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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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67 新館建設開始

還らずの谷。


朝。


“やわらぎの湯”前には、大量の資材が積み上がっていた。


木材。


石材。


魔導器具。


水路管。


さらには巨大な建築用ゴーレムまで並んでいる。


「……いや本当に始めるのか」


ダンが遠い目をした。


数日前。


エルメリアが勢いで出した“温泉街計画”。


普通なら冗談で終わる話だった。


だが。


王国と魔族領、両方が乗ってしまった。


結果。


国家規模プロジェクトになった。


「動き早すぎるだろ……」


カヤも引いている。


その時。


「当然ですわ」


エルメリアが巨大図面を抱えながら現れる。


完全にやる気だった。


「現在の宿泊率は既に限界を突破しています」


「限界突破って言うな」


「客室不足。浴場不足。休憩所不足。従業員不足」


「最後一番深刻だろ!」


実際、かなり危なかった。


最近は冒険者たちまで手伝い始めている。


完全に人手が足りない。


エルメリアは図面を広げた。


そこには巨大な建築設計が描かれている。


『やわらぎの湯・新館』


露天風呂増設。


大浴場。


休憩広間。


長期滞在区画。


さらには種族別調整浴場まである。


「いや旅館ってレベルじゃねぇぞ」


ダンが真顔になる。


その時。


ドォォォン!!


地面が揺れた。


「うおっ!?」


全員が振り向く。


そこには――。


巨大な岩を背負ったグーちゃんがいた。


「えぇ……」


しかも後ろには大量のヘルウルフ群れ。


全員、建築資材を運んでいる。


木材。


石材。


丸太。


完全に作業員だった。


ミナが小さく頷く。


「……手伝う」


「賢すぎるだろこの群れ」


カヤが呆然とする。


しかも。


妙に統率が取れていた。


グーちゃんが、ふんす、と鼻を鳴らす。


すると群れ全体が一斉に動き始める。


資材が綺麗に整列されていく。


「軍隊かよ」


ダンがツッコむ。


その時だった。


上空へ巨大な影が差した。


ゴォォォォ……。


風圧。


空気が震える。


全員が見上げる。


「……またか」


ダンが死んだ目になる。


空から降りてきたのはフェルザードだった。


しかも。


今日は完全に竜形態である。


巨大すぎた。


谷半分を覆う黒竜。


そのままゆっくり地面へ降り立つ。


ドゴォン!!


「揺れる揺れる!!」


カヤが叫ぶ。


フェルザードは巨大な金色の瞳で建築予定地を見る。


『狭いな』


「基準がおかしい」


『広げるか』


次の瞬間。


黒竜の巨大な爪が、谷の岩壁へ振り下ろされた。


ドォォォォォン!!


山が削れた。


「はぁぁ!?」


ダンが絶叫する。


岩壁が綺麗に切り開かれていく。


しかも異常に丁寧。


「え、待って上手くない?」


リーフェが引いていた。


フェルザードは当然のように追加で岩盤を削っていく。


巨大露天風呂予定地。


新館区画。


広場予定地。


全部、一瞬で地形整理された。


「重機いらねぇ……」


ダンが遠い目をする。


その時。


ゼルヴァディスまで現れた。


「空間固定を行う」


紫色の巨大魔法陣が展開される。


崩れかけた地盤が、一瞬で安定化した。


「国家戦力を建築に使うな!!」


誰も止められなかった。



昼頃。


建築は異常な速度で進んでいた。


冒険者たちまで参加している。


「温泉無料券くれるって聞いて!」


「働きます!!」


現金だった。


しかも士気が高い。


温泉効果が強すぎるせいで、皆やたら元気だった。


その時。


ユウは、少し離れた場所から建築風景を見ていた。


谷が変わっていく。


人が増えている。


笑い声がある。


争いも少ない。


不思議だった。


追放された時、自分には何も無いと思っていた。


でも今。


この場所には、人が集まっている。


ミナが、隣へ来た。


「……すごい」


「だな」


グーちゃんまで、ふんす、と満足そうに鼻を鳴らす。


その時だった。


ブゥゥゥン……。


地下遺跡方向から、微かな振動が響く。


ユウが振り向く。


エルメリアも同時に顔を上げていた。


「……主制御核?」


次の瞬間。


地下から、淡い青白い光が空へ伸びる。


空気が変わる。


エルメリアの表情が固まった。


「……新区域、解放されています」


ダンが嫌そうな顔をした。


「またイベント始まったぁ……」

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