◆ <契約の証>と司祭の秘密
「フォンセ・・・もう大丈夫?・・・」
聖女ソレイエは家族ように大切なフォンセが心配で中々泣き止むことが出来なかった。
口元に手を当て身体中が震えている。
震えている聖女ソレイエの肩にそっと手を乗せた〈ネクロマンサーフォンセ〉は
「ソレイエ、ごめんね。
心配かけてごめん。
ぼく・・・僕はやっと・・・
がんじがらめの安全装置から抜け出せたんだよ。
僕の不安が・・・
ずっと得体の知れない不安が力を押し留めていたんだ。
でもね、フレが・・・
僕もソレイエも血が繋がってなくても家族だって・・・
とても大切な大好きな家族だって言ってくれた・・・
そうしたら・・・
そうしたらね・・・
あんなに不安だったのに何かが心にストンて落ちたんだ・・・
心の中にあったポッカリ空いていた空洞が
一気に・・・満たされたんだ」
みんなはネクロマンサーフォンセの話を聞いている。
しかし
スーーー。
なんの前触れもなく・・・
突然フォンセの雰囲気が変わった。
フォンセの目に光が無い。
感情の籠らない声だけが響く。
「心が満たされたら・・・
呼ばれたんだよ・・・」
「呼ばれた?」
怪訝に思いながら司祭がネクロマンサーフォンセに訊いていた。
ネクロマンサーとなったフォンセは何故か13歳の少年に感じなかった。
いつもの知っているフォンセではないみたいに・・・
ネクロマンサーフォンセは身体の底から響く低い声で
「司祭、フレ、ハキム・・・
この城の中にいて良いの?
自然神と会うには外に出ないと駄目だよ。
早く・・・
早く〈契約の証の者〉と会ってきなよ。
待っているよ?
城の外で・・・」
「フォンセ!何でそれを知ったんだ?どうしたんだフォンセ!」
「もう早く行きなよ、司祭。
司祭は時間・・・無いでしょ?
みんなも早く・・・行って」
みんなはどうするべきか戸惑っていた。
「俺は自分の部屋に行くね」
「フォンセ!」
もうネクロマンサーフォンセはみんなを見ていなかった。
一人で部屋の外へ出て行った。
「一体、フォンセはどうしたんだ。
何故〈契約の証の者〉の話を知っているんだ?
あの時、聖者さんが説明をしてくれた時には確かにフォンセは居なかったはずなのに」
「司祭。今、フォンセが言っていた司祭とフレとハキム・・・
何かが外で待っているって?・・・
やっぱり行くべきじゃない?気になるし」
「おう!気になるぞ。早く行こうよ!」
猪突猛進の伝説の勇者フォールは外に行く気満々だ。
こんな不穏な雰囲気でもおばちゃん根性を発揮してしまうジェネル・・・
おばちゃんは気になったら突っ込まずにはいられない生き物なのよ。
二人に急かされてフォンセと賢者サージュを外した7人の仲間で城の庭園に向かったのだった。
ドドーーーン!!!
確かに待っていた!
凄まじいものが待っていた!
司祭、フレ、ハキムは二度目の
キツいチート発現を初っ端から喰らう羽目になった!
司祭とフレは歯を食いしばって両腕を抱くように耐えていた!
ハキムは以前の宣言通り痛みの弱さにのたうち回っている。
三者三様で必死の思いで身体に定着する事を待っている。
二度目の身体中を襲う激しい痛み・・・
猛り狂う痛みを・・・
熱さを・・・
なんとか自分達で抑え込んでいく・・・
霞む目を開けて見た光景に司祭は息を呑んだ。
「あなたは大地の友、ドワーフ・・・」
「然様。
我はドワーフ王なり。
無から有を生むもの。
土使いデュールよ。
我と〈契約の証〉を結ばる。
詠唱を」
ジェネルと勇者フォールは内心楽しくなっていた。例のあのワードが出たからだ!
(おっ!『結ばる』出た!これか!)
さすがは司祭!冷静に対応している。
詠唱〈ワレーンス〉
司祭とドワーフ精霊を繋ぐ薄黄金色の魔法陣が現れ・・・やがて静かに消えていった。
とても厳かな儀式だった。
次にフレの周りを穏やかな風が吹いている。フレは両手を前に広げて迎え入れる。風は光を纏い始めフレを優しく包み込んだ。
「心穏やかな優しき人で満足だ。
我は風精霊王なり。
天の気象を操るもの。
汝、我と〈契約の証〉を結ばる
詠唱を」
勇者フォールとジェネルは同時に下を向いた。2人の肩が小さく揺れている。
(また出た!『結ばる』!)
風使いフレは目を閉じ呟いた。
詠唱〈ラピドゥス〉
風使いフレと風精霊王を淡い水色のまん丸な魔法陣が包む。
フワリとフレの身体が宙に浮かんだ。
魔法陣が消えると静かに地面に足を着きフレと風精霊王の契約とした。鮮やかな儀式だった。
緑使いハキムはまずは謝っていた。
ガッツリと直角に頭を下げて
「今まで知らんぷりしてごめんなさい!」
「・・・・・・・・・。
我が契約者はひょうきんで
お茶目なようだ。
我は森の精霊王・・・・・・
度々申しておるが・・・
今は力を合わす時。
汝、我と〈契約の証〉を結ばる
詠唱を」
「クッ・・・!」
もうおバカな勇者フォールとジェネルは『結ばる』がツボに入ってしまった。
ほっといてあげよう。
緑使いハキムは良い返事をして
「はい!頑張ります!」
詠唱〈ソレルス〉
緑の蔦と樹々が祝福をした。空から降ってくる美しい花々が変幻して七色の魔法陣を描いた。それは美しい儀式だった。
これでチートメンバー全員が〈契約の証〉をして伝説のものになった・・・?
龍使いカインと聖女ソレイエはこの一連の〈契約の証〉を静かに見ていた。
しかし2人の頭の中では全く別の事を考えている。
龍使いカインは元々この王国の出身だ。
だから大魔王復活で自分が犠牲になることは構わなかった。
愛する人がいるこの王国が大切だったから。
それなのにチートメンバーは違う国のことなのに・・・
こんなに尽くしてくれることがありがたい・・・が申し訳ない気持ちもあったのだ。
この戦いが無事終わったら・・・
自分の全てで恩を返していこうと密かに誓ったのだった。
徐にカインの頭の中に青龍の声が響いた。前回、意識の遠のく時に確かに聞いたあの声・・・
心の声はカインにのみ響いている。
【王国を統べるものよ
我は目覚めたり
鳳凰の呼び声と汝の友たちが
チートを上りしめた
大魔王の目覚めし時
女神の戒めの大矢が
離れた縁を結ばん
誠の真実を守れ
過ちは一度きりとせよ】
龍使いカインは心の声に耳を傾けていたが青龍の言葉に驚きを隠せないでいた。
(王国を統べるものだって!?俺が?)
青龍が目覚めた事で自分が王国を統べるということなのか?
頭がついていかなかった。
意味が分からない。
もう自分は貴族ではなく平民だ。
・・・平民が国王になるなど有り得ないことだから。
聖女ソレイエは次々とチートメンバーに〈契約の証〉や伝説勇者や青龍に鳳凰・・・置いてきぼりのような気持ちで居た堪れなかった。こんな自分で明日の戦いは役に立つのか・・・みんなの足を引っ張らないか・・・不安で仕方がなかった。
〈契約の証〉を済ませ司祭がみんなに言った。
「聖者さまと賢者サージュが今夜中に何かのヒントを見つけてくれるはずだ。今はそれぞれの部屋に戻って備えておいてくれ」
みんなは頷き王城の部屋に戻っていく。
そこでジェネルは聖女ソレイエに目配せした。
ソレイエもコクリと頷いた。
司祭が部屋に戻るとすかさずノックの音がする。
そっと扉を開けるとジェネルとソレイエが立っていた。
「ジェネル・・・それにソレイエ。どうしたんだ?」
「司祭、少しお邪魔していい?」
「あ、ああ。構わないよ。どうぞ」
ここでも秘書聖女ソレイエは当たり前のようにお茶を入れる。
「あっ、聖女ソレイエごめんね。ありがとう。もうおばちゃんは気が利かないね」
「いいえ、いつもの事ですから」
とニコリ。
ソレイエの全く悪気の無い嫌味になんだか静かに胸がジクジクするジェネル。
「コホン、司祭。えーと単刀直入に言うね。私が〈現の夢〉を見ること知っているよね。その夢で司祭が・・・ロシュの実を食べていたの・・・なんで?」
単刀直入に切り込むジェネルの質問に
司祭は目線をテーブルに向け黙ってお茶を飲んでいる。
「司祭、答えない気?」
目線を少し上げジェネルを見ているが話そうとしない。
「司祭様、お願いです。理由を教えてください!」
ジェネルの横に座っていた聖女ソレイエは立ち上がり司祭の隣でワナワナと震えている。
3年前・・・
アルゲオ病で多くの村人が亡くなった。
ロシュの実を食べる事は・・・
食べなくてはいけない事は・・・。
いつもは娘のように可愛いソレイエの質問にはなんでも答えていてくれた司祭が口を固く閉じている。
「司祭・・・おかしいよね・・・だって
アルゲオ病は駆逐されたはずだよ?
なのに・・・
なんで今、司祭はロシュの実を食べているの?
アレは薬だよ・・・
アルゲオ病の最後の砦のような薬の実だよ!おかしいよ。司祭!答えて!」
司祭の態度に言いようもない不安がジェネルとソレイエに迫り上がってくる。
「うっ・・・うっう・・・司祭様・・・司祭様は私のお父さんと一緒です。心配なんです。怖いんです。どうか・・・隠している事を教えてください!お・・・おね・・・がいです・・・うっうっ・・・」
今日一日で人生全ての涙を流しているんじゃないかと心配になるソレイエは
「司祭様・・・お父さん。私たち孤児院の子たちは司祭様を・・・みんなはお父さんだと思っているんです!大切なお父さんを失いそうで・・・私・・・」
前触れもなく・・・ふと、
浮かんでしまった、ある考えに私は背筋が寒くなった。
えっ?もしかして司祭?
もしかして・・・
「まさか司祭・・・ アルゲオ 病を・・・
一人で背負ったの?」
飲んでいたお茶のカップを静かにソーサーに戻して司祭は諦念したように声を発した。
「フッ。相変わらず勘がいいな・・・本当に女の勘は末恐ろしい」
「幼馴染を舐めないで!なんでそんなことを・・・」
「・・・・・・そんなこと?
決まっている。
守りたかったんだよ・・・
大切なものを・・・
それ以外何があるんだ?・・・
あれでも遅かった方だ。
ジェネルの旦那も死んじまったし
チートメンバー3人も死んじまった。
もっと早く俺の中に閉じ込めておく術を見つけられていたら・・・
これでも遅かったんだ・・・」
「司祭!バカなの?なんで?なんで!」
「ジェネル・・・俺は・・・
アルゲオ病が村中に蔓延する中、
何をどうしたら良いのか分からなかった・・・
司祭として死んだ村人を弔い孤児院の子供たちの救済で必死だった・・・
そんな時、前賢者の爺さんがアルゲオ病を全て飲み込んで・・・
自分の死と一緒にアルゲオ病ごと抹消しようとしたんだ」
「えっ!?で、でも前賢者様は亡くなったけどアルゲオ病は無くならなかった・・・よね?」
「ああ、そうだ。亡くなったチートメンバーたちは歳をとり過ぎていたんだ。
うちの村は60歳が大体の寿命だ・・・
前賢者の爺さんが死ぬ時、
言ったんだ。
『お前の土使いのチートでアルゲオ病を抑え込み・・・
そして取り込んで行く末はその身と共に抹消してくれ』って・・・
うまくいくはずだった。
隙間なくきっちりとチートで巌の箱にアルゲオ病の根源を閉じ込めて俺の体の中に内包したんだ・・・
そして寿命が来たら共に抹消されるはずだっだ」
「だった?だったって何よ!司祭・・・バカな私でも分かるように言ってよ・・・」
一瞬、司祭は崩れそうな顔をして
「少しずつ・・・漏れていたんだ。
この旅で気がついた俺は急いで手持ちのロシュの実を食べた。
そして巌の箱を身体の中でより堅固な物にして閉じ込め直した・・・
俺の身体が箱になったんだよ」
「じゃあ・・・司祭だけがアルゲオ病に罹っているの?ロシュの実を食べたのに治っていないの?」
フーと長い息を吐いて司祭は言った。
「・・・・・・手遅れだった・・・」
聖女ソレイエと風使いフレ
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
主人公はおばちゃんですが良い奴なんです。
どうか最後までどうかお付き合いください。
楽しく読んでいただければと思います。
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