表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/75

52 古代文字

地下遺跡へ続く石階段は、青白い光に照らされていた。


壁面へ刻まれた古代文字が淡く発光し、水路を流れる温泉水の音だけが静かに地下空間へ響いている。


「……すげぇな」


ダンが思わず呟く。


還らずの谷の地下。


しかも温泉の真下に、こんな巨大な遺跡が眠っていたなど誰も想像していなかった。


先頭を歩くのはユウだった。


その後ろをミナが静かについていく。


さらにダン、リーフェ、カヤ。


エルグランとゼルヴァディスまで当然のように同行していた。


「いやなんで本当に来てんだよ王と魔王」


ダンが頭を抱える。


「興味がある」


エルグランは真顔だった。


「余もだ」


ゼルヴァディスも落ち着いた声で頷く。


「慣れてきた自分が嫌だ……」


ダンは遠い目をする。


その時。


グゥゥ……。


グーちゃんが低く鼻を鳴らした。


巨大な身体を揺らしながら、通路の奥をじっと見つめている。


「どうした?」


ユウが聞く。


するとミナが耳をぴくりと動かした。


「……落ち着く匂い」


「匂い?」


「温泉と同じ」


確かに。


地下なのに空気が冷たくない。


むしろ、地上の露天風呂と同じ柔らかな暖かさが漂っていた。


まるで谷全体の温泉が、この地下から呼吸しているみたいだった。


やがて一行は、巨大な円形空間へ辿り着く。


全員が思わず足を止めた。


「……なんだこれ」


中央には巨大な水盤。


そこへ複雑な水路が幾重にも繋がっている。


天井近くには青白い魔石灯。


壁一面へ刻まれた古代文字。


そして床には、巨大な紋様が広がっていた。


リーフェが息を呑む。


「これ……古代文明級よ」


「分かるのか?」


「少しだけ。でも異常だわ」


リーフェは壁面へ近づき、文字へ触れる。


「保存状態が良すぎる」


確かにそうだった。


数百年、あるいはそれ以上昔の遺跡なら風化していておかしくない。


だがこの場所は違う。


今なお機能し続けている。


水路には温泉水が流れ。


魔力が循環し。


空気そのものが穏やかだった。


その時だった。


ユウが壁面へ近づく。


不思議と、引き寄せられる感覚があった。


古代文字など読めない。


だが。


触れた瞬間。


ブゥゥゥン……。


壁面全体が淡く発光する。


「!?」


空気が震えた。


次の瞬間。


床の紋様へ光が走り、水路全体へ魔力が流れ始めた。


「うおっ!?」


カヤが飛び退く。


ダンも思わず剣へ手をかけた。


だが敵意は感じない。


むしろ。


空気がさらに穏やかになっていく。


温かい。


安心する。


肩の力が自然に抜けるような感覚。


ミナが小さく目を細めた。


「……好き」


グーちゃんまで、ふぅ……と気持ちよさそうに鼻を鳴らしている。


その時。


壁面の古代文字が、一斉に青白く浮かび上がった。


だが。


誰にも読めない。


「なんて書いてあるんだ……?」


ダンが顔をしかめる。


文字は複雑だった。


見たこともない形状。


しかも部分的に崩れている。


リーフェも真剣な顔で見つめる。


「古代精霊語に近いけど……違う」


「読めないのか?」


「断片なら少し。でも全部は無理ね」


空気が静かになる。


すると。


フェルザードが壁面を見ながら、ぽつりと呟いた。


「……懐かしい魔力だ」


全員が振り向く。


「知ってるの?」


ユウが聞く。


フェルザードは少しだけ目を細めた。


「遥か昔。ここへ来た人間がいた」


静かな声だった。


「戦い続け、疲れ切っていた男だ」


地下空間へ、水音だけが響く。


「だが、妙な男だった」


「妙?」


「強さにも、名声にも興味を示さなかった」


フェルザードは壁面の文字を見上げる。


「ただ、“休める場所が必要だ”と繰り返していた」


ユウは小さく息を呑む。


その時。


ゴゥゥン……。


遺跡奥から、再び重い音が響いた。


全員の視線が向く。


円形空間のさらに奥。


閉ざされていた巨大扉が、ゆっくり開き始めていた。


そして。


その隙間から流れてきた空気は――。


今までよりさらに深く、優しかった。


ダンが顔を引きつらせる。


「いや絶対ヤバいってこれ」


「同感ね……」


リーフェも珍しく警戒を隠さない。


巨大扉の奥は暗い。


だが。


そこから流れてくる魔力だけは異常なほど穏やかだった。


ユウは静かに奥を見つめる。


不思議だった。


怖さよりも、“呼ばれている”感覚の方が強い。


だが。


エルグランが低い声で口を開いた。


「……今日はここまでだ」


空気が少し変わる。


ダンが振り向く。


「王?」


「情報が少なすぎる」


エルグランは冷静だった。


「不用意に奥へ進むべきではない」


ゼルヴァディスも静かに頷く。


「余も賛成だ」


「珍しく意見合ったな……」


ダンがぼそりと呟く。


するとフェルザードも小さく鼻を鳴らした。


「今の状態では危険性が読めん」


珍しく全員の意見が一致していた。


未知すぎる。


この遺跡は、ただの地下施設ではない。


谷全体へ繋がっている。


温泉そのものと連動している。


そして。


まだ“奥”が存在している。


リーフェが壁面の文字を見上げながら言った。


「……まず解読ね」


「読める奴いるのか?」


ダンが聞く。


「古代術式級なら、専門家が必要よ」


その言葉に、ゼルヴァディスが静かに目を細めた。


何か考えているようだった。


だが今は何も言わない。


ユウは最後にもう一度、巨大扉の奥を見る。


暗闇。


温かな空気。


静かな水音。


そして。


どこか懐かしい感覚。


まるで。


ずっと前から、この場所が誰かを待っていたみたいだった。


やがて一行は、静かに地上への階段を引き返し始める。


青白い古代文字だけが、誰も居なくなった地下遺跡で静かに光り続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ