◆ 親愛と覚醒
夕方から夜に向かう薄暗い部屋の中で闇使いフォンセは二つ並んだベッドの間にある小さな椅子に座っていた。
片方の窓際のベッドには青龍使いカインが眠っている。
もう片方のベッドに風使いフレが眠っていた。
南東の森の征伐から帰って意識の戻らない2人の側を闇使いフォンセは片時も離れることがなかった。
二人を心配そうな顔で交互に見つめている闇使いフォンセ。
人並外れた力を内に秘めた優しいフォンセ。
闇使いフォンセは今日の戦いを振り返っていた。
確かに・・・
確かに・・・
自分の力も拡充しているはずなのに・・・
あと一歩で安全装置が掛かったように力が踏み出し切れない感じがするのだ。
(ぼくがあの時・・・
もっと力を出せていたら・・・
みんながこんなに大変な目に遭わなかったのに・・・)
闇使いフォンセはポタリと膝に置いた自分の手の甲に涙を落としていた。
電灯を灯していない暗がりの部屋はひどく闇使いの心を・・・惑わす。
自分を信じることが出来ないのだ。
(ぼくは弱い!
ぼくは怖がりだ!
ぼくは情けない!
ぼくは・・・
ぼくは何で大切な人を守れないんだ!
何で!?
ぼくは・・・)
ポタポタ落ちた涙でフォンセの手の甲は、じっとりと濡れている。
ふと、眠っていたはずの風使いフレが闇使いフォンセの頭を撫でていた。
フォンセはびっくりして目が見開き思わず風使いフレを見る。
眠っているカインを気遣ってとても小さな声でフレが言う。
「フォンセ、また泣いているの?
懐かしいな。ねえフォンセ覚えている?
フォンセが孤児院に来た時、夜中によく泣いていたよね。
俺とソレイエがフォンセをぎゅっと抱きしめて一晩中慰めていた事」
「うん。覚えている・・・
ぼくは余りにも二人が優しいから・・・
小さい時は本当のパパとママだと思っていたくらい・・・
大切な思い出だから・・・
覚えている」
「おいおい、パパとママって・・・
フォンセがうち(孤児院)に来たのは4歳の時だよな。
俺まだ13歳だしソレイエなんか10歳じゃないか」
「そう・・・だよね。
でも・・・実の家族からもママを殺して生まれた闇使いのチートは気持ち悪いって言われて家には居場所が無かった・・・
孤児院に入れられた時・・・
初めて優しくしてくれた二人が・・・
二人だけがぼくの全てになったんだ・・・
今、思い返しても・・・
やっぱりあの時のフレとソレイエはパパとママなんだよ。
ごめん、迷惑だよね」
「はぁ、何で迷惑だと思うんだよ。
フォンセ、お前は可愛かったよ!
ああ可愛かった!
ソレイエの次に!」
今まで寝ていたはずのカインが掛け布団をガバッと上げて
「ああ!うるさい!何を大声で可愛い!可愛い!ってほざいてるんだよ!ゆっくり寝られやしない!」
「「ごめん」」
声が揃う二人。仲良しの証拠。
青龍使いカインは
「あのさ、フォンセ。お前のチートの特性かも知れないけど自信が無かったり落ち込んだりした時の方がチートの能力が上がるじゃん。良いと思うよ。変に自信家の勇者フォールよりよっぽど良い!」
そう言って親指を立ててフォンセに向ける。
「ぼくは・・・ここにいて良いんだね・・・」
「当たり前じゃないか!フォンセがいなくなったらソレイエが悲しむだろ!」
「じゃあ・・・じゃあフレ。
ソレイエをぼくにちょうだい。
大切にするから・・・
ぼく、ソレイエが好きなんだ!」
風使いフレは黙っている。寧ろ青龍使いカインの方が狼狽えている。
「いやいやいや、
フォンセ駄目だろう!
お前も見ただろう!
愛の永遠!プラグマ!って言っていたぞ!
愛の永遠だぞ!
恥ずかしげもなく・・・
愛の永遠だぞ!?」
「見てたし、分かってるし・・・
でも・・・それでもぼくは・・・
ソレイエが好きなんだ・・・」
いつも冷静な優男カインは間に入ってアワアワしていた。恋の仲裁に慣れていない。
言うだけ言ってフォンセは肩に力を入れて頑なな態度をとっている。フレともカインとも目を合わせず膝に置いた自分の手元を見ている。
風使いフレは落ち着いた声でまるで宥めるようにフォンセに話しかけた。
「フォンセ・・・それは違うと思うよ。
確かにフォンセはソレイエが好きだと思うよ。
でもね・・・フォンセ。
さっき自分で言ったことが本心なんだよ。
フォンセは一度も抱いてもらえなかったママの面影をソレイエに抱いているんだよ。
愛情と親愛は紙一重で違うんだと思うんだ」
下を向いたままフォンセは動かない。
まるでフレの言葉を噛み締めているように・・・目元は不安げに揺れている。
カインは感心したように
「はは、フレ。お前やっぱりパパだよ。フォンセを見つめる眼差しも諭す言葉もまさしくパパだ」
フォンセは小さく呟いていた。
「愛情と親愛・・・」
フレはフォンセに答えるように
「そうだよ。どっちもとても大切な愛の形だけど・・・確かに違うんだ。
俺はソレイエを愛している・・・
この世界の全女性に対してソレイエ一人だけだったとしても・・・
俺はソレイエだけで良い。
他はいらない。
なぁフォンセ・・・俺とソレイエはフォンセが家族だと思っているよ。
血なんか繋がってなくても確かに家族なんだよ。
それじゃフォンセは駄目か・・・」
フォンセの目から後から後から涙が溢れている。
「ううん、駄目じゃない。
フレとソレイエが好きだ。
ずっと好きだよ。・・・
家族なんだね・・・
ぼくの・・・大切な家族・・・」
「フォンセ・・・ソレイエを好きでいてくれてありがとう。俺もソレイエもフォンセが大切で大好きだよ」
それだけ言ってフレはフォンセを抱きしめた。
それを見ていたカインは確かに自分の中にある・・・愛する人を密かに想い浮かべていた。
突然!!
抱きしめられていたフォンセがフレを両手で突き飛ばし苦しみながら胸を押さえて声を上げた。
「あっ・・・ああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・
ぼくの中が暴れている・・・
フレ!・・・フレ・・・い・・・たい・・・痛いよ、フレ・・・
あああああああああああ・・・」
「フォンセ!・・・カイン!
フォンセが!」
「何だこれは!フレ!フォンセの周りの影が・・・何か蠢いている!」
「フォンセ!フォンセしっかりしろ!大丈夫か!フォンセ!」
「ああああああ・・・
身体中が・・・
血が熱いよ・・・
フレ・・・助けて・・・」
膝をつき前屈みになったフォンセはあまりの痛みのせいか涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を地面に擦り付けた!
「カイン!ソレイエを呼んできてくれ!俺はフォンセを見ているから!頼む!」
「ああ、分かった!フォンセしっかりしろよ!すぐ呼んでくるから!」
激しく開け放たれた扉からカインが飛び出した。
「フォンセ!大丈夫?ああ・・・どうしたら・・・」
カインから呼び出されたソレイエと司祭とジェネルとハキムは苦しむフォンセを苦悶の表情で取り囲んでた。
「聖女ソレイエ!なんとかならないの!フォンセが苦しんでいる!」
「ジェネル・・・フォンセは新たなチート発現なんだと思う。そうすると俺たちに出来ることは何も無いんだ。・・・フォンセは余りに幼い時にチートの目覚めをしたから・・・この痛みが初めての経験のように感じるはずだ。いや、寧ろこれはそれ以上かも知れない・・・これはただの新たなチート発現なのか?・・・聖者さんが言っていた〈契約の証の者〉のことか?・・・フォンセは何の契約が待っているんだ?」
「ハァッ、ハァッ・・・」
そう言っているそばから闇使いフォンセは浅い息を繰り返し目は虚になっている。
風使いフレと聖女ソレイエは苦しむフォンセの背中をさすっている。
バチンッ!!!
いきなり!フレやチートメンバーたちが見えない結界から弾き飛ばされた!
「「「クッ!・・・」」」
闇使いフォンセの周りにノロノロと動く影が近づいている。
それは次第に影から這い出るように形のあるものになっていった。
「えっ!あれは・・・今まで森で倒してきた魔物?」
真っ黒な影が形成されているのは確かに今まで倒した魔物たちの姿をしていた。
多数の影の魔物たちは広い部屋中に集まっていた・・・しかしチートメンバーや家具やベッドやらを透過して佇んでいる。
あれほど苦しみ前のめりに床に座り込んでいたフォンセが徐にゆっくりと立ち上がった。
闇使いフォンセの虚だったオッドアイが深層の闇を鈍く光らせた。
静かに左手を上げ
詠唱〈ペルフェクト!〉
フォンセを囲んでいた影の魔物は一斉に頭を下げ傅いた。
闇使いフォンセは〈ネクロマンサーフォンセ〉となった。
闇使いフォンセ(ネクロマンサーフォンセ)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
主人公はおばちゃんですが良い奴なんです。
どうか最後までどうかお付き合いください。
楽しく読んでいただければと思います。
これからもよろしくお願いします。
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