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Time is money  作者: 桧凪紅
第1章~金命世界~
16/25

安息

「打ち上げしよっか」


 そんなひょんな言葉で連れてこられたのはある一軒の居酒屋だった。

 この人、打ち上げを理由に飲む気満々だな。


「ここに来るのは何度目だろうな」


「そんなにここに来てるのか?」


「ディールのたびに来てるな」


 おいおい。それは来すぎだろ。でもこの人たちがどのくらいの周期でディールをしてるのか知らないから、そんな判断はできないな。


「大体月1くらいか?」


「ほんと瑠美は何でも知ってるな。こんなこともデータ取ってるのか?」


「データは大事だが、こんなことには必要ないだろ。毎月のことだから、もう覚えてしまっただけだ」


 2人で割りとどうでもいい会話をしていると、郁人さんが割って入ってきた。


「こんなとこで立ち話してもなんだし、早く席とろうよ。ちょうどあそこが空いてるしさ」


 そう言っている間に雅樹はすでに座っていた。ちゃっかり沙織も座っている。

 そういえば、べリアルが見当たらないな。もうカードの状態にしたのかな。それに比べてこいつは……。居酒屋が珍しいのか、辺りをキョロキョロ見渡している。こうして見ると、単なる不審者だな。


 こうして俺と瑠美も大人しく席についた。

 取った場所は仕切りがある和室見たくなっていて、中央には長机が置いてある。

 アパートではずっとフローリングだったからな。畳が懐かしく感じる。あー、実家帰りてー。

 イブは畳も初めて見たのか、ずっと畳を触っている。──何してんだよ。


 席順は奥から雅樹、郁人さん、瑠美。その向かい側に沙織、俺、イブという風になっている。

 早速注文を終わらせて、まずは飲み物が先に届く。


「それじゃあ、慎哉君と沙織ちゃんの加入と、ついでに僕たち3人の勝利を祝して、カンパーイ!」


 郁人さんの音頭おんどに応えるように、グラスが重なり合う音が響く。

 というか、雅樹たちの勝利はついでなのね。そっちメインだと思ってたんだけど。

 郁人さんと雅樹にはもちろんお酒が注がれている。未成年である俺たちはお茶だ。イブも念のため、お茶にしてある。

 それに俺は酒のうまさというものが全く分からん。高校卒業したての頃はふざけて酒に手を出したものだ。しかし1本で限界がきてしまった。どうも俺の身体は酒に強くないらしい。そういえば、家で親が酒を飲んでるところを見たことないな。酒に弱いのは遺伝なのか? あの時、俺は一生酒は飲まないと誓った。


「みんなって大学生なの? 僕らはそうだけど。ちなみに僕と雅樹は同じ大学の3年だよ~」


「オレと郁人のレベルを一緒にするなよ。俺は工学部機械科だけど、お前は医学部じゃねーか」


 ほええええええ!! 郁人さんってそんなに頭良かったのか。見た目からは想像できんな。この面子の中で1番できるんじゃねーの? 瑠美かと思ってたぞ。


「アタシは慎哉と同じ大学のはずだ。情報処理科の1年」


「あ、やっぱり同い年だったんだ」


「違う! アタシは高校の時、留学したから大学に入るのが遅れただけなんだ! ちゃんと1つ上なんだぞー」


 うわ。かわいいなー、もう。必死に否定するところとかもう。

 そんな目で見ていたら、また瑠美に睨まれた。あれ? おかしいな。両サイドからも視線を感じる。これ、振り向いてら確実にあかんパターンのやつだよな。


「というか、なんで知ってるんだよ。1学年で何千人いると思ってるんだよ」


「アタシの情報網を甘く見るなとだけ言っておく」


 悪い顔してるなー。これは本当に逆らわない方がいいようだ。ちょっと待てよ。同じ大学ということは同じ科目を取っていたら、教えて──あわよくば課題やレポートを見せてくれるのではないか? これで俺の大学生活も安泰だな。


「結局沙織はどの大学に入ったんだ?」


上北かみきた大学ですわ」


「は!? 俺と一緒じゃねーか! どうして黙ってたんだ?」


「それは……。なんとなくですわ!」


 なんだそりゃ。理由になってねーよ。バカなのかな?


「わたくしが前期失敗したなんて言えませんわ」


 沙織が隣で何かつぶやいたようだが、あまりにももごもごしていたのでうまく聞き取れなかった。

 あとから聞いたのだが、沙織は経済学部だそうだ。将来的には家業を継ぐことになるのだから、当然のことだろう。ちなみに俺は電気電子科である。正直専門科目はさっぱり分からん。


「で、これからどうするんですか? 派閥にはいったはいいものの、これからのこととか何もわからないんですけど」


「それは僕らも同じだよ。これから先のことなんて何も分からない」


 それでも──と郁人さんは言葉をつむぐ。


「ディールに敗けても破たんしない程度の供給はする。今を生きるために最大限の力添えはするつもりだよ。最低でも100はみんなに持っていてほしいな」


 この人は誰にも死んでほしくないんだ。だから対戦相手に勝つための技術ではなく、敗けた場合の対処を教えたんだ。そして対策も少なからずある。

 供給ライフのほとんどは郁人さんと雅樹が補ってくれるのだろう。しかしそれも無限ではない──有限なのだ。限られた中でそれをやりくりするのがどれほど大変か。今の俺にはさっぱり分からなかった。


「とりあえず2人とも100にしとくから、カードだして?」


 2人というのはたぶん俺と沙織のことだろう。そしてちょうど俺たちの前には郁人さんと雅樹が座っている。これは偶然なのか? それとも…………。


 沙織はべリアルをすでにカードにしていたので準備万端である。残りはイブなわけだが、こいつが素直に言うことを聞いてくれるかどうか。すると左側から手を握られる感覚があった。その手の方を振り向いてみると、イブがこちらをじっと見ていた。しかも結構近い距離で。いきなり女の子──人間ではなく悪魔な訳だが──の顔が近くにあったのだ。

 これは驚くしかないだろう。俺は驚きのあまり、後ろに跳びのいてしまった。右側には沙織がいるというのに。今度は沙織に背中からぶつかってしまった。それでも手を離さないイブはある意味すごいと思った。


「あ、すまん」


「べ、別にいいですわよ」


 口ではそう言っていたが、明らかに目をらしていた。これはやってしまったパターンかな?

 そのことをなんとも思っていなさそうなイブに、手を思いっきり引っ張られた。それも体ごと移動してしまったほどだ。


「必要なことなんでしょ?」


 いきなりの発言に、俺はうなずくことしかできなかった。突然のことで頭が混乱していたのかもしれない。

 あれほどカードになることを嫌っていたのに、今度はすんなり承諾してくれた。というか自分から申し出てくれた。こんな珍しいこともあるもんだな。明日は雨かもしれないなぁ──などと考えているうちに、イブの姿が目の前が消えた。ここが俺たちが本来住まう世界──現実世界だということも意識せずに。


 イブが消えた数秒後に店員が通りかかる。


「と、トイレ!」


 これくらいしか言い訳が思い浮かばず、さらに叫んでしまった。店員はというとイブが消えたことを気にしていないどころか、気付いてすらなかった。


「あ、お手洗いでしたら、奥に進んで左に曲がるとあります」


「あ、ありがとうございます」


 店員が立ち去った後、みんなから笑われた。「やるね~」とか「お前、バカだろ」とか言われてしまった。それより、お願いだから何か言ってください、沙織さん。逆に何も言わずに笑われると、それはそれで怖い。


 こうして別に行きたくもないトイレへと歩き出した。ほんとバカだな、俺。やってしまった感を抱きながら、1分も経たずに戻ってきた。

 まだ笑ってたんですか、あなたたち。イブからも軽蔑の目で見られているのだろう。今は目なんてないから分かんないけど。

 ライフの受け渡しはほんの10秒ほどで終わった。与える側を上に、受け取る側を下にしてかざす。あとは渡すライフ数を宣言するだけだ。なんとも簡単な話である。カードは淡く光り出し、すぐに収まった。それが受け渡し終了の合図だろう。


「イブちゃんは悪魔なのに食事するなんて、珍しいね~」


「最初は知らなかったんですよ。悪魔に食事が必要ないなんて」


「でも最初って、食べようとしなくない? まず食事って行為自体知らなかったし」


「そこは俺の見よう見まねで覚えたみたいです」


 俺はイブと最初に家に連れて帰ったことのことをいろいろと話した。あれ? この言い方、語弊が生まれそうだな。


「特に好きな食べ物ってあるの?」


「オムライス!」


 イブに好きな食べ物なんてあったのか。ちょっと声のトーンも高い気がする。基本的に無表情だから分かんないんだよな。

「すみませーん」と郁人さんが店員を呼び止める。


「オムライスってありますか?」


「ちょっと! ここは居酒屋ですよ!? あるはずが……」


「はい、ございますよ」


 あるのかよ!! あとでメニューを確認してみたところ、オムライスなんてものは載ってなかった。


 その後、他愛のない会話をし、その場はお開きになった。

 帰り道の途中で、どうして自らカードになったのかを尋ねると、「必要なことみたいだったから」と返ってきた。ついでにカードになることを拒む理由も聞いてみたが、それについてはやはり答えてくれなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 月明かりのみに照らされた一室の部屋。そこは今時珍しい和室で、ほのかに畳の香りがする。この空間には男が2人座っている。1人は上座に、この家の主であるかのように、でかでかと座っている。片や、せせこましく縮こまり、頭を垂れて正座している。


「また失敗した(まけた)ようだな」


 妙に威圧的な声がこの静まり返った部屋に響く。


「すみません。しかし次こそは!」


「もう次はないと言ったはずだが?」


「ですが、次は勝てます!」


「その言葉はもう聞き飽きた。それに報告によれば、最後の方は圧倒的だったそうじゃないか」


 相手からの言葉に男は口ごもる。男が一番言われたくない言葉を的確に突いてくる。それ以上、男に反論することは許されなかった。


「氷藤 誠。お前を矢切 郁人の担当から外す」




この話の中でお酒を飲む描写が含まれていますが、「飲酒は二十歳になってから!」です。

これは法律で定められているので、ちゃんと守るようにしてください。

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