英雄の物語
僕とアリスは今、村長さんの家へ向かっている。
理由は、アリスの魔法が暴発し、井戸が吹き上がったことを謝罪にいくためだ。
「それにしても、井戸が吹き上がるってなにしたの?」
僕はそう聞くと、アリスはまたそっぽを向いて答えた。
「・・・水魔法の練習。うまく行ったと思ったけど・・・」
「爆発したのか」
「・・・噴水みたいに沸き上がった」
その言葉に僕は思わず笑ってしまった。
「ははっ。それ村長許してくれないかもな」
「うぅ・・・」
悔しそうに声を漏らすアリス。
アリスは僕より魔力が多い。
・・・いや、この村でアリスに勝てるほどの魔力を持った人はまず見たことない。
村にある学校で魔法の授業を受けた時だって、校庭にクレーターのような穴を2つ作ったぐらいだ。
「まぁでも、威力だけなら王都の冒険者よりも強いだろ」
アリスは少し照れたように笑った。
「レイの斧みたいなものかな」
「僕の斧?」
アリスにそう言われ、肩に担いでいた斧を見た。
鉄の刃にしっかりとした木の柄。
特別な装飾はない、どこにでも置いてある普通の斧だ。
毎日手入れしているが、どこか年季を感じる。
「私の魔法よりすごく頼りになるよ」
「っていっても普通の斧なんだけどね」
「暴発する魔法よりかは頼りになるでしょ?」
「・・・確かに」
アリスと話しながら村長の家まで歩く。
途中、すれ違った人や畑を作業している人からの冷たい視線を浴びながら、僕らは目的地に着いた。
木造建築の古い民家、庭には花壇が設置され、季節の花が咲き誇っていた。
中でも、気になったのが、光の反射によって色が変わって見える不思議な花だ。
「あ、今は春だからスターローズが咲いてるよ」
アリスが、先ほどの色が変わって見える花を指差す。
「へぇ。スターローズって綺麗だね。」
花の知識を持ち合わせていない僕は、アリスが言ったすたーろーずという花を知らない。
ただ、綺麗だということは分かった。
「おぉ来ておったのか」
花に水をやりに来たのか、水が満タンに入ったバケツを抱えている村長が出てきた。
頭が太陽の光を反射しており、存在感を際立たせている。髪の代わりに髭を手入れしているのか、髭がさらさらだ。
「アリスちゃんとレイが来たってことはまた暴発でもしたか」
村長が呆れながら頭を抱える。
「す、すみません」
「ごめんなさい村長」
アリスと僕は村長に頭を下げる。
これで村長に頭を下げたのは6回目だ。
「はぁ・・・。罰としてお前らには毎度恒例の物語を聞かせてやろう」
村長はそう言って不気味に微笑む。
それに比例して、僕らは青ざめてゆく。
村長の物語。
それは、3英雄についての物語を永遠かと錯覚するほど長く聞かされる。
一種の拷問である。
村長に手招きされ、お茶と少々の菓子が出される。
「70年前、儂が20だった頃、魔王とその軍勢に世界全土が襲われた」
村長の話は長いが、そこまで嫌いじゃない。
何回聞いてもわくわくする。
「魔物は今よりもずっと多く、人間奥には次々と滅ぼされていった。だが、その時現れたのが三英雄だったんじゃ」
「剣聖グリス・モンディオン様、大魔術師ベイル・フィオレ様、大弓術士アリオ・イースト様のたった3人で何千万という魔王軍と魔王を討ったのじゃ。」
村長は三英雄の雄姿を見たことがあるらしく、数十年たってなお、事細かくその時の情景を覚えているそうだ。
「剣聖グリス様の神速斬撃は、瞬きしたら100万以上の軍が倒されててのぉ」
「大弓術士アリオ様は数本の矢を無造作に打ってての。最初は何やってんだと思ったんじゃが、数秒後その矢達が大爆発じゃ。」
「そして、大魔術師ベイル様。攻撃を食らってなお進行を続ける魔王軍らに治癒魔術をかけたんじゃ。
人には癒しを与える治癒魔術は、魔物には毒じゃった。それが魔王を倒す王手になったんじゃ」
村長の話が終わった。
約二時間の英雄の話は長いようで短く、何度聞いても飽きず、面白い。
あんまり長居しても迷惑なので、僕らは村長の家を出ることにした。
「今度、村にでかい穴開けたらただじゃおかんからのぉ!」
「気を付けまーす!」
村長にお礼と短い挨拶を交わして来た道を歩く。
物語の感想を言いながら歩いていると、森の方から微かな音が聞こえる。
「・・・?」
歩みを止め、森を見つめる。
見えるのは木だけ。
足音に近い音が複数。
木こりか?
でも、それにしては重い・・・。
「レイ?」
アリスが僕の顔を覗き込む。
「あ、ごめん。・・・なんでもない行こ」
胸がざわつく。
森が少しだけ騒がしい
その日の夕方、
村の木こりの一人が、森から戻ってきて言った。
「・・・おかしい」
村人たちが顔を上げる。
木こりは青い顔でつづけた。
「森に魔物の足跡が増えてる」
静かな村に、少しだけ不安な空気が流れた。




