◆ おばあちゃんどっか行くの?
みんなの不穏な空気を肌で感じたのか、孫のレイが不安げに聞いてきた。
「おばあちゃん、どっか行くの?」
「あっ…… レイ」
私は司祭を見て
「 無理無理無理無理! 断固無理! かわいい孫を放って置いて、何日も家を空けることなんて出来ないわ!」
司祭は人差し指を、私の目の前でチッチッチっと振ってきた。
「ふふん、大丈夫だよ、ジェネル。国王様が安心して旅立てるように、レイの両親の仕事都合をつけてくれたんだよ。むしろレイには両親に、たくさん甘えられる良い機会だと思うよ」
ーーくそ!おばあちゃんは所詮、実の親には敵わないってか!
「それに…… この先でスタンピードの原因を探って、元を立たないと…… 大切なレイもこの村もいずれ破滅するかもしれないよ」
司祭はいつもとは違う…… やる時はやる感を出してジェネルを説得する。
ーー破滅…… それって……
ジェネルは司祭の態度にイラッとはするが……
ーーレイと大切な村を守る…… !?
気づくと、もう…… それだけで心が決まっていた。おばあちゃんは孫には弱いのよ!
ーーレイを守るです… そう、大切なレイと、レイが暮らすこの村を守らなきゃ!!
いつの間にか私は拳をギュッと握りしめていた。
覚悟を決めた私だけど、チートの仲間たちを見渡した。
「あっ、えーと、みんな。…… 私、レイも村も…… もうちょっと頑張って、この王国も守りたいと思う。…… ただ、〈チート〉を授かって、まだ三ヶ月でしょ。みんなの邪魔になるかもしれないし…… あまりというか、全然強くないと思うけど…… それでも良いのかな?」
私の恐る恐るの発言をみんな真剣に聞いてくれる。
司祭も…… 今日初めて会った、チートの仲間たちも…… みんな口元には笑みが溢れている。
勇者フォールが元気よく励ます!
「隣の国に行く間に、腕を磨けば良いじゃん!みんなで助けるよ!ね、おばさん」
私はつい、コメカミをピクピクした。
「あーあと、それね。私は、レイだけのおばあちゃんなの! おばさんとかおばあちゃんとか言われたくないわ! 仲間なんでしょ? 私…… 仲間達からは、ジェネルさんと呼んで欲しいわ!よろしくね」
こういう強引なところが、おばさんなのだが…… コレも本人は気づいていない。
「おっ…… おお。了解、ジェネルさん」
「うん。これから、よろしくね。じゃあ荷物の準備とかしないとね。いつ出発?」
司祭は笑顔で話す。
「なるべく早い方が良いな。明日の早朝に出よう。今日はゆっくり休んでくれ。それじゃみんな明日からよろしく頼みます」
みんな大きく頷き、お互いを励ますように目配せをするのだった。
その日の晩、ジェネルの部屋からは、何やらブツブツと、何かをつぶやく声がしばらく聞こえていたとか、いないとか……
次の日の早朝、いつもなら絶対に爆睡中のレイがママのスカートに隠れるようにして目に涙を溜めて私を見つめていた。
「おばあちゃん、行かないで…… おばあちゃん」
私はウルッとくるけど…… 手がレイを抱えてあげたいと、わきゃわきゃするけど…… でも、そんなレイを守るために行くんだから…… ここで留まる訳にはいかない。
少し震える手で、レイの頭をそっと撫でた。
「レイ、大好きなレイ。おばあちゃん、少し旅に出るけど、帰ってくるまでに…… レイにお土産話をたくさん見つけてくるからね。帰ったら寂しかった分、たくさんお話しようね。良い子で…… じゃないな…… 元気で待っていてね…… ね?レイ」
「おばあちゃん、帰ってくる?」
ん? 死ぬ可能性もあるんだっけ? 急にそんなことが…… 今更浮かんできたけど……
「うん。レイ、ちゃんと帰ってくるから…… パパとママとお家のお留守番、お願いね」
レイはジェネルの言葉を聞き漏らさないように目を逸らさずに見ている。
「うん。分かった…… 」
なんて、小さく返事をするから、私はやっと安堵の息を吐いた。
「お母さん、どうか、気をつけて…… 絶対無事に帰ってきてくださいね。レイと待っていますから」
世間では嫁姑問題がうるさいけど、うちの息子…… 良い嫁もらったなぁ〜と思う。
うしろ髪引かれる思いで、私は勢いよく扉を開けて、徒歩15歩の隣の司祭の家に向かった。
「みんな揃った?」
「それが闇使いのフォンセと風使いのフレがまだ来ていません」
聖女ソレイエが律儀に点呼をとっている。 普段から、司祭の秘書的な役割が染み付いているから仕方ない。
「あ、ゴメン、言ってなかったね。2人は先に様子を探るため、昨夜すでに出発したんだ。だからこの7人で出発するよ」
「「「ハイ!」」」
なんか、みんな慣れている感じだけど、私は生まれて初めて村を出るし、勇者パーティーの仲間たちみたいな固い絆はまだ無いし、それに青臭い感じが50歳のおばさんには小っ恥ずかしいわ。
今のハイ!っていう返事も実は一番声が小さかった。
村を出て半日すると、森が開けたところで川もそばにある事だしと、チートご一行様はここで休む事にした。
(ブツブツブツ…… )
実は村を出てからこの間、時折ジェネルはとっーても小さな声でブツブツ呟いていた。
本人だけが無言だと思っている。
メンバーの一同、気づいていたが何だか怖いのでみんな知らぬフリをしていた。
おばさんの独り言は無駄な迫力があるようだ。
ジェネルは頼まれてもいないのに、得意の料理を振る舞う。
スープとパンの簡易的なメニューだが、伊達に年を食った訳じゃない。
みんな一口食べては、言葉を失う旨さにスプーンの手が止まらない。
「凄い!おばさん美味い!」
ジェネルの『おばさん呼び禁止』を忘れた残念な勇者フォールに向かって
「「「ジェネルさん!でしょ!」」」
と、気を遣って水使いのカインと聖女ソレイエに緑使いのハキムが揃って合唱してくれた。
私は今の合唱に加わっていなかった、1人に的を絞って声をかけた。
「賢者サージュ!アナタは勇者派?それともそれ以外派?どっち?」
大人しくしていた自分に、振られると思っていなかった賢者サージュは
「あ・・・もちろんそれ以外派で・・・ジェネルさん」
「うわー!サージュの裏切り者!」
子供っぽい勇者と違って少しお兄さんな賢者サージュが嗜める。
「やっぱり仲間なんだから…… その仲間が気分良くいてくれた方が良いよ。フォール」
「大丈夫よ。賢者サージュ。これから勇者フォールのご飯はみんなより減るだけだから」
私は悪魔の微笑みを勇者フォールに向ける。
すると、勇者フォールはこの世の終わりのような顔で私に謝ってきた。
「ごめんなさい!ジェネル様!ボクもこれからはそれ以外派で……!! ちゃんと、ジェネルさんとお呼びします!」
15歳の勇者フォール!本当に、このくらいの歳の少年は食べ物で釣るのか一番ね。
そんなことを思いつつ、私はニマニマしながら勇者フォールにスープのお代わりを差し出してあげた。
食事も食べて落ち着いた頃、司祭のデュールが声をかけてくる。
「ところでさ、ジェネル。火使いになって三ヶ月経つけど…… 今の状態は、どれくらいのレベルか分かる?」
私は考えても分からない事は早々にサジを投げる。
「ううん。実は全く分からない。誰かに教わった訳じゃないし…… ここ一ヶ月は、小さい魔物のデカイから……そうね、やっと中級のゴブリンを討伐出来るようになったくらいだから…… まだまだ弱いと思う。どうやって鍛えたら良いのか」
「三ヶ月でゴブリン?」
「うん、なんかね、小物のデカイを倒していたら、炎の勢いが強くなった気がしたの。だから森で急にゴブリンが出た時に、エイヤって。なんか頑張ったら、イケた感じ?」
戦闘用語の語彙力のない私は身振り手振りで説明する。
気がつくと他のチートメンバーも私の話を聞いて静まり返っていた。
「え?もしかして、私ってビックリするくらい弱い?とか?」
水使いのカインが神妙な顔で話しかけてきた。
「ジェネルさん、疲れてないなら、ここで炎の技のチート出してみて」
「え?今?いいけど…… どれくらいの勢いで?」
「川に向かって、最出力でお願い。水使いの俺がいるから炎が強くても安心して」
(なんか、みんなの雰囲気が変わった?)
「うん…… 分かった…… じゃあ」
片手を上げて、私は勢いよく、今出せる限界の炎を出した。
ズババババーーーーっと激しくぶっとい炎の塊が辺り一面を真っ赤に染めると、川の流れに乗って、まるで炎龍のようにうねった。
ん?また、勢いが増したような?
緑使いハキムが呟いた。
「無詠唱………… 」
またもや、みんな静まり返る。
シーーーーーン……
私は居た堪れなくなって、みんなに声をかけた。
「 無詠唱って何? 誰からも教わってないから、呪文があるのも知らなかったんだけど…… もしかして、何かダメなの? 」
「おばさん…… じゃなくて、ジェネルさん、天然なの? 天然で一ヶ月で、ここまでやっちゃうの? なんなの。この人」
右手を額に当てて、またもやヤレヤレと首を振る勇者フォール。
「思っていた以上の戦力になりそうだよ、ジェネル。オサーム王国まで二週間かぁ〜。これは化けるかもね。頑張ろうか、ジェネル」
思っていた反応じゃなく、50歳過ぎても褒められたことに俄然テンションが上がるジェネルだった。
おばちゃんだって、おだてられたら木に登るんだから。
イラストは司祭です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
主人公はおばちゃんですが良い奴なんです。
どうか最後までどうかお付き合いください。
これからよろしくお願いします。
楽しく読んでいただければと思います。
よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。
そしてこれからの励みになりますので
面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して
いただければ幸いです。




