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異世界温泉宿 ~使えないスキルと言われた俺、秘境の谷で温泉を作ったら人も魔物も通う場所になった~  作者: 堺久遠


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閑話 ユウを追放したパーティーの気持ち

ユウがパーティーを離れてから、数日が経っていた。


王都から少し離れた森の中を、三人の冒険者が歩いている。


戦士のガレス。


魔法使いのセシル。


僧侶のフィア。


少し前までなら、そこにはもう一人いた。


「……」


ガレスは何も言わず、先頭を歩いている。


今回の依頼はゴブリンの討伐だった。


すでに巣は片づけている。


怪我人もいない。


三人だけでも、戦闘そのものに問題はなかった。


ガレスが前衛を務め、セシルが後方から魔法を放ち、フィアが回復と援護を担当する。


むしろ戦闘だけを考えれば、以前より動きやすいくらいだった。


ユウを守るために注意を割く必要もない。


敵が増えた時に、彼の逃げ道を確保する必要もない。


だからあの判断は間違っていなかった。


少なくとも、ガレスはそう考えていた。


「少し休みましょう」


フィアの声で、三人は足を止めた。


木陰へ腰を下ろし、ガレスが水筒を取り出す。


喉が渇いていた。


一口飲んだところで、僅かに眉を寄せる。


「……まずいな」


「どうしたの?」


セシルが振り返る。


「少し土臭い」


水筒の中を見る。


昨日、途中の川で汲んだ水だった。


煮沸はしてある。


飲んでも問題はないはずだ。


だが、以前ならこうなることはなかった。


『ちょっと貸して』


ユウはいつもそう言って、水筒を受け取っていた。


【水質変化】


それを使えば、濁りも匂いも消えていた。


水温まで飲みやすい程度に整えられ、戻ってきた水は驚くほど飲みやすくなっていた。


『はい。これなら大丈夫』


本当に、それだけのことだった。


ガレスたちも、それを特別なことだと思ったことはない。


「……便利だったわね」


セシルが小さく呟く。


ガレスは答えなかった。


フィアも何も言わず、水筒を見つめている。


森の中を風が抜けていく。


葉が揺れ、その音だけが静かに響いた。


その日の夜,三人は森の外れで野営していた。


焚き火の上では、簡単なスープが煮えている。


「……少し苦いですね」


フィアが器を口元から離した。


ガレスも飲んでみる。


確かに苦い。


薬草を入れすぎたらしい。


「食えないほどじゃない」


「そうね」


セシルもそう言いながら、もう一口飲む。


だが誰も、美味しいとは言わなかった。


以前なら、食事を作っていたのはユウだった。


干し肉や山菜,そして固いパン。


使える食材はいつも限られていた。


それでもユウは、それなりに食べられるものを作っていた。


「ユウさんなら、もう少し上手く作ってましたね」


フィアが呟く。


「料理が得意だっただけだろ」


ガレスが答える。


「そうですね」


フィアは少しだけ笑った。


それ以上は何も言わなかった。


焚き火が静かに揺れている。


ガレスは脇に置かれた荷物へ目を向けた。


ロープ、薬草、予備の水袋、火打ち石。


以前は、出発する前に必要なものがすべて揃っていた。


道具が傷んでいれば交換されていた。


薬草が減っていれば補充されていた。


水袋に穴が開いていれば、いつの間にか直されていた。


誰がやっていたのか。


考えるまでもない。


ユウだった。


飲み水の管理。


野営地の整備。


食事の準備。


荷物の確認。


どれも魔物を倒す力ではない。


前線で敵を止めることもできない。


だから、高難度の依頼へ進むほど、ガレスたちは戦える力を求めるようになった。


ユウの【水質変化】では、仲間を守れない。


敵を倒すこともできない。


何より、戦闘が激しくなるほど、今度は自分たちがユウを守らなければならなくなる。


いつか守り切れなくなる。


そう考えた。


だから追放した。


『お前は悪くない。だが、この先へ連れて行けば死ぬ』


あの時に告げた言葉は、本心だった。


嫌いだったわけではない。


邪魔だと思っていたわけでもない。


長く一緒にいた仲間だからこそ、この先へ連れて行くべきではないと思った。


ただ、結果として、ユウは一人になった。


「……あいつ、今どこにいるんだろうな」


ガレスが焚き火を見ながら呟く。


フィアが顔を上げた。


セシルは少し考えてから答える。


「町にはいないみたいよ」


「いない?」


「宿も引き払ったって聞いたわ」


ガレスの表情が僅かに変わる。


するとフィアが、少し迷った様子で口を開いた。


「門番の人が見たそうです」


「何を?」


「ユウさんが、一人で東へ向かうところを」


その言葉で、三人の間に沈黙が落ちた。


東。


王都から東へ進めば、やがて迷いの森へ辿り着く。


そして、そのさらに奥にあるのが還らずの谷だった。


王国の地図にも詳しい記載がない危険地帯。


熟練の冒険者ですら、迷いの森から戻れなくなることがある。


その奥には、災害級と呼ばれる魔物まで生息していると言われていた。


「……まさか」


ガレスは低く呟く。


胸の奥に、重いものが落ちたような感覚があった。


追いかけるべきなのか。


だが、追いついたとして何と言えばいい。


戻ってこい。


そんなことを言える立場ではない。


自分たちから外したのだ。


ユウも、それを受け入れた。


ガレスは焚き火へ視線を落とした。


「……馬鹿だな」


小さく漏れた言葉が、夜の森へ消えていく。


誰に向けた言葉なのか。


自分でも分からなかった。


ただ、


三人とも、その夜はいつもより口数が少なかった。


ユウは戦えなかった。


それは今でも変わらない。


けれど、何もしていなかったわけではなかった。


むしろ、いなくなってから気づくことの方が多かった。


そして、この時の三人はまだ知らない。


ユウが無事に迷いの森を抜けたことを。


還らずの谷で、白い湯気を立ち上らせる温泉を見つけたことを。


そして役立たずと言われた【水質変化】を使いながら、少しずつ自分の居場所を作り始めていることを。

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