ディール
ちょ! いきなりすぎるだろ。俺は青色、相手は赤色のターゲットマークが心臓部に現れる。こっちは武器を持たないガキが二人、相手はその存在だけでも強そうな悪魔がいる。この差は歴然としていて、どこからどう見ても俺たちに勝機はない。
とりあえず、逃げるが勝ちだ。制限時間があるということはその時間を過ぎればディールは終わる。つまり引き分けだ。10分間でいい。たったそれだけの時間逃げ切るだけで、俺たちの負けはなくなる。
この世界に連れて来られる前に命を金に換えると言っていたことを思い出した。つまりこのディールに負けると金が減り、その分だけ寿命も減るということなのだろう。
俺は回れ右をして、相手とは逆方向に走り出す。俺の逃亡に相手も驚いたようで、動きが一瞬止まる。俺はすぐさまビルの影に逃げ込み、身を隠す。イブはというと、俺の突然の行動に驚きもせず、ぴったりとくっついて、一緒に逃げてきた。くっつくというのは言うまでもなく、身体的な意味ではない。最初は手を引いていたのだが、いつの間にか並んで走っていたので、手を放してしまった。
「大丈夫か、イブ」
息切れを起こして、震えがちになるのを抑えて言葉を発する。しばらく運動というものをしていなかったから、運動不足に陥っているようだ。
イブはというと、平然と隣に立っている。疲れた顔一つとしてしない。悪魔の体力とは無尽蔵のものなのだろうか。
「見つけたぞ」
地震のような地響きが聞こえる。あの巨人が迫ってきているのだ。あの巨体からはやはり、逃げ切れなかった。
「タウロス、そこだ!」
タウロスと呼ばれた悪魔は自分の身長程もある斧を俺たちに向かって振り下ろす。デカすぎて避けることは困難。俺は覚悟を決めて目をつぶる。こういう時に取れる行動といったら、これくらいしかない。
俺の体はあの斧で真っ二つ──にはならなかった。俺の頭上のほんの少し上のところで、それは止まっていた。目を開けて確認するが、目の前に立っているのはイブただ一人。
だが決定的に違っているものがある。イブの背中には美しいほどに黒々しい翼が生えていた。天使のそれとは似ても似つかない対照的な翼。頭には小さい角も生えている。これが彼女の悪魔としての本来の姿なのだろう。
それにしても不思議だ。あんな華奢な体のどこにそんな力が宿っているのか。そしてさらに驚くべきことはその止め方だ。
指一本。それは彼女が斧を止めるのに用いたものだ。そして軽々とその斧を押し返す。もはや人間技ではない。まぁ、彼女自身悪魔な訳だが。
タウロスはその反動で後ろにのけぞる。その隙にまた逃亡を試みようとするが、それはイブによって阻まれた。
「ちょ! ちょっと、イブさん?
待って。待ってーーー」
イブは俺の後ろから両脇に腕を通し、そのまま持ち上げた。持ち上げただけなら、どんなに良かったことか。イブはそのまま空へと飛び上がった。あの翼はダテじゃなかったという訳だ。
イブは俺を抱えたまま、近くのビルの屋上に着地する。ちょうどタウロスの頭と同じ高さのビルだ。タウロスの顔を間近で見るハメになり、気分は最悪である。
イブはタウロスめがけて、再び飛び立つ。そして、鼻先にちょこんと触れると、そのまま後ろへ押す。
タウロスはなぜかその動きになすがままになり、後ろに倒れ込む。辺りには地震と思われるほどの震動が伝わり、タウロスがぶつかったビルが倒れそうになる。
それを確認したイブはゆっくりとまたどこかに飛び去った。イブの行く先を目で追うと、その先には俺の対戦相手が腰を抜かして尻餅をついているのが見える。そして相手のターゲットマークに触れると、ディールの終了を知らせると思われるブザーが鳴り響いた。




