第5話
4話から時間が経ちすぎてしまいましたね。
確実に忘れていると思うので、見直して頂けると幸いです。
今回は3話連続投稿です!(文字数は少ないですがw)
テストが終わり、1週間が経過した。もちろんテストは返却されたが、物理・数学ともに赤点は回避した。
これで一安心だ。お礼を言うべく、瑠美と沙織を食堂に呼び出しておいた。
「テスト、無事に合格したよ。2人ともありがとな」
「いえ、わたくしは何もしてませんわ」
「当たり前だ。アタシが教えたんだから、落ちるわけないだろ」
だからその自信はどこから湧いてくるんですかね。
そして瑠美は1番聞かれなくないことを聞いてきた。
「で、何点だったんだ?」
「そ、それは……」
「この大学、赤点は60点未満だから、60点以上は取ってるよな」
そう。この大学の赤点とは60点未満ーーつまり59点以下のことである。高校時代の倍だ。
60点とか高すぎだろ! 大学生がこんなに勉強すると思うなよ!!
「いいから言えって。笑わないからさ」
いや、もう笑ってますけど? 口角が上がってますよ。俺の点数が低いのは分かってますか。あー、そうてすか。まぁ、そうなんですけど!
「物理は72点」
「まあまあだな。それで? あの自信満々だった数学は? いやー、あれだけのことを言ったんだから、今回はアタシも負けたかもしれないなー」
なんだこの嫌味は。まさかこれほど根に持っていようとは。
俺は躊躇なく、自分の点数を明かした。
「聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
もう一度その点数を繰り返し言う。
「だから98点だよ」
今度は点数を見せろと言われたので、カバンの中から取り出した。
「う、うそだ。このアタシが慎哉なんかに負けるなんて」
“なんか”ってなんだよ。随分酷い言い様だな。俺をなんだと思ってたんだよ。ーーなんて、絶対に言わない。
「いや、たまたまだよ。むしろまぐれ? 奇跡みたいなもんだって!」
なんか自分で言ってて、悲しくなってきた。
それでも瑠美は唸り続けたままだ。
俺はこっそり沙織に瑠美の点数を聞いてみた。
「95点だそうです。これなら慎哉にも勝てるだろうと言っていました」
そんな状態で、俺の方が高い点取っちゃったらヘコむよなー。
「最終的な成績には20%しか反映されないんだし、期末で俺よりいい点取れば俺より成績は良くなるはずだよ! じ、実を言うと、今回は瑠美にあんなことを言った手前、勉強したんだよ。割と本気で。その勉強の山が当たったというか」
なんか子どもをあやしてる気分だ。まぁ、実際見た目は子どもみたいなもんだけど。
そこまで言ったところで、瑠美はむくりと立ち上がった。
次は絶対に勝ぁぁぁぁぁつ!!ーーなんて言い残し、そのままどこかへ走っていった。たぶん昼食でも買いに行ったのだろう。
なんだかんだで長い1日が終わった。俺としては瑠美に勝てたことがちょっと嬉しかったりする。これで勉強した甲斐があったってもんだ。
最近ディールがなくて平和だなー、なんて思っていたら瑠美から連絡があった。
1週間後ディールが行われ、しかも対戦相手は強敵なんだそうだ。レベルで言うと、『雅樹以上、郁人さん以下』ということらしい。
賭け金にもよるが、それほど強いのならわざと負けよう。もうイブをあんな風に傷つけたくない。そんなことを言ったらイブは怒るだろうな。最初のディールでも逃げただけで怒られたのもだ。
んで、今回の対戦相手の名前は……。
「僕にとって経済とは…………」
誰もが静まり返っている中、一人だけ前に立ち経済について雄弁に語っている。根本的なことを問うたり、自分の体験談を話したりしている。
今、俺は経済学の講義に出席している。だが前で語っているのはいつもの教授ではない。教授より遥かに若く、20代後半から30代前半といった感じの男性である。いつもの講義ではなく、その一環としてある人の話を聞かされているにすぎない。まぁ、いつものお堅い講義よりこっちの方が何倍も気楽だが。
ある人ーーすなわち俺の目の前にいる人物とは、最近話題の投資家、藤沢聖治である。イケメンで頭もいい。その上金持ちともなれば、話題にならないはずがない。
「こんな人が次の相手だとはな」
思わず声に出してしまった。そう、次のディールの相手はこの藤沢聖治なのである。運がいいのか、悪いのか。正直言って悪い。
この人が金命世界の住人であるとするならば、若くして投資家になれたのも頷ける。
そうだな。俺もいずれかは投資家になろう! なんかモテそうだし、なにより働かなくてもいいし。いや、それなら小難しいこと考えずに、マンションを土地ごと買って家賃収入で暮らした方がいいんじゃないか? そのためには色々と勉強しないとな。経済とか。おー、経済って大事!役に立つ!
藤沢聖治とのディールまであと3日となった。そのためちょっとした会議が行われた。
「で、慎哉の勝率だが5%ってところだろう」
瑠美の容赦ない言葉に胸を抉られる。瑠美のやつ、まだこの前のテストのこと引きずってるな。
「今のままじゃそうなるかもね〜」
郁人さんがそこに追い打ちをかける。そんなに勝ち目ないですか、そうですか。そろそろ泣くぞ。
瑠美が言うには、藤沢聖治の情報は不明瞭な点が多いらしい。ここでの情報とはディールに関することである。人型悪魔であること自体は分かっているのだが、逆に言うとそのことしか分かっていない。戦闘スタイルや能力など、重要なところが欠けている。
郁人さんは1回だけ闘ったことがあるらしいのだが、一撃で仕留めているため何の情報もないという。ほんとこの人には困ったものだ。強い人は気楽でいいですねー。
「だって相手は初めてだったみたいだし〜?」
「状況が飲み込めないでいるところをボコボコにしたと」
「まぁ、そうなるのかな〜」
ほんと適当だな、この人。藤沢さんが気の毒に思えてきた。
最終的な結論としては、『俺が勝つのはほぼ不可能。運が良くて逃げ回って引き分け』
イブは反対するかと思ったら、意外や意外すんなり受け入れてくれた。
もしもの時のためにーーというか使うことがほぼ限られているのだけれど、郁人さんと雅樹からそれぞれ100ライフずつ貸してもらった。これを返すのに何年かかることやら。
会議の帰り道、誰かに呼び止められた。
「君の悪魔かわいいね。僕も女の子が良かったな」
「っ!? 何の用……ですか」
あまりに突然のことだったので、思わず声が上ずってしまった。我ながら恥ずかしいあまりである。これで平静を装っているつもりなのだから、なおさら恥ずかしい。それもこれも相手がーー藤沢聖治が悪い。
「君、神峰 慎哉君だよね? 大学の講義にいた」
「そ、そうですけど。なんで分かったんですか?」
講義には大勢の人がいた。その中で俺一人を見つけるのは難しいはずだ。
「最後に感想文を提出してもらったでしょ。そのときにたまたまね」
初めにこの人に抱いた感情は好青年でいい人。だが今この人に抱いてる感情は恐怖だ。畏怖、悪寒、絶望。なんでもいい。ただ単に俺はこの人を恐ろしく思っている。
俺は無理矢理声を絞り出す。喉に何かが詰まっているような、粘りついているような感覚に襲われる。
「そ、それで……何か用です、か?」
「あ、そうだった。次のディール負けてくれないかな?」
俺は息を飲む。ここで何かを言ってしまえば潰されてしまいそうだったから。
「今はちょっとお金を失えない状況でさ。この件を無事終わらせたら、ちゃんと全額返す」
全額返金、甘美な響きだ。甘い、あまりにもうますぎる。この条件を飲んでいいものか考え込んでしまう。そこに追い打ちをかけるように言葉を繋げる。
「もし心配だったら、誓約書を書いてもいい。というか、もう作ってきた。あとは君の名前と判子があれば完成する」
それはとても偽物とは思えない、下手したら法律の下でも機能するような現実味があった。ここで俺は予想が確信に変わった。
ーー俺は、この人には勝てない。
意識せずとも、右手が誓約書を掴もうとしている。妨げるものは何もなく、ただただ自然に配られたプリントを受け取るように前に出す。
「ダメ」
凛とした声が耳に届く。意識がスーッと降りてきた。あぁ、俺は何度イブに助けられているんだろう。掴まれた右手に視線を落とし、再び藤沢さんを見る。
俺はとことん運が悪いと実感する。こんなわけのわからない世界に連れてこられるし、いきなりディールとかいう戦闘を強いられるし、おまけにそのディールの相手は強い人ばっかりだ。本当についてない。
でも、と自分に言い聞かせる。
悪いことだけじゃない。雅樹や郁人さんといういい先輩に出会えた。瑠美と友だちになれた、沙織にもまた会えた。なにより、俺を何度も救ってくれる少女ーーイブに出会えた。
悪いことだけじゃない、ともう一度言い聞かせる。
そして俺はイブを信じてみようと思う。こんなに俺を助けてくれているのだ。少しくらい信じてみないとイブに悪い。
俺は勝つよ。勝って、なんかイブにお礼をしてやろう。金なら有り余ってるんだ。
「お断りします。これは俺だけの問題じゃないので」
「そうかい。残念だよ」
そう言って、藤沢さんは立ち去っていった。
ここまできてなんだけど、これまでものすごーく死亡フラグを立ててしまった気がするが、気にしないことにした。
でもなんでイブは反対したんだ? 作戦会議の時はすんなり受け入れていたのに。我慢してたのかな。




