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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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58 源泉異常発生

地下遺跡から戻った翌朝。


“やわらぎの湯”は、妙な静けさに包まれていた。


「……ぬるい?」


最初に気づいたのはカヤだった。


露天風呂へ足を入れた瞬間、首を傾げる。


「いつもより温度低くない?」


ダンも湯へ手を入れる。


「あー……確かに」


ほんの少し。


だが確実に違う。


いつもの柔らかい熱が弱い。


しかも。


温泉特有の落ち着く感覚まで薄れていた。


その時。


ミナが静かに耳を動かす。


「……変」


銀色の瞳が、源泉方向を向いた。


ユウもすぐ異変へ気づく。


「魔力循環が乱れてる」


空気が少し張り詰める。


エルメリアが湯へ触れた瞬間、表情が変わった。


「……地下です」


「は?」


「地下遺跡側の流れが変化しています」


その瞬間だった。


ゴゴゴゴ……。


低い振動が宿全体を揺らした。


食堂の皿がかたかた鳴る。


「うおっ!?」


カヤが飛び跳ねる。


次の瞬間。


露天風呂の湯が、ぶわりと大きく波打った。


「なっ……!?」


さらに。


ボコボコボコッ!!


源泉が異常噴出を始めた。


熱湯が吹き上がる。


白い蒸気が一気に広がった。


「下がれ!!」


ダンが叫ぶ。


客たちが慌てて避難する。


グーちゃんまで低く唸り声を上げていた。


ユウは源泉へ駆け寄る。


「ユウ!」


リーフェが止める。


だがユウは、湯へ手を触れた瞬間、顔色を変えた。


「……暴れてる」


「何が!?」


「水脈と魔力循環」


温泉の流れが乱れている。


しかも。


地下遺跡側から、異常な魔力が逆流していた。


エルメリアが青ざめる。


「遺跡の一部が起動した影響です……!」


「起動って何だよ!?」


「恐らく防衛機構か循環制御!」


全然安心できなかった。


ゴゴゴゴ……!!


再び地面が揺れる。


次の瞬間。


地下方向から、青白い光柱が一瞬だけ噴き上がった。


「うわぁっ!?」


カヤが悲鳴を上げる。


温泉水が、まるで呼吸するみたいに脈打っていた。


熱い。


冷たい。


熱い。


不安定に変化している。


リーフェが顔をしかめる。


「このままだと源泉そのものが壊れるわ!」


空気が凍る。


源泉が壊れれば、“やわらぎの湯”そのものが終わる。


ユウはすぐ立ち上がった。


「地下行く」


「待て!」


ダンが止める。


「危険すぎる!」


「でもこのままだと温泉が死ぬ」


静かな声だった。


だが迷いは無かった。


ミナが、すぐユウの隣へ立つ。


「行く」


グーちゃんも、ふんす、と鼻を鳴らす。


完全に同行する気だった。


エルグランが低く口を開く。


「……原因は地下遺跡か」


「ほぼ確実です」


エルメリアが頷く。


「現在、谷全体の魔力循環が不安定化しています」


ゼルヴァディスも静かに目を細めた。


「放置は危険だな」


その時だった。


ドォォン!!


地下方向から、今までで最大の振動が響いた。


同時に。


宿全体の温泉水が、一斉に青白く発光する。


全員が息を呑む。


そして。


ユウだけが気づいた。


――“呼ばれている”。


地下のさらに奥。


巨大扉の向こう側から。


何かが、自分を待っている。


ユウは静かに拳を握った。


「……止める」


その声に。


ミナが静かに頷く。


白い湯気が激しく揺れる中。


“やわらぎの湯”始まって以来、最大の異常が発生していた。

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