職人と研究者の結晶
超大型温泉スプリンクラーの構想がまとまったその日の午後、やわらぎの谷では戦いと工事が同時に進んでいた。
谷の入口では、グラディウスとバルグレイを中心とした防衛線が、押し寄せる黒い霧の魔獣たちを必死に食い止めている。
セレディアとリーフェが広がろうとする瘴気の流れを抑え、ヴァルトとグーちゃん、それにヘルウルフたちは森の側面へ回り込んだ魔獣を次々と迎え撃つ。
ダンやガレスたち冒険者も、崩れそうになった場所があればすぐに駆けつけ、王国兵や魔王軍兵と肩を並べて穴を埋めていた。
その少し後方では、まったく別の意味で激しい戦いが始まっていた。
「そこの管をあと半刻で繋げるぞ! 固定具が足りん! 鍛冶場から使えるものを全部持ってこい!」
ドグランの怒鳴り声が工事現場に響く。
近くで作業していた職人が思わず聞き返した。
「全部って、予備までですか!」
「予備を残して谷がやられたら意味がない!」
「分かりました!」
ドワーフの職人たちが一斉に走り出す。
人間の大工も魔族の技師も、その後を追うように動いた。
巨大な温泉管を数人がかりで運び、地面へ太い杭を打ち込み、圧送装置の土台を組み上げていく。
天界分館を作った時に余った神銀樹の部材や、空中湯樋用に準備していた耐熱金具まで倉庫から次々と運び出され、広場だった場所は見る間に大規模な工事現場へ変わっていた。
前線から戻ってきたダンは、その光景を見て思わず足を止める。
「……昨日までここ、普通の広場だったよな?」
ドグランは振り返りもしない。
「昨日まではな!」
「じゃあ今は何なんだよ!」
「工事現場だ!」
ダンは少し離れた場所で続いている戦闘を指差した。
「戦場のすぐ後ろで言う台詞じゃねぇ!」
しかし、ドグランよりさらに異様な集中力で作業を続けている者がいた。
エルメリアだった。
普段なら古代魔法の資料や魔導書を静かに読み込んでいる『冥書』の四天王だが、今は長い髪を邪魔にならないよう後ろで束ね、両手を黒く汚しながら魔導板へ次々と術式を書き込んでいる。
「圧力制御陣、第二系統まで完成。第三系統は温泉魔力との干渉が出てるから配列を変える」
ドグランが図面を覗き込んだ。
「どのくらい変える?」
エルメリアは指で魔導回路の一角をなぞる。
「ここからここまで全部」
ドグランが一瞬止まった。
「ほとんどじゃねぇか!」
「このまま最大圧力まで上げたら、魔力が逆流して管が破裂する」
今度こそドグランは黙る。
ほんの数秒だけだった。
「……全部変えるぞ!」
ダンが思わず叫んだ。
「判断早っ!」
「破裂するって聞いて、そのまま使う馬鹿がいるか!」
「それは正しい!」
工事が始まってから、すでにかなりの時間が経っていた。
それでもドグランもエルメリアも休もうとしない。
作業台の端には、レインが用意した食事がほとんど手をつけられないまま冷え始めており、カヤが持ってきた飲み物も半分以上残っていた。
その様子を見たユウが、さすがに心配そうに声をかける。
「二人とも、一回休んだ方がいいんじゃない?」
エルメリアは魔導板から目を離さない。
「今休んだら計算の流れが切れる」
「忘れるわけじゃないでしょ」
「忘れなくても、頭の中で組んでる順番が崩れる」
その横でドグランも太いボルトを締めながら答える。
「こっちも同じだ。手を止める方が気持ち悪い」
ダンは二人を交互に見る。
「これ、不眠不休で突っ走る奴が言う典型的な台詞じゃない?」
ユウも少し困った顔になる。
「温泉入った方がいいよ」
その言葉に、二人の手がほんの一瞬だけ止まった。
だが、すぐに作業が再開される。
「完成したら入る」
「私も」
ダンが額を押さえた。
「この谷で『温泉は完成後』って言う奴が出るとは思わなかったよ!」
もっとも、二人がそこまで急ぐ理由ははっきりしていた。
前線から届く報告では、黒い霧の魔獣は減るどころか少しずつ数を増やしている。
温泉水を桶や樽で撒けば確かに浄化できるが、人力ではどうしても広がる霧に追いつかない。
しかも未踏領域の奥からは、今も新しい瘴気が流れ込み続けている。
このまま時間が延びれば、敵より先に防衛側の体力が尽きる。
だからこそ、広範囲へ大量の温泉水を一度に散布できる装置が必要だった。
ドグランはユウが最初に描いた図面へ新しい線を加えながら、低く唸る。
「……やっぱり、スプリンクラー方式だけじゃ弱いな」
ユウが聞く。
「弱い?」
「普通に上から撒くだけなら、防衛線の周辺を守ることはできる。だが、あれだけの瘴気を押し戻すには圧が足りん」
エルメリアも横から計算を書き込む。
「私も同じことを考えてた。浄化するだけなら霧状散布でいい。でも前線よりさらに外まで届かせるなら、もっと強い噴射が必要」
ダンが嫌な予感を覚えた。
「……何をしようとしてる?」
ドグランとエルメリアがほとんど同時に顔を上げる。
「撃つ」
「撃つ?」
ダンの眉が寄る。
「何を?」
今度はエルメリアが答えた。
「温泉を」
数秒、誰も喋らなかった。
ダンはゆっくりユウを見る。
「お前のスプリンクラー、砲台になるらしいぞ」
ユウも少し驚いていた。
「そんな予定じゃなかったんだけど」
「だろうな!」
そこから設計は、さらに大きく変わった。
中心となるのは、源泉から直接引き込んだ太い温泉管。
そこへユウが【水質変化】で瘴気の浄化に適した状態へ調整した湯を送り込み、ドグランが組み上げた三段式の圧送装置で圧力を高める。
さらに最後の噴射部分へ、エルメリアが組み上げた古代魔法の増幅術式を重ねる。
エルメリアは魔導板を示しながら説明した。
「温泉水そのものの量を増やすわけじゃない。湯に含まれている精神安定と魔力安定の性質を、噴射する瞬間だけ広げるの。そうすれば一度の噴射で浄化できる範囲が大きくなる」
前線から一度戻ってきたリーフェが設計図を見て眉を寄せる。
「それ、魔法的にはかなり無茶してない?」
エルメリアは即答した。
「かなり」
「即答なのね」
「でも理論上は動く」
するとドグランも横から言った。
「物理側も理論上は耐える」
ダンが二人を見る。
「なんで両方『理論上』なの?」
誰も答えなかった。
「そこ黙るなよ!」
工事はそのまま夜まで続いた。
前線では松明が灯され、その向こうから魔獣の咆哮と武器のぶつかる音が絶え間なく聞こえてくる。
工事現場でも、金槌の音が途切れることはなかった。
カン、カン、と金属を打つ音が夜の谷へ響く。
職人たちは交代で短い休憩を取りながら作業を続けたが、ドグランとエルメリアだけは最後まで同じ場所に立ち続けていた。
「第三圧送装置、固定完了!」
「魔導回路、接続!」
「源泉側の管、来るぞ!」
巨大な温泉管が持ち上げられる。
十人以上の職人が声を掛け合いながら支え、最後の接続部分へ慎重に合わせていく。
ドグランが自分の手で固定具を締め上げた。
「よし!」
その隣ではエルメリアも最後の術式を書き終える。
淡い紫色の光が魔導板から流れ出し、装置全体へ魔法陣が広がっていった。
完成したものは、もはや誰が見てもスプリンクラーではなかった。
谷の入口へ向けられた大きな砲身の後方には、源泉へ繋がる複数の温泉管が伸びている。
さらに圧力を生み出す大型装置が三基並び、その周囲には魔力を安定させる複雑な術式が刻み込まれていた。
カヤが見上げて呟く。
「……でっかい」
ミナも隣で見上げながら聞いた。
「温泉出る?」
ドグランが胸を張る。
「出るぞ。しかも、とんでもない勢いでな!」
ダンは砲身を眺めた。
「これ、本当に風呂の設備?」
ドグランが即答する。
「違う!違うんだ!これは……」
ドグランは少し考え、妙に誇らしげに言った。
「大噴泉撃退砲だ!」
ダンが固まる。
「誰が名前つけた?」
エルメリアが静かに手を上げた。
「私」
「お前!?」
「超大型温泉スプリンクラーでは、今の形に合わないでしょう」
「だからって砲にするなよ!」
カヤはすっかり気に入ったらしい。
「大噴泉撃退砲! いいじゃん!」
「また名前だけ先に定着する!」
ユウも装置を見上げながら感心したように頷く。
「でも分かりやすいよ」
「ユウまで!」
そんなやり取りをしていた時だった。
前線から、一人の騎士が全力で駆け込んでくる。
「大型の群れが来ます!」
その一言で、空気が変わった。
誰もが一斉に森へ目を向ける。
黒い霧の奥で、いくつもの巨大な影が動いていた。
これまで一体ずつ現れていた大型種が、今度は横に並ぶように複数迫っている。
さらにその後ろにも、赤黒い光が何十と浮かんでいた。
地響きが少しずつ大きくなる。
大型魔獣が一歩進むたび、森の木々が揺れた。
前線からグラディウスの声が響く。
「正面防衛線、後退! 陣形を組み直せ!」
王国兵と魔王軍兵が少しずつ下がる。
だが、それは余裕のある後退ではなかった。
大型種の前脚が地面へ叩きつけられるたびに土が跳ね、瘴気がその隙間から押し寄せてくる。
「左翼、下がりすぎるな!」
「右翼、霧が回り込むぞ!」
怒号が飛ぶ。
バルグレイが大剣を振り抜きながら叫んだ。
「砲の前を空けろ! 射線へ入るな!」
兵士たちが左右へ散っていく。
開かれた一本の道の先で、大噴泉撃退砲の砲口が黒い森を真っ直ぐ捉えた。
ダンが装置と前線を交互に見る。
「いきなり実戦投入かよ……」
ドグランはすでに操作台へ立っていた。
「試射している時間はない」
先ほどまでの勢いのある声とは違い、低く真剣な声だった。
エルメリアも隣へ並び、魔導回路へ両手を置く。
「試したことのない最大出力で撃つことになる」
ダンが顔を引きつらせた。
「待て。試したことないの?」
ドグランは前を見たまま答える。
「小型の圧送試験はした」
「この砲身では?」
「初めてだ」
「帰っていい?」
「駄目だ」
「だよな!」
軽口を叩いていても、誰も笑わなかった。
前方で大きな衝撃音が響く。
一体の大型種が王国兵の盾列へ激突し、何人もの騎士がまとめて後ろへ押し飛ばされた。
「防衛線が持たんぞ!」
グラディウスが叫ぶ。
バルグレイも大型魔獣の頭部へ大剣を叩き込みながら振り返った。
「完成したなら早く撃て!」
ドグランの手が操作盤へ伸びる。
だが、まだ発射できない。
「ユウ、湯の調整!」
「やってる!」
ユウは源泉から送り込まれてくる湯へ両手を添えた。
【水質変化】を発動する。
湯に含まれている穏やかな魔力が、少しずつ濃くなっていった。
人を傷つけるための力ではない。
怒りを静め、疲れを癒やし、乱れた魔力を整えるためのもの。
その性質だけを限界まで引き上げていく。
エルメリアの前に浮かんだ術式が次々と反応した。
「浄化濃度、上昇……まだ足りない」
ユウがさらに集中する。
温泉管の中を流れる湯が淡く光り始めた。
「これなら?」
エルメリアが数値を追う。
「……届いた。維持して!」
「分かった!」
ドグランが計器へ手を伸ばす。
「第一圧送装置、起動!」
低い唸りが響き、装置全体が震え始めた。
「第一、安定!」
「第二を入れる!」
続いて別の圧送装置が動き始める。
ゴウン、と腹へ響くような音が広場を揺らした。
太い温泉管がわずかに膨らむ。
ダンがそれを見て一歩下がった。
「管、膨らんでない?」
ドグランは計器から目を離さない。
「許容範囲だ!」
「本当に!?」
「今のところは!」
「後半いらなかった!」
エルメリアが第三系統の魔導陣を起動する。
淡い紫色だった術式が青白く変わった。
「第三圧送、準備!」
その時、装置の内部から、ぎしっ、と嫌な音が響いた。
全員の動きが一瞬止まる。
ダンがゆっくり装置を見る。
「……今、何か鳴ったぞ」
ドグランも聞いていた。
エルメリアも同じだった。
二人ともすぐには答えない。
「おい」
ドグランは固定具を確認する。
「接続部は持ってる」
エルメリアも魔法陣へ視線を走らせる。
「魔力逆流なし。まだいける」
「『まだ』って言ったよな!?」
その時、前線から悲鳴が上がった。
一体の大型魔獣が防衛線を半ば突破し、黒い角を振り回しながらさらに谷側へ突っ込んできていた。
グラディウスとバルグレイが二人がかりで進路を逸らす。
それでも止まりきらない。
その後ろからは、さらに二体、三体と次が続いている。
「距離、あと百!」
見張り役の声が響く。
「九十!」
地響きが近づく。
黒い霧が防衛線の隙間から谷側へ流れ込み始める。
カヤが思わずミナの前へ立ち、グーちゃんも低く唸った。
「八十!」
ダンの顔から完全に笑みが消える。
「ドグラン」
「分かってる!」
「七十!」
ドグランは第三圧送装置へ手をかけた。
「第三、起動!」
圧力が跳ね上がる。
砲身全体が大きく震え、地面へ打ち込まれた支柱まで軋み始めた。
白い湯気が砲口から漏れ、その周囲でエルメリアの魔法陣が何重にも展開する。
「圧力八十……八十五……」
エルメリアが数値を読み上げる。
「九十!」
ダンが叫ぶ。
「上げすぎじゃない!?」
「これ以下だと前線まで届かない!」
ドグランが返す。
「九十三!」
温泉管の震えがさらに強くなる。
一か所の固定具が軋み、職人の一人が慌てて押さえ込んだ。
「固定具、持たせろ!」
「やってる!」
「九十五!」
エルメリアの額に汗が浮かぶ。
魔導回路の一部が不規則に明滅した。
「第三系統、少し乱れてる!」
「止めるか!?」
ドグランが聞く。
エルメリアは前線を見る。
大型魔獣はもう目前まで迫っていた。
「……止めたら間に合わない!」
「分かった!」
即答だった。
ダンが二人を見て叫ぶ。
「こういう時だけ意思疎通良すぎるだろ!」
だが、今は誰も笑えなかった。
見張りの声がさらに近くなる。
「五十!」
グラディウスとバルグレイが後退する。
王国兵も魔王軍兵も、砲の射線から必死に左右へ退いた。
その中央を、巨大な魔獣たちが瘴気を引き連れながら真っ直ぐ進んでくる。
「四十!」
砲口から立ち上る湯気が急激に増え、周囲が白く霞んだ。
ユウは温泉管へ触れたまま目を閉じ、【水質変化】を維持している。
エルメリアは魔導陣を押さえ込み、ドグランは操作レバーから手を離さない。
「三十!」
カヤが息を呑む。
ミナも何も言わず、前方を見つめている。
「二十!」
ここまで来れば、もし発射に失敗したら次はない。
巨大な魔獣がこのまま突っ込めば、完成したばかりの装置ごと工事現場を踏み潰す。
その後ろにあるのは、やわらぎの谷だった。
宿も、食堂も、大浴場も、露店街もある。
これまで皆で作ってきたものが、そこにある。
ドグランが最後に一度だけ計器を見る。
「圧力、最大!」
エルメリアが魔導陣を確認した。
「増幅術式、安定!」
「ユウ!」
ユウが目を開く。
「大丈夫!」
前線からグラディウスの声が響く。
「射線、開いた!」
続いてバルグレイも叫ぶ。
「撃て!」
それでもドグランは、すぐにはレバーを倒さなかった。
ほんの一秒。
装置の震え。
地面を揺らす足音。
圧送機の低い唸り。
砲口から噴き出す白い湯気。
すべての音が重なる。
その時だけ、ダンには周囲が妙に遠く感じられた。
成功する保証はない。
この出力で撃つのは初めてだ。
管が破裂するかもしれない。
魔導回路が焼き切れるかもしれない。
それでも撃たなければ、防衛線が崩れる。
ドグランは前を見た。
瘴気の向こうから迫る巨大な影が、もうはっきりと見えている。
そして低く言った。
「……行くぞ」
巨大な操作レバーを握り直す。
「大噴泉撃退砲――」
一気に押し倒した。
「発射!」
次の瞬間。
腹の底まで震わせる轟音が、谷全体へ響き渡った。
砲身が大きく後ろへ揺れ、大量の白い湯気が爆発するように広がる。
そして大噴泉撃退砲から、巨大な温泉の水柱が撃ち出された。
白い奔流は一直線に走り、先頭の大型魔獣へ激突する。
じゅううううっ、と凄まじい音が戦場を覆った。
瘴気が次々と白い蒸気へ変わり、魔獣の身体を覆っていた黒い膜が一気に剥がれていく。
その奥に隠れていた赤黒い核までが、温泉の魔力に包み込まれた。
ダンが目を見開く。
「……効いてる!」
水柱はそこで終わらない。
ドグランが砲身の角度を動かすと、噴射された温泉が横薙ぎに戦場を走った。
地面を這っていた瘴気も、狼型の魔獣も、熊型も、角を持つ大型種も、触れた端から黒い膜を剥がされて白い湯気へ変わっていく。
カヤが思わず叫んだ。
「すごーい!」
リーフェも呆れ半分に笑う。
「本当に温泉を撃ってる……」
セレディアまで珍しく目を丸くしていた。
一方で、バルグレイだけは豪快に笑う。
「気に入った! 俺にも撃たせろ!」
グラディウスが即座に止めた。
「絶対に駄目だ!」
「何故だ!」
「お前が撃ったら谷まで水浸しになる!」
「加減くらいできる!」
「信用できん!」
ダンが額を押さえる。
「さっきまで命懸けだったのに、完成した瞬間から別の問題が発生してるじゃねぇか!」
そんな騒ぎを聞きながら、ドグランとエルメリアは一度だけ顔を見合わせた。
二人とも目の下には濃い疲労が浮かび、服も手も煤や油で汚れている。
それでも、大噴泉撃退砲から放たれる白い水柱を見つめる顔には、同じ種類の満足感があった。
職人たちが積み重ねてきた技術。
エルメリアが持つ古代魔法の知識。
ユウの【水質変化】。
天界分館を建設したことで得た圧送技術。
そして、人間、魔族、ドワーフ、天使まで含めた谷中の職人たちが持ち寄った材料と経験。
そのすべてを短い時間の中で一つにまとめ上げたものが、目の前の装置だった。
まさに、職人と研究者たちによる突撃工事の結晶だった。
ドグランが大きく息を吐く。
「……よし」
エルメリアも操作盤へ手をついたまま、小さく頷いた。
「動いた」
その言葉を聞いたユウが笑う。
「じゃあ、温泉入って休めるね」
二人は一瞬だけ黙り、今度は素直に頷いた。
「……そうする」
「さすがに眠い」
ダンが思わず叫ぶ。
「やっと自覚したのかよ!」
その間にも、大噴泉撃退砲は瘴気を白い湯気へ変えながら、押し寄せていた魔獣たちを次々と前線の外へ押し返していく。
剣でも魔法でも完全には消せなかった脅威。
それに対抗するため最後に形になったものは、最強の兵器でも伝説の魔法でもなかった。
谷中の技術と知識をかき集め、不眠不休で組み上げられた巨大な温泉の噴射装置だった。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、
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