能力
「だからって、なんで俺の部屋なんだよ!」
「しょうがないじゃありませの。わたくしの部屋はその……。とにかくダメなんですの!」
「でもさすがに四人はきついだろ」
言わずもがな、俺の部屋に来ている人たちというのは沙織とベリアルである。なんでこんな状況になったのかというと、30分ほど時間を遡らなければならない。
それはディールが終わって、すぐのことである。
「沙織、アレはなんなんだよ?」
「コレのことですの?」
沙織はもう一度、黒くて硬いそれを取り出して見せる。
「コレはただのエアガンですわよ」
「ビビらせてんじゃねーよ!本物かと思ったじゃねーか!!」
ただの逆ギレだとは思うが、それは仕方のないことだ。それくらいやるせない気持ちになったのだから。
「そんなことより話がありますの。場所はあなたの部屋でいいですわよね?」
「ベリアルのその角はどうすんだよ。イブは普段は出ないからいいけど」
「それには心配は及びませんの。現実世界では魔力が使えませんから。角は魔力が具現化した形ですの。悪魔は自然と魔力を放出させていますから」
沙織はなにかを考え込むように、腕を組む。そして「うーん」とうなりつつ、首をかしげる。
「わたくしはそのイブさんという御方の方が不思議ですの。金命世界で人間の姿を保っていられるなんて。魔力コントロールが尋常じゃありませんわ。イブさんは余程、高位の悪魔ということですわね」
「イブ、そうなのか?」
「慎哉には教えない」
イブはぷいっとそっぽを向いてしまった。こりゃ、ダメだな。どんだけ聞いても無駄になりそうだ。
まぁ、そんなこんなで現在に至るわけだ。俺は三人に麦茶を差し出す。
「自分の分はないんですの?」
「悪いな。家にはコップが三つしかないんだよ」
一人暮らしの食器の数なんてこんなものであろう。狭い部屋の中でスペースを見つけるのは大変なものだ。
「ということは、これが慎哉のという可能性も」
「安心してくれ。さすがに俺のを女の子に使わせるわけにはいかないから、ベリアルが使ってる。というか話ってなんだよ?」
俺はようやく話題を戻すことができた。戻すというより、むしろ始めるという方が正しいかもしれない。最初から始まってすらいなかったのだから。
「慎哉はディールは何回したんですの?」
「沙織ので二回目だ。お前らはどうなんだ?」
「わたくしたちはもう10回くらいになりますの。金命世界に行ったのは三ヶ月くらい前になるのかしら?」
俺の数倍も経験があったのか。そりゃ、勝てるわけないわな。三ヶ月か。そう考えると、高校を卒業してすぐにあの世界に行ったことになるな。
「とりあえず、なんで俺が負けたのか説明してくれよ」
「悪魔がそれぞれ能力を持っているのは知ってますわよね?」
「能力?それって超能力とか異能の力とかか?」
そんな突拍子もないことを思いついてしまう。これはマンガの読みすぎだな。
「まあ、そんなところですの」
当たってたのかー。イブにもそんな力があったのか。タウロスを倒したのもその力かな?
「ベリアルの能力は視界に入っている人間・悪魔と自分の位置を入れ換える能力ですの。まあ、座標交換というところですわね」
そういうことか。ベリアルの能力で俺と場所を入れ換える。そうすると、俺の目の前に沙織がいる。あとはエアガンで撃つだけ。
これってもう最強じゃね?エアガンを至近距離で避けることができる人ってほとんどいないだろ。
こいつ、もしかして負けたことがないんじゃ。
「イブはどんな能力なんだ?」
「敵の前で教えることはできない」
確かに知り合いとは言っても一時は敵同士になったのだ。能力を教えることでデメリットがあるのかもしれないし。
「心配には及びませんわ。定期的なディールは同じ相手と当たることはありませんの。自分または他人からディールを申し込んだり、込まれたりすれば話は別ですけど。わたくしはそんなことしませんから、安心してください」
「でも…………」
「大丈夫だ。沙織は信用していい」
沙織は信用できる。すべてが信用できるというわけではないが、性格だけはどうしても変えることはできないだろう。沙織は昔から頑固なところがある。自分の発言は絶対に守る。そういう意味での信用だ。だから沙織自体を信用しているというわけではないのかもしれない。
「わかった。教えてあげる。私の能力は重力・引力などの力学的エネルギーを変える能力。この人風に言うなら、力量操作というところね。でも私の操作はベクトルじゃなくて、スカラーによるものだから」
「ベクトルはなんとなくわかるが、スカラーってなんだよ?」
「ベクトルは量の他に方向が含まれるけど、スカラーは量だけなの。つまり力量は変えられるけど、その向きまでは変えられないということね」
なんとなくわかったが、俺には難しい話だ。理系の大学に行っといて、こんなこともわからないなんて、よく大学に通ったな。結局、推薦だったから、勉強なんてしてないけどな。
「慎哉はライフをお金にしたことがありますの?」
「そういや、そんなことしたことないな」
沙織がベリアルの名を呼ぶと、それに返事をして、手を握る。その次の瞬間には目の前からベリアルの姿が消えた。
あの長身の男が一瞬、消えることはまずありえない。現実世界で魔力が使えるなら、話は別だが、そうではない。
そんな俺の疑問に答えるように、沙織の手に収まっているものを見せる。
沙織が握っているものはただのカードだった。本屋などの薄っぺらいカードではなく、銀行のようなしっかりとしたカードである。
この時点で、大体このカードがなんなのか想像はついていた。
今度はカードの裏を見せてきた。そこには『悪魔名:ベリアル 、残り82L』と書かれてある。
「このカードはどこのATMでも使えますの。本当になんにもしらないんですわね」
「誰も教えてくれなかったからな」
「それは慎哉が聞かないからですわよ」
なんだか、沙織から呆れられてしまったような気がする。まあ、今に始まったことじゃないし、どうでもいいか。
疑問に思わなかったと言ったら、嘘になるが、イブに聞いてもどうせ教えてくれなかっただろう。疑問は疑問のままにしている現状をなんにも思わない俺はもうダメなのだろうと思う。それでも改善しようという気が全くない。




