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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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王の宣言

還らず温泉街。


最近の問題。


――人が増えすぎた。


「また馬車来たぞー!」


「北門側混雑してます!」


「露店通り詰まってるー!」


朝から大騒ぎだった。


観光客。


商人。


獣人。


魔族。


さらには王都貴族まで押しかけている。


完全に国家級観光地である。


しかも。


最近は別の問題まで起き始めていた。


「温泉街の利権を押さえろ!」


「地下遺跡を調査させろ!」


「危険区域として管理権を――」


王都側の一部貴族が動き始めたのだ。


当然だった。


地下遺跡。


異常な温泉。


膨大な集客。


利益。


放っておく理由がない。


その結果。


今朝から、温泉街入口では王都役人と現地側が揉めていた。


「だから調査権限を――」


「客の邪魔です」


セレディアが笑顔で遮る。


怖かった。


役人側が押されている。


その時だった。


ゴォォォォォ……。


空気が震えた。


皆が空を見上げる。


巨大な王国旗。


そして。


白銀の飛行艦。


「……来た」


ダンが顔を引きつらせる。


次の瞬間。


飛行艦から、一団が降り立った。


王国近衛騎士団。


高位文官。


王族護衛。


そして中央。


エルグラン本人だった。


周囲が一気に静まる。


観光客たちまで道を開けた。


エルグランは、静かに温泉街を見回す。


露店。


笑い声。


人族。


魔族。


獣人。


同じ空間で過ごしている光景。


その時。


ズシン。


巨大な影が近づく。


グーちゃんだった。


しかも当然のようにエルグランの横へ座る。


「王の隣に災害級魔物座るな」


ダンが呟く。


だが。


エルグランは気にしない。


むしろ普通に頭を撫でた。


「慣れたな」


「慣れるなよ……」


その時。


王都役人が慌てて前へ出る。


「へ、陛下! この地域は極めて危険です!」


「魔族との接触も増加しており――」


「地下遺跡も未解明で――」


だが。


エルグランは静かに遮った。


「……危険か?」


低い声だった。


空気が止まる。


エルグランは温泉街を見渡す。


露店で笑う子供たち。


湯上がりで眠そうな冒険者。


串焼きを食べる魔族。


昼寝するヘルウルフ。


争いの気配は薄い。


むしろ。


王都より空気が穏やかだった。


エルグランは静かに口を開く。


「余には、ここが危険には見えぬ」


役人たちが固まる。


その時。


ゼルヴァディスまで現れた。


当然のように。


「来ると思った」


ダンがもう諦めている。


魔王はエルグランの隣へ立つ。


完全に並んだ。


歴史的光景だった。


周囲の騎士団員たちが緊張する。


だが。


エルグランは動じない。


ゼルヴァディスも静かだった。


そして。


王は、ゆっくり宣言した。


「還らず温泉街を、王国正式保護区域とする」


空気が止まる。


「……は?」


ダンが固まる。


役人たちも絶句した。


エルグランは続ける。


「不当な干渉、武力介入、権利侵害を禁ずる」


静かな声だった。


だが重い。


王命だった。


「この場所は、“休める場所”として守られるべきだ」


温泉街全体が静まり返る。


その時。


ユウは、少しだけ目を見開いていた。


“休める場所”。


それは。


過去勇者が残した思想と同じだった。


その瞬間。


ブゥゥゥン……。


地下方向から、巨大な振動が響く。


温泉街全体へ、青白い光が流れた。


暖かい。


優しい光。


エルメリアが息を呑む。


「地下遺跡が反応しています……!」


空気が震える。


そして。


地下深部から、静かな声が響いた。


『――保護認識。共存領域、安定化』


ユウだけが、その声を聞いていた。


さらに。


地下遺跡最深部。


今まで閉ざされていた巨大区画の扉が、ゆっくり開き始める。


まるで。


“次の段階”へ進んだみたいに。

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