65 温泉効果強化
地下遺跡から地上へ戻った時。
“やわらぎの湯”の空気は、明らかに変わっていた。
「……なんか、すごくない?」
カヤが露天風呂を見ながら呟く。
白い湯気。
柔らかな温泉の香り。
見た目は今までと変わらない。
だが。
空気そのものが、異常なほど心地いい。
ユウもすぐ違和感に気づいた。
「温泉の魔力が濃い……?」
エルメリアは露天風呂へ近づいた瞬間、完全に固まった。
「…………」
「また止まった」
ダンが呆れる。
だが次の瞬間。
エルメリアは勢いよく湯へ飛び込んだ。
「なんですのこれぇぇぇ!?」
「うるせぇ!?」
珍しく取り乱していた。
エルメリアは肩まで湯へ浸かりながら、ぶるぶる震えている。
「循環純度が桁違いです!!」
「分からん!」
「地下遺跡との接続安定で、温泉効果が数段階上昇しています!」
そっちの方がまだ分かった。
つまり。
温泉が強化された。
しかもかなり。
その時だった。
「……あれ?」
ダンが腕を見る。
地下遺跡で負った細かい傷。
それが、目に見えて薄くなっていた。
「治ってね?」
リーフェも驚く。
「回復速度が異常に速いわ……」
ミナは静かに湯へ浸かっていた。
そして。
「……眠い」
「いつもだろ」
カヤが突っ込む。
だが違った。
ミナの耳は完全に力が抜けている。
ヘルウルフたちまで、ふにゃっとした顔で湯へ浮かんでいた。
グーちゃんに至っては、完全に寝ている。
「効果強すぎない?」
カヤが引く。
エルメリアは真顔だった。
「精神安定効果が以前の三倍以上あります」
「怖ぇよ」
「しかも種族適応が進化しています」
「もっと怖ぇよ」
その時。
宿へ泊まっていた冒険者たちからも声が上がった。
「なんだこの温泉!?」
「疲れが一瞬で飛んだぞ!?」
「魔力回復速度おかしくないか!?」
騒ぎになっていた。
普段でも十分異常だった温泉が、さらに異常化している。
しかも。
皆、妙に穏やかだった。
本来なら喧嘩腰の冒険者同士まで、ぼーっと湯へ浸かっている。
「……争う気が失せる」
一人の冒険者が真顔で呟いた。
ダンが苦笑する。
「効果出すぎだろ」
その時。
エルグランとゼルヴァディスが露天風呂へ現れた。
当然のように入ってくる。
「いや王と魔王が普通に混浴来るな」
ダンのツッコミも、最近はもう弱い。
エルグランは湯へ浸かった瞬間、小さく目を見開いた。
「……これは」
ゼルヴァディスも静かに息を吐く。
「深いな」
そのまま二人とも黙った。
完全にリラックスしていた。
「歴史的瞬間だ……」
ダンが遠い目をする。
王と魔王が、同じ温泉で無言で癒されている。
意味が分からない光景だった。
その時。
ユウは静かに湯を見つめる。
温かい。
落ち着く。
地下遺跡で感じた空気と、同じだった。
“戦わない場所”。
過去勇者が残した思想。
それが今、本当に形になっている。
その時だった。
ブゥゥゥン……。
地下方向から、微かな振動が響く。
ユウが顔を上げる。
エルメリアも真剣な顔になった。
「……主制御核が反応しています」
「また暴走!?」
カヤが叫ぶ。
「いえ、違います」
エルメリアは地下方向を見つめた。
「今度は、“起動確認”です」
空気が静まる。
その瞬間。
ユウの脳裏へ、微かな声が響いた。
『――継承確認。第二段階へ移行します』
ユウが目を見開く。
誰にも聞こえていない。
だが確かに聞こえた。
そして。
地下遺跡のさらに奥。
まだ開かれていない領域で、何かが静かに動き始めていた。
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