森の異変
朝の森は静かだった。
木々の間から柔らかな光が差し込み、風が桜を揺らしている。
鳥の鳴き声と、小川の流れる音だけが聞こえる。
だが――
「やっぱり変だな」
足元を見ながら、そうつぶやいた。
「何が変なの・・・?」
僕の一歩後ろを歩くアリスが困惑した表情で聞く。
その声は震えており、昨日の、魔物の足跡が増えていることを気にしているようだ。
「これ」
そんなアリスに僕は地面を指差した。
生き物の足跡。それも形的に魔狼だろう。
それも1匹じゃない。
10体ほど、それも一匹めちゃくちゃでかいのがいる。
この森に魔物がでないことはないが、個々が弱く、対処が簡単だ。
でも、この魔狼たちは群れで、且つここまで大きい個体がいるのは初めてだ。
「・・・ちょっと奥まで行ってみようかな」
「えぇ・・・?!やめようよ!」
「危なそうならすぐ戻るよ。今なら近くに魔物はいないみたいだし」
「本当・・・?」
「僕は嘘つかないよ」
「・・・たしかに」
怖がっていたアリスが、少し笑顔を浮かべる。
それにつられて、自然と僕も心が和む。
周囲を警戒しつつ、僕らは森の奥へと進んでいった。
森の奥は、少し空気が違った。
木々が密集し、光も少ない。
風も弱い。
「これって・・」
アリスが指をさす。
刺された方向には、倒れた木があった。
それも、普通に倒れたのではない。
爪の跡のような傷がついている。
傷ついた木に触れる。
鋭い爪で切り裂かれており、生身で食らったら重症だろう。
「・・・静かだな」
「え?」
先ほどから周囲の音を聞いているが、鳥の声がしない。
虫の音もない。周囲の生物が減っている。
ガサ――。
茂みが揺れ、生物の足音が聞こえる。
「な、なに・・?!」
アリスは肩をビクつかせ、僕の後ろへと隠れる。
耳を澄ませる。
茂みが揺れた方向からは、軽い四足歩行の生物の足音がする。
血肉を食らう獣より軽い。おそらく草食の生き物。
数秒後、茂みから飛び出してきたのは、鹿だった。
鹿は、一瞬僕らを見ると、すぐ森の奥へと走っていった。
鹿が走ってきた方向から、寒気を感じた。
本能が死を主張する。
明確な殺意。それも、1つじゃない。複数の魔狼が僕らを見ている。
微かに低い唸り、白色の牙が光っていた。
数匹が僕らを囲おうと動き始めている。
「山を降りるよ。魔狼に囲まれかけてる。」
そう言ってアリスの手を引っ張る。
「わ、わかった」
アリスは少し困惑の表情を見せながらも、首を縦に振った。
下山途中、森の影の中、無数に光る赤い目が僕らを捉え、低く唸っていた。
下山後、僕らは森での出来事を父さんら大人に報告し、大人数名と僕らで村長の家へ話し合いへ向かった。
「魔狼の群れか・・・。こりゃ俺たちじゃ対処しきれねぇな・・・。」
戦える大人は50人程しかいなかった。
ご高齢の方や女性が多い村で、子供も20人程度。
小さな村では限界があった。
「僕も戦うよ」
そう、父さんに提案をしてみたが、
「ダメだ。魔物のレベルによってはお前じゃ無理だ」
とダメ出しされた。
魔狼は大人3人分の力を有しており、この村の周囲では魔狼を見かけることはなかった。
「王国から騎士を要請しよう。往復で6日。それまで持ちこたえればいい」
誰かがそう提案し、みな、賛同した。
「伝達は俺に任せてください」
そう名乗り出たのはアリスのお父さんだった。
「パパ・・・・」
「大丈夫だよ。今日はママと一緒にレイ君の家に泊めてもらいなさい」
悲しそうな表情を浮かべるアリスの頭をなでている。
「馬を用意してください。なるべく全速力で騎士の方々を呼んできます」
そこからの流れは速かった。
村の食糧と、水、村長が書いた騎士団への要請状を持ったアリスのお父さんが村を去った。
その背中を見送り、村のみんなは家へ帰ってゆく。
僕と父さんはアリスを一度家へ送り、アリスのお母さんとアリスの2人を連れ家へ帰った。




