61 ミナがユウを支える
地下遺跡最奥。
巨大扉は、半ばまで開いていた。
その奥から溢れ出す青白い光が、空間全体を激しく脈動させている。
ゴゴゴゴゴ……!!
地下遺跡そのものが揺れていた。
中央水盤は不安定に波打ち、水路を流れる温泉水まで発光している。
「急げ!」
ダンが叫ぶ。
このままでは、“やわらぎの湯”そのものが崩壊する。
全員が巨大扉の奥へ走った。
◇
扉の先。
そこは、さらに巨大な空間だった。
全員が思わず息を呑む。
「……なんだ、これ」
地下空間の中央。
巨大な球体が浮かんでいた。
青白い光を放つ、巨大魔力核。
無数の水路と術式がそこへ繋がっている。
まるで。
谷全体の心臓だった。
エルメリアが青ざめる。
「主制御核……!」
「つまり?」
「谷全域制御装置です!」
全然安心できない。
しかも。
その魔力核は激しく明滅していた。
不安定だ。
今にも暴走しそうだった。
ゴォォォォ……!!
空間へ膨大な魔力が吹き荒れる。
カヤが悲鳴を上げた。
「うわぁぁ!? 立ってられない!」
リーフェも結界を展開する。
「圧力が強すぎる!」
普通の人間なら近づくだけで吹き飛ばされそうな魔力。
だが。
ユウだけは、その核から目を離せなかった。
「……苦しんでる」
小さな声だった。
エルメリアが振り向く。
「え?」
ユウは、巨大な魔力核を見つめたまま呟く。
「流れが噛み合ってない」
地下遺跡全体が無理をしている。
循環が乱れている。
だから暴走している。
ユウには、それが感覚で分かった。
「整えれば……」
その時。
ドォォォォン!!
巨大な魔力波が炸裂した。
「っ!!」
ユウの身体が吹き飛びかける。
だが。
その瞬間。
ぎゅっ。
誰かが腕を掴んだ。
「……ミナ?」
ミナだった。
銀髪を揺らしながら、しっかりユウを支えている。
細い腕なのに、不思議なくらい力強い。
ミナは真っ直ぐユウを見た。
「無理しすぎ」
「でも――」
「一人でやらない」
静かな声だった。
だが強かった。
ユウは、一瞬言葉に詰まる。
追放されてからずっと、一人だった。
役に立たないと言われ。
居場所を失い。
自分だけで何とかするしかなかった。
でも。
今は違う。
ミナが居る。
仲間が居る。
その時。
グーちゃんがユウの隣へ来て、ふんす、と鼻を鳴らした。
さらに。
『支えるぞ』
フェルザードの低い声が響く。
ゼルヴァディスも静かに前へ出た。
「位相安定を行う」
エルグランが剣を抜く。
「周囲は抑える!」
ダンが笑う。
「結局総力戦じゃねぇか!」
「嫌ですの?」
セレディアが涼しい顔をした。
「いや嫌じゃねぇけど!」
空気が少しだけ軽くなる。
その時。
ミナが、そっとユウの手を握った。
温かい。
銀色の瞳が真っ直ぐ向けられる。
「……ユウなら出来る」
その一言が、不思議なくらい胸へ入ってきた。
ユウは、小さく息を吐く。
そして。
ゆっくり前へ出た。
巨大魔力核の前。
吹き荒れる魔力。
暴走寸前の循環。
だが。
怖くなかった。
一人じゃないから。
ユウは静かに核へ手を伸ばす。
「水質変化――」
次の瞬間。
柔らかな波紋が、巨大魔力核全体へ広がった。
ブゥゥゥゥン!!
地下遺跡が激しく発光する。
「来るぞ!」
ダンが叫ぶ。
膨大な魔力が一気に逆流した。
だが。
今度のユウは倒れなかった。
ミナが支えている。
皆が支えている。
ユウは歯を食いしばりながら、流れを整えていく。
暴れる魔力。
乱れた水脈。
噛み合わない循環。
それを少しずつ、“落ち着かせる”。
戦う力じゃない。
壊す力じゃない。
ただ。
乱れたものを整える力。
それがユウのスキルだった。
そして。
巨大魔力核の光が、少しずつ安定し始める。
エルメリアが息を呑んだ。
「循環が……戻ってる……!」
暴走していた光が、ゆっくり穏やかになっていく。
水路の震えも止まった。
地下遺跡全体へ、静かな温かさが戻り始める。
その瞬間だった。
ブゥゥゥン……。
巨大魔力核の中心へ、文字が浮かび上がる。
古代文字。
青白い光。
そして。
そこへ刻まれていた一文を見た瞬間。
エルメリアの目が見開かれた。
「……継承者?」
空気が止まる。
ユウだけが、静かに光を見つめていた。
まるで。
過去勇者が、自分を見ているみたいだった。




