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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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59 ユウ、水路再調整

“やわらぎの湯”全体が、不安定に揺れていた。


露天風呂。


食堂。


客室。


宿中の温泉水が、青白く明滅している。


熱湯になったかと思えば急激に冷える。


湯気も乱れ、水路からは異常な魔力が逆流していた。


「うわっ熱っ!?」


「今度冷たっ!?」


避難していた客たちが慌てて距離を取る。


リーフェが結界を展開しながら叫んだ。


「水路全体が暴走してる!」


エルメリアも険しい顔で地下方向を見る。


「地下遺跡の循環制御が不安定化しています!」


「つまり!?」


「谷全体が連動して暴走寸前です!」


全然安心できない説明だった。


ゴゴゴゴ……!!


再び地面が揺れる。


源泉から熱湯が吹き上がる。


グーちゃんまで低く唸っていた。


その時。


ユウが、水路をじっと見つめた。


「……まだ止まってない」


「何が?」


ダンが聞く。


ユウは静かに答える。


「流れ自体は生きてる」


不安定だ。


だが完全崩壊ではない。


つまり。


まだ調整できる。


ユウは深く息を吐いた。


「水路を整えれば戻せるかもしれない」


エルメリアが目を見開く。


「可能なんですか!?」


「分からない。でもやるしかない」


その瞬間。


ミナが即座にユウの隣へ立った。


「守る」


グーちゃんも、ふんす、と鼻を鳴らす。


完全に護衛態勢だった。



地下遺跡。


中央水盤。


青白い魔力が、脈打つように暴走している。


複雑な水路全体へ光が走り、空間そのものが震えていた。


「うわぁ……」


カヤが顔を引きつらせる。


「完全にヤバいやつじゃん」


「見れば分かる」


ダンも真顔だった。


中央水盤の水が、不規則に渦巻いている。


しかも。


谷全体と繋がる水路へ、異常な魔力が流れ込んでいた。


エルメリアが青ざめる。


「循環位相がズレています……!」


「専門用語やめろ!」


「流れが噛み合ってません!」


そっちの方が分かりやすかった。


その時。


ユウがゆっくり中央水盤へ近づく。


空気が震えている。


普通の人間なら近づくだけで吹き飛ばされそうな魔力圧。


だが。


ユウだけは、不思議と恐怖を感じなかった。


むしろ。


“どう整えればいいか”が、感覚的に分かる。


ユウは静かに水盤へ手を触れた。


瞬間。


ブゥゥゥゥン!!


地下遺跡全体が発光する。


「!?」


全員が息を呑む。


大量の水路図が空中へ浮かび上がった。


谷全域。


温泉。


地下水脈。


魔力循環。


全てが繋がっている。


ユウの瞳へ、その流れが一気に流れ込んできた。


「っ……!」


頭が熱い。


情報量が多すぎる。


だが。


分かる。


どこが乱れているのか。


どこを戻せばいいのか。


ユウは歯を食いしばった。


「水質変化――」


静かな声。


次の瞬間。


水盤へ、柔らかな波紋が広がる。


暴れていた魔力が、ほんの少し静まった。


「落ち着いた!?」


リーフェが目を見開く。


だが。


次の瞬間。


ドォォォン!!


さらに大きな魔力逆流が発生する。


「ぐっ……!」


ユウの身体が揺れる。


ミナが即座に支えた。


「ユウ!」


「まだ……足りない」


地下遺跡そのものが巨大すぎる。


谷全体と繋がっている。


一人で制御するには規模が異常だった。


その時だった。


フェルザードが静かに前へ出る。


『流れを支える』


次の瞬間。


黒竜の魔力が空間へ広がった。


凄まじい圧力。


だが破壊的ではない。


暴走する水脈を押さえ込むように、巨大な魔力が周囲を安定させていく。


ゼルヴァディスも静かに手をかざした。


「位相固定」


紫色の魔法陣が展開される。


暴れていた光が、わずかに安定した。


「今です!」


エルメリアが叫ぶ。


ユウは再び水盤へ集中する。


流れ。


温度。


魔力。


全部を“整える”。


戦う力じゃない。


壊す力でもない。


ただ。


乱れた流れを戻す。


それがユウの力だった。


「……戻れ」


静かな声と共に。


水盤へ広がる波紋が、地下遺跡全体へ伝わっていく。


暴走していた光が、少しずつ穏やかになった。


水路の震えが止まる。


逆流していた魔力が、正常な流れへ戻り始める。


そして。


数秒後。


――すぅ……。


地下空間から、張り詰めた圧力が消えた。


静寂。


中央水盤には、穏やかな温泉水だけが静かに揺れている。


誰もすぐ声を出せなかった。


やがて。


ダンが呆然と呟く。


「……止めたのか?」


エルメリアも信じられない顔だった。


「循環が……正常化しています……」


ユウはその場へ座り込む。


一気に力が抜けた。


ミナがすぐ隣へしゃがみ込む。


「……大丈夫?」


ユウは苦笑した。


「ちょっと疲れた」


その時。


ブゥゥゥン……。


再び、巨大扉の奥が淡く発光する。


全員の視線が向いた。


だが今度は違う。


暴走ではない。


まるで。


“認めた”みたいな、静かな光だった。

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