ただひたすらに。
いつもと同じように修行を終えたフェルはいつものように自分の部屋に戻ろうとしていた。
修行場からフェルの部屋までのルートは二つあり、
一つは誰もが通る中央にある廊下。
もう一つは滅多に利用されることがない中庭を突っ切るようにして出来ている廊下。
フェルにとっては中庭に咲く花達を見ながら帰るのが日課のようになっていた。
この日は違った。
ピンク色の花が咲く廊下の先に人影が見え、その姿を見た時ゾッと凍るような震えを覚えフェルは咄嗟に廊下を飛び出て草むらに隠れた。
前から歩いてきたのは人々が恐れるリクベス王だったからだ。
普段誰とも会わないという王がこんなところにいるなんて。
息をこらして、音を立てないようじっとする。
「グヴェル、影の世界との扉はどうなった」
王の低い声が聞こえ、さらに冷や汗が出てくる。
「はい、只今順調に進んでいます。帝王様もリクベス様のご活躍にご褒めになっております。」
聴き慣れない男の声が聞こえ、ちらっと覗いてみる。
リクベス王は手に持つ鏡に話しかけているようだった。
不気味さがまして見えてさっと目をそらす。
「ふん、私にかかれば容易いものだ。」
「さすがリクベス様。もう一つ…、AXの試作品が出来ましたので、近々そちらに送ろうと思います、どうぞお楽しみになさってください。」
ふんふん、とリクベスがにやりと笑った。
「ところでリクベス様、先程からネズミが迷い込んでいるようですねぇ。」
はっとフェルは鼓動が早くなり冷や汗が流れるのを感じた。
バレていた。しかも、話を聞いてしまったことも。
「なんだと?誰かいるのか!」
リクベスの声が突き刺さるように響いた。
どんどんフェルに近付いて来る足音。
話を聞いてしまったからには殺される、
そう思いフェルは体制を整えた。
中庭はいつも通っていた。それにこの城の見取り図は頭の中にインプット済みだ。
(落ち着け…考えろ。中庭には…抜け道がある。)
「そこか!」
リクベスの剣が振り下ろされた瞬間フェルは飛び出し、振り向きもせず走りだした。
「あやつはフェル…!親子揃って我の前に現れよってぇ!!」
リクベスはフェルを追う。
だが、素早さが自慢のフェルはもうすでに木々の間を抜け、リクベスを振りきろうとしていた。
「くっ、逃がすか…CX、フェルを追え!!」
胸ポケットから取り出した黒い機械にそう叫ぶと、ゼーハーと息切れをしながら舌打ちをした。
「生かしては置けんぞ…」
フェルは父に教わった秘密の抜け道を走っていた。
息が切れてもう足も痛いのに、後ろからくる恐怖に体が動かされているようだった。
「死にたくない…っ」
必死に暗い道を走り、出口であるマンホールを外しゆっくりあたりを見る。
誰もいない、ここは森の中の様だった。
外に出て、マンホールを元に戻す。
「はぁ…ふぅ…」
ばっと後ろを振り返り、城を見た。
遠くに見える城に何故か安心し、
やっと開放された気がした。
同時にここまでの疲れが一気に体を襲い、そのまま転がり込んだ。
「だめだ…だめなのに…動かない…」
そのまま目を閉じた。
がさっという音が静かな夜に響いた。




