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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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51 温泉地下遺跡発

“やわらぎの湯”の地下から、奇妙な音が聞こえたのは早朝だった。


ゴゴゴ……。


低く重い振動が、温泉宿全体をわずかに揺らす。


「……地震?」


食堂で朝食の準備をしていたレインが顔を上げる。


カヤは尻尾を逆立てた。


「いや絶対なんかあるって!」


その頃。


露天風呂では、グーちゃんがゆっくり顔を上げていた。


巨大な耳がぴくりと動く。


ミナも静かに立ち上がる。


「……下」


銀色の瞳が、温泉の源泉方向を見ていた。


ユウはすぐ外へ出る。


白い湯気。


流れる温泉。


だがその中央――源泉近くの岩盤が、わずかに崩れていた。


ゴゴ……。


再び低い音。


次の瞬間。


バキバキッ!!


岩盤の一部が崩れ落ちる。


「うわっ!?」


ダンが慌てて飛び退く。


崩れた岩の下。


そこには、人工的な石階段が現れていた。


空気が止まる。


「……は?」


カヤが目を丸くする。


階段は地下深くへ続いていた。


しかも。


壁面には古代文字のような紋様が刻まれている。


リーフェがゆっくり目を細めた。


「これ……かなり古いわよ」


その時。


フェルザードが静かに階段を見下ろす。


珍しく表情が変わっていた。


「……ほう」


「知ってるの?」


カヤが聞く。


だがフェルザードはすぐ答えなかった。


代わりに、小さく息を吐く。


「いや。だが……この魔力は覚えがある」


空気が少し張り詰める。


その時だった。


「面白そうだな」


聞こえた声に全員が振り向く。


エルグランだった。


「興味深い」


ゼルヴァディスまで居た。


「なんで居るんだよ王と魔王!」


ダンが叫ぶ。


最近もうツッコむ気力も減ってきていた。


エルグランは真顔だった。


「朝風呂だ」


「魔王も!?」


「余もだ」


「帰れ!」


だが二人とも帰る気配はゼロだった。


むしろ興味津々で階段を見ている。


その時。


グーちゃんが階段前へ移動する。


くんくん、と匂いを嗅いだ後。


ふんす。


「行く気満々だこれ」


カヤが呟く。


ミナも静かに頷いた。


「……危なくない」


「分かるの?」


「ん。嫌な感じしない」


ユウは崩れた入口を見つめる。


不思議だった。


怖さより、“呼ばれている”感覚が強い。


特に源泉から流れてくる温泉の気配が、地下へ繋がっているように感じる。


ユウは静かに壁へ触れた。


その瞬間。


ブゥゥゥン……。


壁面の紋様が淡く光る。


「!?」


全員が目を見開く。


古代文字が青白く発光し、水の流れるような魔力が通路全体へ広がっていく。


リーフェが息を呑んだ。


「反応した……?」


ユウ自身も驚いていた。


だが同時に、どこか自然だった。


まるで。


この場所が、自分を待っていたみたいに。


その時。


ゴゴゴゴ……。


地下奥からさらに大きな振動が響く。


そして。


階段の先、暗闇の奥で――巨大な扉が、ゆっくり開き始めた。


空気が変わる。


流れてきたのは、温かな風。


そして。


今まで感じたどの温泉よりも、深く穏やかな魔力だった。


ダンが乾いた声を漏らす。


「……いや絶対ヤバいやつだろこれ」


だが。


誰も、その場を動かなかった。


むしろ。


白い湯気の奥から流れてくる“何か”へ、全員が静かに引き寄せられていた。

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