第4話
またもや更新が遅くなってしまい、申し訳ない限りです
本日は瑠美と沙織が俺のアパートに勉強を教えに——沙織は道案内のために来ている。沙織はもう帰ってもいいんじゃないだろうか。来てそうそう帰れというのもかわいそうな話だが。こいつはこのままここにいて、本当に何をするつもりでいるんだろうか。
「ところでイブさんはどちらに?」
この女、俺が暴力を受けたことに対して、スルーしやがった。沙織って、意外と黒い? こいつもノってきたくせに。
面倒だと思いつつも、ある一点を指さす。そこにはふかふかの布団と枕がある。そこに一度飛び込めば、時を忘れ、己の意識すらも失う。だがそこに恐怖はなく、むしろ心地よいくらいだ。そんな超癒し空間——言ってしまえばベッドである。
ただの布団の塊がもぞもぞと動き始めた。
「慎哉、うるさい」
布団の塊と化していたのはもちろんイブなわけで、誰も驚きはしなかった。まあ、うん、その……当然だよね。
「ごめんなー、イブ。今日はちょっとばかし騒がしいぞ」
「できるだけ静かに……」
イブは会話の途中だというのに、再び枕に顔をうずめた。
「また寝るんですの?!」
「う、うるさい。で、……誰だっけ?」
「沙織! 七城沙織ですわよ!!」
「さお……り」
これはたぶんまた覚えてないな。
「イブは朝に弱いんだ。勘弁してやってくれ」
「朝!? 今は昼ですわよ!」
沙織の方もダメらしい。名前を覚えられていないことがそれほどショックだったのか。
沙織はというと、まだ騒ぎ続けている。イブもさすがに観念したのか、ようやく体を起こした。
イブは目をこすりつつ、体にかかっていた布団をどける。そこから覗く白い足。――非常に眼福である。
「何を見てるんですの?」
「い、いや、何も」
沙織がジト目で見てきたので、思わず目を逸らしてしまった。それでも刺さり続ける視線が痛い。
「イブが着てる服ってもしかしてお前のか?」
瑠美の言う通り、イブが着ているのは俺のパジャマである。イブは一着しか服を持っていなかったので、俺のを貸すしかなかったのだ。というか、急に会話に入ってきたと思ったら、そんなことかよ。
俺は肯定を示すべく、首を縦に振る。
「どうりでサイズが合ってないわけだ。というか、悪魔って服くらい作れるんじゃないのか?」
「え? おい、イブ? まさか……」
「魔力もったいないから」
こいつ、知ってて黙ってたな。まあ、服には金をかけてないので良しとしよう。絶対服なんか買ってやらん。女の服は高いらしいからな。
「慎哉、おなかすいた」
こいつは、ほんとに……。なぜだかため息がもれてしまう。
「とりあえず、顔くらいは洗ってこい」
イブは返事をすると、おぼつかない足取りで、洗面所へ向かう。
その間に俺はいつものごとく冷凍庫を開ける。もちろんイブの昼飯のためだ。
「何してるんですの?」
「イブの昼飯をな。俺のじゃお気に召さないらしくて」
沙織は少し考える仕草をすると、すぐに口を開いた。
「オムライスを作ればいいんですわよね? それならわたくしが作って差し上げますわ!」
その自信ありげ発言に不安を感じた。お嬢様と言えば、料理下手というイメージがある。まあ、そうでなくても料理が苦手な女の子はいるけれど。
「本当に大丈夫なのか?」
先程から盗み聞きしていたらしい瑠美が代弁してくれた。
「バカにしてるんですの!? わたくしだって料理くらいできますわよ!」
この言い訳じみた発言がますます俺の不安を大きくした。不安で胸を押しつぶされながら、沙織の料理ができるのを待つ。
洗面所から帰ってきたイブは自分の食器を用意し、食べる準備万端である。結局、まだ1回も勉強しないまま、沙織特製オムライスが出来上がった。
見た目は意外にも普通だ。というよりむしろおいしそうですらある。
「いただきます」
イブは早速沙織特製オムライスにスプーンを入れた。できたてのオムライスからは湯気が立ち込めている。中を覆う卵を割るとさらに湯気が上がり、匂いが広がった。
イブは卵とチキンライスをスプーンにのせ、口に運んだ。
「おいしい」
だろうな。見た目からしておいしそうだ。これで不味かったら詐欺である。
「慎哉の作ったやつよりおいしい」
「余計なことは言わなくていい。見ればわかる」
なんだか見てると、俺も食べたくなってしまった。
「なぁ、イブ。ひと口くれないか?」
ん、とイブはスプーンを俺に向かって差し出してきた。いわゆるあーん状態である。俺は躊躇わず、それを口に入れた。
うまい。この一言に限るな。
「ちょっ! 何してるんですの!?」
「ん? 普通にうまかったぞ?」
「え、えぇ。ありがとうございます。って、そうじゃありませんの!」
沙織は少し顔を赤らめていたが、すぐに話題を戻してきた。――チッ。ダメだったか。
「慎哉! お前、自分の悪魔が人型でしかも女だからって、変なことしてないだろうな!」
「は!? そんなことしてねーよ!」
沙織だけじゃなく、瑠美まで参戦してくるとは。これはちょっとまずいぞ。俺の保身に関わるからな。
そんなところにイブまで参加してきた。
「ねぇ、変なことってなに?」
「は? イブまで何言ってんの!?」
「ど、ど、どういうことですの!?」
「なんにもねーよ!」
こんな調子で全く勉強できないまま、3時が過ぎていた。ほんと何しに来てもらったんだっけ?
そこから2時間がんばってみたもののあまり身につきはしなかった。
物理はほんとダメだな。他の人と視点が違う。
「慎哉、物理しかしてこなかったが、数学は大丈夫なのか?」
物理の他に数学のテストもあったんだっけ。普通に忘れてたぞ。
「うーん。まぁ、大丈夫なんじゃないか?」
「おい、そんな適当でいいのかよ」
「あれは高校よりちょっと難しくなっただけだし、たぶん高校生でも解けるレベルだと思う」
「いいんだな? 落としてもアタシは知らないぞ」
挑発的な態度を取りつつも、ちょっとだけ心配してくれる瑠美に頬が緩んだ。
「瑠美って口調は荒いけど、意外と優しいんだな」
「ばっ! バカか、お前は!! なんでさっきの言葉がそうなるんだよ」
「慌ててる時点で、そうだと思うがな」
「もういい! 今日は全くできなかったから、明日もするぞ。あまりできなかっのはアタシのせいでもあるしな」
え、明日も? 明日は瑠美たちも自分の勉強をすると思ったから、今日にしたのに。
「自分の勉強はしなくていいのか?」
「アタシを誰だと思ってるんだよ」
瑠美の得意げな顔を見ていると、不安なんて一切なくなってしまった。
「わたくしも行きますわ!」
完全に置いてけぼりだった沙織がようやく口を開いた。
「おいおい、沙織まで来ることないだろ」
「う! そ、そうですけど」
「沙織には毎日来てほしい」
会話に割って入ってきたのはもちろんイブである。昼に食べたオムライスがまた食べたいだけだろうな。
「さすがに毎日は迷惑だろ? ちゃんと沙織のことも考えないとダメだぞ」
「う、わかった。がまんする」
「え、えっと……」
沙織が何か言いたげな目をしていたが、ここは無視するとしよう。
それにしてもイブは最近また人間らしくなった。人への配慮も覚えたようだし。食べ物ーー特にオムライスのことになると子どもっぽくなってしまうが、ディールのときは全く違う。
もしかして多重人格なんじゃないか、と思うほどである。
翌日、瑠美と沙織は午前中に来た。やはりと言うべきなのか、午前中は全く勉強できなかった。




