第6話
まだまだ続くよ!(あと一話)
「俺、今回のディール勝ちにいこうと思う」
「無理だな」
即決!? そんなに無謀なことなんですかね。
「にしても慎哉、なんでそんな急に意見が変わった? さっきは納得してくれただろ」
俺はもう一度みんなを集めて、会議を行った。会議といってもただの決意表明会だ。今日中にみんなに伝えないと、自分の意志が折れそうだったから。やっぱり止めとけばよかった、と先程の瑠美のコメントで早くも思い知った。
「本気……なんだな?」
そんな中、雅樹だけが本気のトーンで尋ねてくる。
俺はそれに対し、迷うことなく頷く。
「それがイブを傷つけることになってもか?」
そうだ。闘うのは俺じゃない。イブなんだ。俺の勝手な意志で、決意で決めていいものではなかった。
「私なら大丈夫」
イブはこう言ってくれてる。でもイブを極力傷つけたくない。郁人さんのときのようにさせたくないから。
やっぱり無謀なことなのだろうか。藤沢に勝ち、なおかつイブを傷つけないのは。
「私は負けない。慎哉が望むなら、いくらでも強くなる」
でもーーと口ごもる。
「相手はベリアルより弱いんでしょ? なら私にだって勝てる。あの時よりは確実に強くなってる」
確かに俺がいなければ、イブ一人なら強いかもしれない。
「だから私を信じて」
イブは目で訴えてくる。ーー勝てる。必ず勝ってみせる、と。こんなイブを俺は見たことない。出会って一ヶ月足らずの関係でしかないが、ここまで言うイブを信じてみようと思った。
作戦なんてない。イブを信じる。それだけでなぜか十分な気がしてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それで考えは変わったかな?」
「変わってません。この件についてはお断りします」
本日はディール本番。ほぼ無策だが、このときが来てしまったのでは仕方ない。やるべきことをやるだけだ。
と言っても、俺ができることってじっとしてることだけなんだよな。
間もなくするとディールの鐘が鳴った。
藤沢の悪魔はまだ姿を表していない。これを利用して、数少ないーーというかむしろこれしかない作戦を遂行する。
イブは開始の鐘と同時に藤沢に向かって全力で飛ぶ。最初から本気モードだ。抵抗をほぼ無くし、妨げるものがほとんどなくなった状態で藤沢の胸にあるターゲットに触れようとする。
あと数センチ。本当にそれくらいの距離のところで防がられてしまう。こんなことができるのは悪魔以外いない。案の定、藤沢の悪魔が姿を見せていた。
「さすがにこんな簡単に勝たせてもらえませんよねー」
「君たちは逃げるものだと思ってたよ。まさか正面から挑んでくるとはね」
藤沢は薄ら笑いを浮かべている。イブも初撃が防がれたので、すぐに戻ってくる。
そこで今一度敵の悪魔を見る。頭には鹿のような長いツノ、背中にはイブと同じく翼が生えている。しかしそれより衝撃的だったのは蛇のような尻尾があったことだ。しかもそれは燃えるように赤い。その動きは尾というよりも、それこそ生き物であるかのようだ。
今、目があっ……た?
そんなはずはない。だってあれは尻尾なのだから。
俺は恐怖を感じその尾から目をそらした。まっすぐ藤沢とその悪魔を見る。
先程藤沢が呼んでいたが、その悪魔の名前はフールと言うらしい。
「今度はこっちの番かな?」
イブと俺は身構える。こいつの能力は一体なんなのか。それを俺が見極める!
次第に天気が怪しくなってきた。これじゃあ、視界が悪くなる。元々夜ということもあり、街明かりしか頼るものがない。ビル街ではあるが、ほとんどが廃墟となってしまっているため、街灯もそこそこだ。
こんなことなら、天気予報ちゃんと見とくんだった。
次の瞬間、めまぐるしく光るものが見えた。その少し後に聞こえてくるのは雷の音。
これはまさか……。
今度は光と音が同時に聞こえた。
落雷。その名の通り雷が落ちたのだ。落ちたのはさっきまでイブが立っていた場所。
「イブっ!」
「私は大丈夫だから、一旦退く」
体がふわっとした浮遊感に包まれる。これ、脇が痛いから嫌なんだよな。
俺はイブに抱えられて、ビルの屋上へと避難する。そこから中へ入る。
フールの能力は電気操作とみて間違いないだろう。それにこの雨のタイミング。俺たちの運が悪かったとしか言いようがない。
「建物の中に逃げても無駄なのに」
藤沢の声は誰にも聞こえることはない。
そしてフールは右手を上げ、軽く降り下ろす。まるでそれに従うように、雷雲に帯電していた雷は慎哉たちが逃げ込んだビルに落ちた。
極大の電圧を帯びた雷に避雷針はほぼ無意味。雷は迷うことなく、ビルに突き刺さる。その瞬間、窓やドアガラスが粉々と砕け散った。
今にも潰れそうなビルから辛うじて逃げ出る二人。
「これで建物の中に逃げても無駄だってことがわかってくれたかな?」
「そう、みたいですね」
どうする? どうすれば勝てるんだ。考えろ。雷とはなんだ? イブの能力をどうやったら活かせる? 物理法則が通用するんだ。それなら自然法則だって……。
「イブ、俺たちがいるこの辺りの地面をあの雲と同じ電位度にすることはできるか?」
「でん、いど?」
それもそうか。こいつにそんな言葉わかるはずないよな。
「んー、要するにこの地面をあの雲と同じくらいの電気にしろってこと」
「よくわかんないけど、何となくわかった」
わかってないのか、わかったのかよくわからないな。とりあえず、イブを信じてみよう。
今度は俺とイブの間に雷が落ちてくる。雷が落ちるのは一瞬。光の軌跡を人間の目で追うのは不可能なことだ。でも今回はわかった。光が自分たちの頭上で霧散したのだ。そう、雷は実質落ちなかった。
雷とは雲と地面の電位差によって生まれると聞いたことがある。つまり、あの雷雲と地面の電位を同じものにしてやれば、お互いに反発し合って、雷は落ちないということだ。
「これで雷は使えませんね」
「こっちの能力が雷だけだと思ったら、大間違いだよ」
その後、ポツポツと雨が降りだした。雨は次第に強くなっていき、やがて豪雨にまで発展した。
「ここからが本番だよ」
今まで一歩も動いてなかったフールが動き出す。一瞬だけだが、角の間を電気が走ったように見えた。
それに合わせてイブも前へと移動する。お互いが主と少し離れたところで、一気に距離を詰める。
スピードならイブの方が速いと思っていた。だが、二人がぶつかり合った位置は真ん中ではなく、少しイブより。つまりイブの方が劣っている。
光の速さで動けるのか! そんなのありかよ。
フールの角をよく見ると、青白く光っていた。体に電気を溜めているのだろう。だがその光りもイブとぶつかる度に、弱くなっているように感じる。もしかすると帯電量が決まっているのかもしれない。空気中の電気を吸収していたから、チャージに時間もかかったのだろう。
「イブ! 角だ!!」
イブは一瞬だけ目を向けると、フェイントを混ぜつつ角に手を伸ばす。だが、おしくもその手は退けられてしまう。
だが確証は得た。フールは角に触られまいとした。つまり何かしらの弱点が存在してるってことだ。
藤沢は恐らくイブの能力を正確には知らない。雷を相殺して見せたのが正直まずかったかもしれないが、まだ特定まではできていないはずだ。そもそもイブの能力を教えたのは沙織とハウレスだけだ。バレるはずがない。
そこからイブは執拗にフールの角を狙った。それもむなしくすべて振り払われてしまっていたが、そこはどうでもいい。慎哉の予想が正しければあと少し。あと少しで角の光が……消えた!
それと同時にフールは一旦距離を取る。そして高々と両手を上げて空を仰ぎ見る。つられて慎哉たちも一瞬目を向けた。目に雨が入ってきてちょっと痛い。そのせいで、あまり目を開けられないでいた。
次の瞬間雷雲がきらめき、雷鳴とともに地面に落ちる。
そのときイブはちゃんと電位を同じにしたはずだ。目に見えないので、実際はそうなっているのかどうかわからないのだが。
そして落ちたのは慎哉たちのところではなく、フール自身だった。フールは雷を全身に浴び、それを吸収していた。雷が落ちるのは一瞬だ。でもその光がこんなにもはっきりと目にとらえることができた《・・・・・・・・・・》のは始めてた。
吸収し終えると、フールの角は先程とは比べられないほど青白く輝いていた。それこそ目を背けてしまうほどに。さらに今まで降り続いていた豪雨が止み、雷雲もすっかり消え去っていた。
「イブ……どうやらここからが本気みたいだな」
「そう……みたい」




