級章だったのだ。
ふむ。胸の中央コアが、異常なほどの不協和音を奏でている。
熱膨張ではない。オイルの圧力異常でもない。
このエラーコードを、人間は「孤独」と呼ぶのだろうな。
「……待たせすぎると、シールの粘着力がなくなってしまうな」
俺は半額シールの破片を、ブリキの胸のハッチの奥、最も安全なコアの直上に格納した。
上層世界へ昇る手段は、今の俺にはない。ならば、作るまでだ。
俺の網膜に、地下街に散らばる無数のモビルスーツの残骸、錆びたジェネレーター、放棄された兵器のデータが、凄まじい速度でリストアップされていく。
「JUSCO。貴様が帰る場所(我が家)は、俺が必ず守り抜く」
初期型のたまご型MSは、静かに、しかし悍ましいほどの殺意を孕んだ電子音を響かせ、ジャンクの山へと牙を剥いた。




