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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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66 温泉客急増

地下遺跡騒動から数日後。


“やわらぎの湯”は、かつてないほど賑わっていた。


「満室ですー!!」


カヤの悲鳴が宿中へ響く。


食堂。


露天風呂。


客室。


どこを見ても人、人、人。


冒険者。


商人。


旅人。


さらには貴族まで居る。


しかも。


人族だけじゃない。


獣人。


魔族。


果ては大型魔物まで普通に温泉へ浸かっていた。


「いや増えすぎだろぉ!?」


ダンが叫ぶ。


完全に宿の処理能力を超えていた。


原因は当然、地下遺跡事件後の温泉強化だ。


“疲労回復が異常”


“魔力循環が整う”


“心が落ち着く”


そんな噂が、一気に広がった。


しかも王と魔王が普通に通っている。


説得力が強すぎた。


「また客来たぁぁ!!」


カヤが入口を見る。


さらに馬車が到着していた。


リーフェが遠い目をする。


「これもう完全に観光地化してるわね……」


実際そうだった。


還らずの谷。


かつて“危険地帯”と恐れられていた場所へ、今は人が集まっている。


しかも皆、争わない。


温泉へ入ると妙に落ち着くからだ。


その時。


食堂の隅で、エルグランとゼルヴァディスが普通に茶を飲んでいた。


「いや王と魔王が常連になるな」


ダンのツッコミも、最近はもう弱い。


エルグランは静かに茶を飲む。


「落ち着く」


「余も気に入った」


ゼルヴァディスまで完全に馴染んでいた。


その時だった。


ミシッ。


宿の床が嫌な音を立てる。


全員が止まる。


数秒後。


バキッ!!


「うわぁぁぁ!?」


食堂の椅子が壊れた。


座っていた大柄な冒険者が転がる。


「限界ですわね」


セレディアが真顔で呟いた。


実際、宿の規模が完全に足りていない。


客室不足。


風呂不足。


食材不足。


何より建物が狭い。


ダンが机へ突っ伏す。


「人増えすぎだろぉ……」


「嬉しい悲鳴だけどね」


リーフェは苦笑する。


その時。


ユウは露天風呂側を見ていた。


湯気の向こう。


温泉へ浸かっている客たち。


皆、穏やかな顔をしている。


笑っている。


休めている。


その光景を見ていると、不思議と胸が温かくなった。


その時だった。


エルメリアが、大量の紙束を抱えながら食堂へ飛び込んできた。


「計画があります!!」


嫌な予感しかしなかった。


「今度は何だ」


ダンが死んだ目で聞く。


エルメリアは机へ大量の図面を広げる。


そこには――。


巨大建築図。


水路拡張図。


宿増設案。


露天風呂群。


商店区画。


休憩広場。


そして。


でかでかと書かれた文字。


『還らず温泉街計画』


空気が止まる。


「…………は?」


エルメリアは眼鏡をきらりと光らせた。


「地下遺跡の水脈循環を利用すれば、谷全域へ温泉区画を拡張できます」


「待て待て待て」


ダンが止める。


だが止まらない。


「宿泊施設増設。共同浴場建築。温泉商店街形成。種族共存区画設計――」


「話がデカい!!」


カヤが叫ぶ。


エルメリアは真顔だった。


「既に“村”規模では収まりません」


その瞬間。


全員が静かになった。


確かに。


今の“やわらぎの湯”は、もう普通の宿ではない。


王も来る。


魔王も来る。


魔物まで集まる。


地下遺跡まで存在する。


もはや一施設では収まらない。


その時。


ゼルヴァディスが静かに口を開く。


「面白い」


嫌な予感が増えた。


エルグランまで頷く。


「王国側も支援可能だ」


「待てぇぇぇ!!」


ダンが叫ぶ。


国家規模の話になり始めている。


その時。


ミナが、ぽつりと呟いた。


「……賑やかになる」


グーちゃんも、ふんす、と鼻を鳴らす。


どうやら反対ではないらしい。


ユウは、図面を静かに見つめる。


温泉街。


皆が休める場所。


戦わない場所。


それはきっと――。


過去勇者が願った光景の、その先だった。


そして。


還らずの谷の新しい日々が、静かに動き始めていた。

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