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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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祭り

“やわらぎの谷”。


最近の問題。


人が多すぎて、毎日祭りみたい。


「だったら本当に祭りやればいいんじゃない?」


カヤの一言が、全ての始まりだった。




数日後。


「なんで本当に決まってんだよ!?」


ダンの叫びが谷へ響く。


露店街。


広場。


温泉通り。


全部、祭り準備で大騒ぎだった。


提灯。


屋台。


巨大な飾り湯。


特設露天。


さらには温泉花火計画まで進んでいる。


「規模がデカすぎる!!」


カヤは胸を張った。


「せっかくなら派手に!」


その横で。


エルメリアが大量の資料を広げている。


『第一回 やわらぎ祭』


「タイトルまで付いてる……」


リーフェが遠い目をする。


しかも。


王国側と魔族側、両方が支援していた。


「余興部隊を送ろう」


「魔族領側も楽団を出す」


「国家イベント化してるぅ!?」


ダンが頭を抱えた。




祭り当日。


谷は、過去最大級の賑わいになっていた。


「いらっしゃいませー!」


「焼き串追加ー!」


「温泉まんじゅう限定味あります!」


屋台が並ぶ。


湯気が漂う。


子供たちが走り回る。


獣人も。


魔族も。


人族も。


皆、同じ通りを歩いている。


争いは無い。


笑い声ばかりだった。


その時。


ズシン。


ズシン。


巨大な影が通る。


「グーちゃん神輿きたぁぁ!!」


「やるのかよ!!」


完全に祭り仕様だった。


巨大な飾り布を付けたグーちゃん。


しかもヘルウルフ群れまで整列している。


妙に統率が取れていた。


子供たちが大歓声を上げる。


「グーちゃんー!!」


グーちゃんは、ふんす、と誇らしげに鼻を鳴らした。


完全に人気マスコットだった。


その時。


広場中央で歓声が上がる。


「カヤちゃんだー!」


看板猫カヤ。


今日は祭り衣装だった。


猫耳付き浴衣。


完全に狙っている。


「売れるから!」


本人は真顔だった。


実際、めちゃくちゃ人気だった。


「祭り限定温泉まんじゅうでーす!」


列が地獄だった。


その隣では。


レインが巨大鍋で“祭り限定温泉煮込み”を作っている。


匂いが暴力だった。


冒険者たちが吸い寄せられていく。


「腹減ったぁ……」


「並べ並べ!!」


完全に戦場だった。




夜。


祭りは最高潮を迎えていた。


温泉街全体へ提灯の灯りが揺れる。


露天風呂から見える夜景も綺麗だった。


その時。


エルグランとゼルヴァディスが並んで広場を見ていた。


「……妙なものだな」


エルグランが静かに呟く。


魔王は小さく目を細めた。


「悪くない」


二人の視線の先。


人族と魔族の子供たちが、一緒に走り回っている。


以前なら有り得なかった光景だった。


その時だった。


ブゥゥゥゥン……。


地下方向から、暖かな振動が響く。


谷全域の温泉が、一斉に淡く発光した。


「……また?」


リーフェが目を見開く。


次の瞬間。


夜空へ、青白い光が舞い上がる。


「うわぁ……!」


観光客たちが歓声を上げた。


光の粒が、空へ広がっていく。


花火みたいだった。


だが。


火ではない。


温泉の魔力光。


暖かく。


優しく。


夜空いっぱいへ広がっていく。


その景色を見ながら、ミナが小さく呟く。


「……綺麗」


ユウも静かに空を見上げる。


笑い声。


祭り。


暖かな光。


争いの無い景色。


過去勇者が見たかったもの。


それが、今ここにある気がした。


その時。


ユウの脳裏へ、静かな声が響く。


『――休息領域、祝祭認定』


『――幸福反応、増幅』


完全に祭りまで学習していた。


さらに。


地下遺跡最深部。


最後まで閉ざされていた“中心区画”が、静かに起動を始める。


まるで。


“次の物語”が始まるのを待っているみたいに。

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