看板猫
“やわらぎの谷”。
最近の新名物は……
カヤだった。
「温泉まんじゅう焼き上がったよー!」
露店街へ元気な声が響く。
その瞬間。
観光客が一斉に列を作った。
「カヤちゃんの店だ!」
「今日も来た!」
「限定味ありますか!?」
大盛況だった。
「……なんでこうなった」
ダンが遠い目をする。
原因は単純。
カヤが、目立つ。
明るい。
接客がうまい。
そして。
やたら客受けが良かった。
特に獣人客と子供人気が異常だった。
「カヤお姉ちゃんー!」
「新作ちょうだい!」
「はーい!」
完全に馴染んでいる。
しかも。
最近は猫耳カチューシャまで付け始めた。
「なんで猫化してんの」
リーフェが呆れる。
カヤは胸を張った。
「売れるから!」
現実的だった。
その時。
「限定・湯上がりミルク味くださーい!」
「一人二個までー!」
行列が伸びる。
さらに。
観光客たちが普通に写真を描いていた。
「看板娘だ……」
「いや看板猫か?」
完全に名物化していた。
その時だった。
ズシン、ズシン。
巨大な影。
グーちゃんが現れる。
しかも当然のようにカヤの店前へ座った。
「来たな常連」
カヤが普通に温泉まんじゅうを渡す。
グーちゃんは、ふんす、と満足そうに鼻を鳴らした。
さらに。
後ろのヘルウルフ群れまで並び始める。
「魔狼が列形成してる……」
観光客がざわついた。
完全に日常になっている。
その時。
ミナが静かに店前へ来る。
「……甘い匂い」
「新作あるよ」
カヤが笑う。
ミナは小さく頷く。
すると周囲がざわついた。
「銀狼族だ……!」
「看板猫と銀狼族……」
「尊い……」
もはや観光スポットだった。
昼頃。
露店街中央。
カヤの店は、とんでもないことになっていた。
「最後尾こちらでーす!」
「列伸びすぎだろ!!」
ダンが叫ぶ。
しかも。
最近は別の問題まで起きている。
「カヤちゃんに会いに来ました!」
「看板猫グッズください!」
「サインください!」
「アイドル化してるぅ!?」
カヤ本人が一番困惑していた。
「なんで!?」
だが。
エルメリアは真顔だった。
「観光誘導効果です」
「そんな意味わからん分析はいらん!」
エルメリアは資料をめくる。
「現在、“カヤ露店通り”周辺の滞在率が谷内最高です」
「地名化するな!」
しかも。
周囲の店まで売上が伸びていた。
人が集まる。
露店増える。
さらに人が来る。
完全に経済効果である。
その時。
エルグランが静かに温泉まんじゅうを食べていた。
「……うまいな」
ゼルヴァディスも頷く。
「悪くない」
「王と魔王が食レポするな」
ダンがもう諦めている。
その時だった。
ブゥゥゥン……。
地下方向から、暖かな振動が響く。
カヤの店周辺へ、淡い青白い光が流れた。
「……え?」
次の瞬間。
露店街中央へ、新しい木造休憩広場が形成され始める。
「増築してるぅ!?」
地下施設がまた勝手に対応していた。
しかも。
カヤの店中心で。
「なんで私基準なの!?」
エルメリアが震える声で呟く。
「人気集中区域を、自動快適化しています……」
完全に観光都市AIだった。
さらに。
新広場中央へ、巨大な看板まで形成される。
そこへ浮かび上がった文字。
『おすすめ名物
温泉まんじゅう』
カヤが固まる。
「公式認定されたぁ!?」
周囲の観光客が歓声を上げた。
「名物だー!」
「買えぇぇ!!」
列がさらに伸びる。
ダンが遠い目をする。
「……谷、どこ向かってんだ」
その時。
ユウの脳裏へ、また声が響く。
『――観光満足度上昇。休息領域、安定拡大』
もう完全に温泉テーマパークだった。
そして。
地下遺跡最深部では、さらに新たな施設群が静かに形成され始めていた。




