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捨てられ貴族と山暮らしの少年  作者: 花鶏
§ カイル・ブレア §
30/39

仕事を投げ出した人たちは


 翌日、倉庫の樽の位置は指示どおりに整理されていた。


「そっちじゃねぇ!」


 疲れた顔の作業員たちに、ジョックが怒鳴りながら指示を飛ばしている。

 そんな中、へとへとのマルコが戻ってきた。


「色紐とペンキ、集めてきました……」

「よし。箱に色タグ、荷物に色紐つけてこう。

 これで字が読めなくても仕分けができるようになる」


 カイルは差し入れの揚げパンを配るために全員を集め、自分もそれにかぶりつく。


「箱に色タグをつけて、指示書から、それに詰める荷物に同じ色の紐を結んでって」


 これなら字が読めなくても動ける。人を募るハードルがぐっと下がる。


「知り合いに相談したら、二十人くらいなら今日集められるって。

 なんも知らないやつらが来るから、詰め方も教えてあげて。

 初め大変だろうけど、ごめんね」


 昨日ヘイミッシュを探し出して頼んだ頭数だ。

 できるだけ堅気っぽい人材を頼んだが、どんなのが来るかは未知数だ。


「……ちょっとガラ悪かったりタチ悪かったりするかもしれない。

 なんかあったらすぐ連絡ちょうだい」


 薄いエールで揚げパンを流し込んで、カイルは倉庫番に指針の走り書きを渡す。


「はい。とりあえず一ヵ月、これでやってみて」

「……もし、他のお偉方に何か言われたら?」

「俺が決めたって言えばいい」


 倉庫番はもうひとつ、言いづらそうに質問した。


「昨日帰っちまったやつら、もうすぐ出てくると思うが……あいつらはどうするんだ。減俸か」

「あいつらは、もういいよ」

「え」

「金を貰う意味の分からないやつらは、もう来なくていい」


 騒がしかった倉庫が、一瞬、水を打ったように静まり返った。



 マルコとふたりで商会へ向かう道を歩く。

 昨日は日中に荷運びを手伝ったうえ、夜までヘイミッシュを探してうろうろしていたので、どうしても足取りが疲れている。


 早く帰って昼寝しよう、と欠伸を噛み殺すカイルに、マルコが提案してきた。


「保管もですけど、運び方も見直した方がいいかもしれませんね。

 海運と陸運ではコツが違う。うちのルートで食糧を運ぶの、初めてでしょう。

 気圧のこととかも考慮しないと」

「ああ、なるほど。……詳しいね?」

「子どもの頃に実家で手伝ってました。

 うちで働くようになってから、随分違うもんだと驚いて……たぶん、緩衝材もあった方がいいす」

「緩衝材かぁ……また金ががかかるなぁ」


 どうしてこんな仕事を海運部門でとってしまったのだ。


「うちが取引してる造船所でさあ、おが屑を捨ててるだろ?

 あれでいいんじゃないか?

 衝撃を吸うし、断熱にもなる。

 処理場よりここの方が近いし、処分してやるって言えば、きっと欲しいだけくれるよ」

「やってみましょう」


 それから少しの間黙っていたマルコが、視線を外して低く言う。


「……ブレアさん、けっこう、ちゃんと厳しいとこもあるんすね……」

「え?」

「いや、あんまり、クビを切るとかしないタイプかと」


 予想もしなかったことを言われ、カイルは首を傾げる。


「え? さっきの?

 だって、働かないのにお金貰えるの、おかしくない? どこが厳しい?」


 マルコが残念な生き物を見るような顔をする。


 どういうことだろう。


「いや、病気とか怪我なら、もちろん治ったらまた雇うよ?

 余裕があれば、少しくらいお見舞金も出す」

「……や、そうなんですけど」

「え? だって、お金を貰うために働くんでしょ?

 働かないなら、貰えないでしょ?」

「……そっすね」


 言い募ってみたが、マルコからそれ以上の説明は得られなかった。



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