お嬢様
二度目のディールが始まろうとしていた。一回目のディールからはさほど時間は経っていない。二週間かそこらだ。
対戦相手はそのディールに行かないと分からない。命を奪う相手なんて、気にしたって仕方がない。
だとしてもだ。コイツはないだろ。
「ちょっと!なんであなたがここにいますの?」
「それはこっちのセリフだよ」
まさか命を奪う相手が知り合いだなんて、思わないだろ。
彼女の名前は七城 沙織。彼女とは高校のときに同じクラスになってからの仲である。高校を卒業してからは連絡を取っていない。進学先だって知らないし、知られてないはずだ。
身長はイブと同じくらいだ。いや、ヒールを履いているから同じくらいに見えるのか。実際はちょっと小さいくらいだろう。
髪はゆるくウェーブがかかった金髪。瞳の色は青。典型的なお嬢様タイプだ。
彼女のこの日本人ばなれした容姿は、母親の遺伝なのだと言う。彼女の母親はイギリス人で父親が日本人のハーフだ。これなら、金髪碧眼なのは納得できる。
そのことでちょっとしたことがあったのは言うまでもない。彼女としては中学の頃からだと慣れているようだったが、それではやはりマズイと思い、声をかけたのが始まりだった。
あの時の行動は本当に悔やまれる。そんなことしなきゃ、あんなことにならなかったかもしれないのに。それはまた別の話。このことは心の奥にしまっておこう。もう出てこないことを祈りながら。
「その後ろにいらっしゃるのが慎哉の悪魔ですの?」
「お、おう。イブって言うんだ」
「そうですの。わたくしのはベリアルと言いますの」
沙織が指を鳴らすと、後ろから突然に現れた。たぶん彼が彼女の言うベリアルなのだろう。
背は俺よりも高く、180cmは軽く超えているだろう。髪の色は暗闇のように黒い。顔は人間のようだが、明らかに人間とは違うと実感してしまう。尖った耳もそうなのだが、やはり決定的なのは頭から生えた“それ”だろう。いくらなんでも頭から角を生やしたやつを人間だとは思わない。
そういえばイブにも角が生えていたな。アレは悪魔なら、みんなそうなのだろうか。タウロスにもあったな。形はそれぞれだが、特徴的だった。
「それではディールを開始いたします。それではディール・スタート!」
いきなり来た櫻井に戸惑いつつも、ディール開始の鐘が鳴る。お互いまだモヤモヤが残る一方で、イブとベリアルだけは戦闘体勢に入っていた。俺の胸には赤色、沙織の胸には青色のターゲットマークが現れる。
「じゃあ、イブよろしく」
そう言って、俺はやはり走り出す。逃げるが勝ちという言葉に基づいて、全力疾走する。イブが強いということを知っている俺は何も気負うことなく、逃げることができる。
「ちょっと慎哉!?」
これで二回目なのに、まだ驚くのか。イブには早く慣れてほしいものだ。相手がそのスキにこっちに来たら、どうするんだよ。
まぁ、今回は相手が知り合いでよかった。知り合いならあんまり残虐なことはしないだろう。これで今回も痛い想いをすることはないと思う。
「沙織様、準備はよろしいですか?」
「いつでもいいですわよ」
沙織は俺たちに背を向けて、ベリアルと向かい合う。あの二人?の奇妙な立ち位置にある種の不安がよぎるが、そのまま逃げ去る。
次の瞬間にはさっきまでの景色が一風して変わっていた。目の前に広がっていたビル街は沙織に変わっている。沙織が目の前に現れたことにより、足を無理やり止めようとする。沙織の一歩手前でようやく止まった。
「ごめんなさいね」
沙織が懐から黒くて硬い物騒なそれを取り出し、俺に向ける。
「そんなのをどこで…………」
想像していたのより、ずっと小さい音が耳に届いた。そのあとにディールの終了を知らせる鐘が辺りに響く。今回のディールにかかった時間は一分もないだろう。その短い時間に、俺の寿命が一年減った。




