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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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62 グーちゃん群れ総動員

地下遺跡最奥。


巨大魔力核は、徐々に安定を取り戻し始めていた。


暴走していた青白い光も落ち着き、水路の震えも少しずつ収まっている。


だが。


完全ではなかった。


ゴゴゴゴ……。


地下全体が、まだ不安定に揺れている。


エルメリアが険しい顔で魔力核を見上げた。


「……まだ足りません」


「何が?」


ダンが聞く。


「循環維持魔力です」


嫌な予感しかしなかった。


エルメリアは浮かび上がる水路図を指差す。


「谷全域制御モードが起動しています」


「だから専門用語!」


「今の施設は、“還らずの谷全体”を維持しようとしています!」


そっちの方が分かりやすかった。


つまり。


規模が大きすぎる。


巨大魔力核は、谷全体を制御しようとしている。


だが供給量が足りない。


結果。


無理矢理、自壊寸前まで稼働している。


ユウは歯を食いしばった。


「まだ整えきれない……」


流れは掴める。


だが。


維持するための力が圧倒的に不足していた。


その時だった。


グゥゥゥゥ……。


低い唸り声が響く。


全員が振り向く。


グーちゃんだった。


巨大な白銀の身体を揺らしながら、じっと魔力核を見つめている。


ミナが耳をぴくりと動かした。


「……呼んでる」


「え?」


次の瞬間。


グーちゃんが、大きく遠吠えした。


ウォォォォォン――!!


地下遺跡全体へ響き渡る咆哮。


空気が震える。


そして。


数秒後。


遠くから、いくつもの遠吠えが返ってきた。


「……は?」


ダンが固まる。


さらに。


ウォォォォン!!


ウォォォォォン!!


次々と響く咆哮。


地下だけじゃない。


谷全体から聞こえてくる。


リーフェが目を見開いた。


「まさか……」


その時。


地上方向から、大量の足音が響き始めた。


ドドドドドド……!!


カヤが青ざめる。


「な、なんか来てるぅ!?」


次の瞬間。


地下通路へ、巨大な影が現れた。


ヘルウルフ。


一匹ではない。


十。


二十。


さらにその後ろからも、次々現れる。


還らずの谷のヘルウルフ群れだった。


「うわぁぁ!?」


ダンが思わず叫ぶ。


普通なら災害そのもの。


街一つ壊滅してもおかしくない魔物の群れ。


だが。


ヘルウルフたちは襲ってこなかった。


全員、真っ直ぐ魔力核を見ている。


そして。


グーちゃんが前へ出る。


ふんす。


静かに鼻を鳴らした。


その瞬間。


群れ全体が、一斉に咆哮した。


ウォォォォォォン――!!


地下遺跡が震える。


次の瞬間。


ヘルウルフたちの身体から、淡い銀色の魔力が浮かび上がった。


「……え?」


エルメリアが目を見開く。


銀色の魔力は、水路へ流れ込み、巨大魔力核へ吸い込まれていく。


暴走していた光が、少しずつ落ち着き始めた。


「魔力供給してるのか!?」


リーフェが驚愕する。


エルメリアも信じられない顔だった。


「そんな……魔物側から自発的循環補助なんて……!」


普通、有り得ない。


だが。


ヘルウルフたちは自然にやっていた。


まるで。


この谷そのものを守るみたいに。


ミナが小さく呟く。


「……家だから」


空気が少し静まる。


この谷は。


ヘルウルフたちにとっても、“帰る場所”になっていた。


だから守る。


ただ、それだけだった。


グーちゃんが、ユウの隣へ来る。


巨大な頭を、ぽすっと軽く押し付けてきた。


「……手伝うって?」


グーちゃんは、ふんす、と鼻を鳴らした。


完全に肯定だった。


ユウは思わず笑う。


「頼もしいな」


その時。


巨大魔力核の光が、さらに安定し始めた。


ブゥゥゥゥン……。


暴走していた振動が止まる。


水路の流れも正常化していく。


エルメリアが息を呑んだ。


「循環率、急速回復……!」


ダンが呆然と呟く。


「……魔物に助けられてんのか、俺たち」


「今さらですわね」


セレディアが涼しい顔をする。


確かに今さらだった。


“やわらぎの湯”では、ずっとそうだった。


人間も。


魔族も。


魔物も。


同じ場所で過ごしている。


その時だった。


ブゥゥゥン……。


巨大魔力核の中心が、静かに発光する。


今までとは違う。


穏やかな光。


そして。


中央へ、青白い紋様が浮かび上がった。


エルメリアが目を見開く。


「……制御認証?」


「何だそれ」


「施設側が、“新しい管理者”を認識し始めています」


空気が止まる。


その瞬間。


巨大魔力核の光が、ゆっくりユウへ向いた。


まるで。


“選んでいる”みたいに。

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