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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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魔族達


最近の問題。


――人が多すぎる。


「通れねぇぇ!!」


ダンの叫びが露店街へ響く。


観光客。


買い物客。


温泉目当ての冒険者。


獣人客。


そこへさらに、今朝から新たな集団が増えていた。


「……角、多くない?」


カヤがぽつりと呟く。


魔族だった。


露店街を歩く者たちの中へ、角持ちや魔力反応の強い者が目立つ。


しかも。


数人どころではない。


団体で来ている。


「本当に来たのかよ……」


ダンが頭を抱えた。


原因は当然、ゼルヴァディスである。


魔王本人が普通に通っているせいで、魔族領側にも噂が広まってしまった。


“魔王公認の温泉”


強すぎる宣伝だった。


その結果。


魔族観光客が押し寄せ始めた。



露店街。


「おお……!」


「これが“やわらぎの湯”……!」


「空気が柔らかい……」


魔族たちは、完全に観光テンションだった。


しかも意外と礼儀正しい。


以前なら人族側が警戒しただろう。


だが。


温泉街の空気が妙に穏やかなので、大きな揉め事にならない。


その時。


「串焼き一本どうですかー!」


カヤが普通に接客していた。


魔族客が少し緊張しながら串を受け取る。


数秒後。


「うまっ!?」


「だろ?」


普通に会話成立していた。


その隣では。


獣人客と魔族客が、温泉卵の食べ比べを始めている。


意味が分からない光景だった。


リーフェが遠い目をする。


「世界観変わってきてるわね……」


その時。


露店街奥から歓声が上がった。


「出たぁぁ!!」


「本物だ!!」


皆の視線が向く。


ズシン。


ズシン。


巨大な影。


グーちゃんだった。


しかも今日は、ヘルウルフ群れが護衛みたいについている。


魔族観光客たちが一気にざわつく。


「白銀の魔狼……!」


「災厄級では!?」


「近っ!?」


だが。


グーちゃんは、ふんす、と鼻を鳴らしただけだった。


そのまま露店街を通過する。


完全に地元大型犬扱いである。


「慣れてる住民怖ぇ……」


魔族客が引いていた。


ミナが静かに後ろから歩いてくる。


銀髪。


銀狼族。


さらにグーちゃん同行。


威圧感が凄い。


だが。


露店街の子供たちは普通に駆け寄った。


「ミナー!」


「グーちゃんー!」


「……ん」


ミナが小さく手を振る。


グーちゃんも、ふんす、と鼻を鳴らす。


魔族観光客たちが完全に固まった。


「え、あの魔狼、撫でられてる……」


「終わった世界だ……」


ダンが苦笑する。


「もう今さらだろ」



昼。


露天風呂。


魔族客たちは、完全に静かになっていた。


「…………」


「…………」


皆、無言で蕩けている。


温泉効果が強すぎた。


その時。


一人の鬼人族魔族が、小さく呟く。


「……肩が軽い」


別の魔族も目を見開く。


「魔力循環が安定している……?」


さらに。


「殺気が抜ける……」


空気が静まる。


魔族社会は実力主義だ。


常に警戒し。


強さを示し。


気を張って生きている。


だからこそ。


“やわらぎの湯”の異常な安心感は、強く刺さる。


その時だった。


「問題発生です!」


またエルメリアだった。


全員が嫌そうな顔をする。


「今度は何だ」


ダンが雑に聞く。


エルメリアは真顔だった。


「魔族側宿泊希望者が急増しています」


「まあそうなるわな」


「しかも定住希望率が高いです」


空気が止まる。


「また増えるのかよ!?」


エルメリアは資料を広げる。


そこには、新たな区域案が描かれていた。


『多種族共存居住区』


ダンが頭を抱える。


「とうとう街づくり始まった……」


その時。


地下方向から、暖かな振動が響いた。


ブゥゥゥン……。


温泉街全体へ、淡い青白い光が広がる。


魔族客たちが、一斉に目を見開いた。


「……落ち着く」


「ここ、変だ……」


「でも嫌じゃない……」


エルメリアが地下方向を見つめながら呟く。


「共存領域が拡張しています」


つまり。


人族。


獣人。


魔族。


それぞれが争わず過ごすほど、地下施設は反応している。


過去勇者が目指した“戦わない場所”。


それが、少しずつ本当に形になっていた。


その時。


ユウの脳裏へ、また微かな声が響く。


『――共存条件、達成率上昇』


そして地下遺跡最深部で、何か巨大な術式が静かに起動し始めていた。

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