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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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人間と魔族の共同宴会

やわらぎの谷。


夜。


露店街には、再び灯りが戻っていた。


提灯。


湯気。


焼き串の匂い。


温泉帰りの客たちの笑い声。


昨夜、戦争寸前だったとは思えない。


だが。


今日は少し違った。


「……なんでこうなった?」


ダンが頭を抱えている。


その視線の先。


露店街中央広場。


長テーブルが大量に並べられていた。


しかも。


王国兵と魔族兵が、同じ場所で座っている。


完全に宴会準備だった。




数時間前。


発端は、カヤだった。


「昨日あんだけ騒いだんだから、飯くらい一緒に食べれば?」


軽かった。


あまりにも軽かった。


だが。


温泉へ入った後の兵士たちは、妙に反論しづらかった。


疲れていたのもある。


その結果……。


「共同宴会開催決定!」


「なんで!?」


ダンが叫ぶ。


しかも。


エルメリアがノリノリで企画書を書いていた。


『人魔共存交流会』


「名前固ぇ!!」




そして現在。


宴会会場。


「乾杯しまーす!」


カヤの声が響く。


王国兵と魔族兵が、ぎこちなく杯を上げた。


「…………乾杯」


空気が妙に硬い。


だが。


料理の匂いは強かった。


レイン特製・温泉煮込み。


巨大串焼き。


温泉卵。


獣人向け香草焼き。


さらに。


祭り仕様の豪華料理まで並んでいる。


「うまそ……」


王国兵が思わず呟く。


その瞬間。


隣の魔族兵が皿を差し出した。


「その肉、うまいぞ」


空気が止まる。


「……え?」


「食うか?」


数秒。


沈黙。


そして。


「……もらう」


普通に受け取った。


ダンが遠い目になる。


「始まったな……」




しばらく後。


宴会空気は、完全に変わっていた。


「お前それ三杯目だろ!」


「うるさい!」


「魔族って酒強ぇな!?」


「そっちが弱すぎる!」


盛り上がっていた。


昨日まで殺し合い寸前だった人たちである。


意味が分からない。


その時。


王国兵の一人が、ぽつりと呟く。


「……魔族って、もっと怖いと思ってた」


空気が少し静まる。


魔族兵は苦笑した。


「こっちもだ」


「人族はもっと陰湿だと聞いてた」


「誰情報だよ」


「上官」


「おい」


吹き出す者が増える。


少しずつ。


“敵”じゃなく、“相手”として見え始めていた。




その頃。


少し離れた高台。


エルグランとゼルヴァディスが、静かに宴会を見下ろしていた。


王は、小さく息を吐く。


「……信じられんな」


魔王も目を細める。


「余もだ」


その時。


グラディウスとバルグレアが近づいてくる。


二人とも、まだ厳しい顔だった。


だが。


以前ほど鋭くはない。


下では。


王国兵と魔族兵が、普通に笑っている。


「……一時の気の迷いだ」


グラディウスが低く呟く。


だが。


バルグレアは、しばらく黙っていた。


そして。


「……かもしれん」


否定しなかった。


その瞬間。


グラディウスが少し驚いた顔をする。


敵意が。


少しずつ揺らいでいる。




その時だった。


ブゥゥゥゥン……。


谷全域の温泉が、静かに発光する。


暖かな光が、宴会広場へ流れた。


すると。


王国兵と魔族兵たちの空気が、さらに柔らかくなる。


「……あったけぇ」


「眠くなるなこれ」


完全に酔い+温泉効果だった。


その時。


グーちゃんが、宴会中央へどっかり座る。


当然みたいに。


「グーちゃん来たぁ!!」


「肉追加!!」


ヘルウルフ群れまで料理をもらっていた。


完全に宴会参加である。


その光景を見ながら、ユウは少し笑う。


昨日まで。


ここは壊れかけていた。


でも今。


人族と魔族が、一緒に笑っている。


完璧じゃない。


全部解決した訳でもない。


それでも。


“戦わない時間”は、確かに存在していた。


その時。


地下遺跡最深部。


巨大古代術式が、静かに反応する。


『共存行動確認』


『祝祭領域、再起動』


まるで。


谷そのものが、少し嬉しそうだった。

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