強者VS強者
次話投稿にかなーーーり時間がかかってしまいました。すみません。
その代わり、内容はちょっとだけ長くなっております。
今回は雅樹、瑠美の勝利でディールを終えた。2人は無事に勝ち抜けている。誰も傷つかずディールを終えることができたことは快く思う。
そんな中で「僕はこれからディールがあるけど、みんなは帰ってもいいよ~」とかあの人が言い出すものだから、これまでの安堵が一気に吹っ飛んだ。そんなことを言われたら、帰ろうにも帰れないではないか。この人は絶対分かって言ってるな。でも郁人さんのディールは興味がある。俺のときは明らかに手を抜いていた。郁人さん──もといハウレスの本気を見てみたい。
「じゃあ行ってくるよ」
郁人さんは唐突に俺たちのいるビルの屋上から飛び降りた。慌てて下を覗くと、ハウレスがいつの間にか姿を現し、郁人さんの足場を炎で作っている。あれ、熱くないのか? 見えないから分かんないけど。
「あれは周りの空気を熱して、上昇気流を作り出している。あとはその空気量と温度を調整することで、宙に浮いてられるということだ。現実での原理はこんなところだな」
不思議がっている俺に説明を施してくれたのは瑠美だ。さすがは情報処理を担当しているだけはあるな。小さいけど。
そんなことを思っていると、また瑠美に睨まれてしまった。心の声のはずなのになんで分かんの? 心を読む能力でも持ってるんじゃないのか? 悪魔でもないのに。
「郁人のディールは見といて損はないと思うぞ? しかも今回の対戦相手はあいつだしな」
雅樹の“あいつ”という言葉に引っかかりつつも、それ以前の郁人という発言が気になっていた。ん? 郁人? 呼び捨て? もしかして郁人さんと同じ年なんじゃ。ちょっとこの疑問を投げかけてみた。
「ん? オレと郁人は確かに同級生だよ。しかも同じ大学の3年生」
3年生ということは大体、21歳ってことだな。やっぱり先輩なんじゃないか!! この人若く見えるから、てっきり俺と同じくらいだと思ってた。
「マジ……ですか。すんません、ずっとタメ口で」
「別にどうでもいいよ、そのままで。全く気にしてなかったし。そこより気にするところはあると思うんだけど」
気にすること──それはたぶん“あいつ”についてだろう。どうやら瑠美も知っているらしい。基本的には1人の対戦相手に対して、1回しかディールは行われない。たったそれだけでは対戦相手を覚えていられるわけがない。それなのに雅樹も瑠美も知っているということは何回か、郁人さんと闘っているということになる。
そのとき郁人さんは話題の“あいつ”と対面していた。
「君も懲りないね~。どうせ僕には勝てないっていうのに」
「うるさい! 今回は分からねーだろ!」
うーん、テンションの差が激しすぎる。明らかにあちら側が浮いている。
「あいつは氷藤 誠。郁人とはライバルになるのかな」
「隣の悪魔はエーリアル。氷の魔法を得意としている」
氷藤 誠の説明は雅樹が、エーリアルの説明は瑠美がしてくれた。悪魔の説明は雅樹には無理だと判断したのだろう。郁人さんの口ぶりからすると氷藤には負けていないらしい。
「確かに氷藤は郁人には勝ててない。でも郁人も氷藤には勝ててないんだ」
「郁人さんと氷藤はずっと引き分けている。今まで7回ディールをしてるんだけどな。今回で8回目だ」
俺はエーリアルに注目した。
エーリアルはもちろん人型悪魔で、イブと同じく女性である。身長はさほど高くなく、大体170㎝くらいだ。人間の体格で考えると、女にしては大きい方だ。イブが160㎝くらいだな。
しかしけしからんな。自然と視線が引き寄せられてしまう。男ならしょうがない、しょうがないんだ。これは自然の摂理であって、決していやらしい意味では──いや、そういうことでなくはないが。それにしても大きい胸だな。イブとは大違いだ。これが本当の胸囲の格差社会だな。
それを察したか否か、こちらをキッ!と睨めつけてきた。だからこれはしょうがないんだって。なんだか沙織からも見られている気がするのだが、気のせいだろう。
他の身体的な特徴としては肌がものすごく白い。ハウレスと比べるとなおさら。四肢も細く、頭には魔女のような帽子を被っている。
瑠美からの情報によると、エーリアルの能力は氷らしい。ハウレスは炎なので、相性はいいはずだ。
今回の賭け額を見て、さらに驚いた。126L。このディール1回で、俺のライフは全てなくなる。郁人さんたちはこれ以上のライフを所持しているのだろう。もし俺だったら、確実に死んでる。
遂にディールが始まった。
鐘が鳴ると同時にハウレスは炎を、エーリアルは氷をそれぞれ手のひらに溜める。それを2者同時に放つと、ほぼ中央で爆散した。炎と氷なら、炎の方が強いかと思っていたが、力の差はほとんどない。しかも氷の結晶が残っているのか、破片がハウレスに飛んできている。だがあの炎の膜ですべてを防ぎ、溶かしている。
「ほんとうざいわね、その膜。どうにかしてくれないかしら」
「てめえの氷も似たようなもんだろ」
「ワタシの氷は芸術なの! あなたの炎と一緒にしないでくれる!? ワタシの氷は絶対零度の氷。すべての物質を凍らせる氷。時を止める氷。美しいものは美しいままに。これがワタシの芸術」
エーリアルは先程よりも大きな氷の塊をハウレスに向かって放った。それをハウレスは片腕で受け止め、蒸発させようと火力を上げる。氷と炎の境界線は熱で揺らいでいて、炎の色も黄白色から青色に変わっている。
ハウレスが炎の膜で受け止めようとしないなんて。それほど強力なのか。
ハウレスが氷の塊と奮闘している間に、エーリアルは走って距離をつめる。
「氷核」
エーリアルが地面に手をつけると、地面からハウレスを覆うように氷が構築されていく。ハウレスの体がすべて覆われたとき、動きがピタリと止まった。それまでハウレスが食い止めていた氷塊は地面に落ちる。まさしくハウレスの時間が止まった。
「ふ……ざけ……るな。ふざ……けるな」
突然ハウレスの体が光出し、氷核にヒビが入り始めた。そしてハウレスの雄叫びとともに氷核は四散する。
「ようやく本気になったわね」
「ちんたらやるのはもうやめだ。お前は俺様を怒らせた。今回の勝負は俺様が勝つ」
「氷槍」
エーリアルは右手に氷の槍を生成する。それを優雅かつ力強く振り回し構える。そしてそのままハウレスに向かって駆け出した。
「これはできるだけ使いたくなかったんだけどな」
ハウレスは何もないところから、大剣を取り出す。空間の狭間に手を突っ込み、そこから大剣を抜き取った感じだ。その大剣は西洋風で、自分自身の身長ほどもあり、柄の部分には蛇が巻き付いている。
さらにハウレスはその大剣に黄白色の炎を纏わせた。この炎の熱で溶けないのはやはり魔力で創られているのだろう。たぶんイブの大鎌もそうだ。
そこにエーリアルが正面から突っ込んでくる。槍の切っ先を大剣の腹でガードする。ハウレスは少し後ろに押しやられるものの、きちんと攻撃は完璧にガードしている。
エーリアルは槍をそのまま下にずらし、持っていた部分でハウレスの左腕を打つ。しかし炎の膜に邪魔され、ダメージはさほど感じられない。しかし左手が大剣から離れてしまった。
そこにつけ込むように、エーリアルは流れるような動作で大剣をはたき落とす。はたき落とすと言っても、完全に手が離れた訳ではない。だがエーリアルが攻撃をまともに当てるには充分すぎるほどの隙だった。
すかさず槍の切っ先をハウレスに向かい放つ。途中炎の膜にぶつかったが、捕らえられることはない。速度は少し落ちるものの、体の中心──鳩尾の部分を狙っているのだ。避けるのはまず無理だろう。身軽ならハウレスは簡単に避けて見せるだろうが、今は大剣を持っている。つけ入る隙があったとしたら、たぶんそこだろう。攻撃力には抜群に特化しているが、防御とスピード勝負には不向きだ。
氷槍がハウレスに触れる一歩手前のところで、炎の膜にぶつかる。それはいつもよりも何倍も凝縮されているものだった。いつもは視覚化されていないが、今回ははっきりと見て取れるのだから。それにぶつかり、氷槍はスピードを失った。その隙に下に降ろされた大剣を勢いよく上げ、氷槍の切っ先を切断する。
槍の攻撃部位を失ったエーリアルは大きく後退する。
「これも止められちゃうのね。それ、どうにかしてくれないかしら?」
たぶん“それ”とはあの炎の膜を指すのだろう。本当にあれは厄介だからな。これだけの温度差があっても貫けないなんて。
「逆に命拾いしてるのを忘れるなよ」
俺はその言葉が指す意味を全く理解していなかった。さっきからハウレスはずっと防御に回っているじゃないか。それなのにどうしてそんなことを言えるのか、分からなかった。
「じゃんじゃん行くわよー。氷細剣」
手に今度はフェンシングに使うような──西洋騎士が使っていたような剣身が細い剣を生成する。それを右手に持ち、縦に構える。さらに左腕は腰の後ろに回し、剣闘士のような構えを取る。それは本当に様になっていて、それ一つで芸術作品のようだ。
そしてエーリアルは再びハウレスに向かって駆け出す。ハウレスに向かって放たれる剣閃──突き、突き、突き。それは光速のように突き抜ける。それをハウレスはまた大剣の腹でガードする。金属同士がぶつかる音とそこから吹き抜けるちょっとした風の音だけが聴こえている。
「さっきから守ってばかりじゃない。そんなんで勝てると思ってるの? その大剣は何のために出したのかしら」
それでもハウレスは黙って、エーリアルの突きを受け続けている。これほど侮辱されても黙ったままなんて、明らかにおかしい。いつもならたぶんキレているだろう。
そんなときピキッと嫌な音が走った。ハウレスの大剣に罅が入ったのだ。ここでエーリアルは攻撃をやめ後退する。
「あははははは。一回も振らないまま、壊れるなんて。ぷっ、くくくくく。なんてお間抜けなのかしら」
「あまりこんなことは言いたくなかったが、褒めてやろう。俺様の大剣をこんなにしたことを」
「なーに、強がってんのよ。あんたは武器を壊されたのよ?」
「あ? なんか勘違いしてねーか? 壊れたんじゃねー。“壊させた”んだ」
ハウレスはちらっと残り時間を確認する。およそ2分。それがこのディールに残された時間だ。それを見たハウレスは口角をわずかに上げると、大剣を地面に突き刺す。
「この大剣は俺様の力の枷だ。厄介なことに自分では壊せねーんだよ。まずこれを壊せるやつとやるのは初めてだがな」
地面に突き立てられた大剣の罅からは黄白色の魔力が溢れ出し、柄の蛇に集約する。その勢いは徐々に激しくなり、ついに刃の部分を粉々に打ち砕いた。そして柄の蛇は実体を持たない黄白色の蛇と化し、ハウレスの体に巻き付く。
ハウレスはその戻ってきた力を確かめるように、手を握ったり放したりしている。ようやくそれに納得したのか、それまでの動作を止め、今一度エーリアルに向き直る。
「まあ、こんなものか。さっき言ったこと後悔するなよ!」
ハウレスは右手を握りしめ、体を傾けて直進する。体に巻き付いた蛇は右拳に集中し、黄白色に光っている。ただの直進なら、誰も驚かない。
だがその圧倒的なまでスピードに、エーリアルは持っていた細剣を捨て、両手をクロスし防御態勢に入る。
一瞬で詰められる間合い。そこから放たれる正拳。両腕の骨が砕けんばかりの爆発音が辺りに響く。その運動エネルギーを消費できずに、後ろに後退する。よく立っていられるものだ。普通の悪魔なら、飛んで地面に伏せているだろう。
それでも立ち続けたエーリアルに更なる追い討ちをかけるべく、ハウレスはエーリアルの後退よりも速く移動する。
ハウレスは後ろからエーリアルの足を蹴り上げた。これで完全にエーリアルの体が宙に浮いたことになる。そして今度は真上から拳を降り下ろす。
エーリアルはそのまま重力に逆らうことなく、地面に落ちる。さらなるエネルギーを乗せて。
地面は割れ、そこに隕石が落下したかのように凹んでいる。その中心にいるのはもちろんエーリアルただ一人。
戦闘中ずっとかぶっていた帽子がその場からふわりと風で流される。そこで隠されていた小さな1本の角と、先のとんがった耳が露になった。それをほぼほぼ覆い尽くす碧く透き通った髪が垂れ流されている。
ハウレスはその後のエーリアルの挙動を見るべく、一度後ろに跳んだ。しかしエーリアルに動く気配はない。
「エリーー!!」
そんな中でそのくぼみに駆け寄るものが一人──氷藤 誠だ。エリーというのはおそらくエーリアルの愛称だろう。イブリースのことをイブと呼ぶように。
「エリー、大丈夫か!?」
「大丈夫よ。だから離れてなさい」
氷藤はエーリアルの肩を抱きかかえる。その言葉に覇気はなく、もうすでに闘える状況ではなかった。
俺たちがハウレスと闘ったときの光景とダブってしまった。あの時も俺が倒れていたイブに駆け寄ったな。
「ダメだ。もうやめよう」
「でもそれじゃあ誠は……」
「まあ、大丈夫だろ。なんとかなるさ。これ以上、エリーの傷つく姿は見たくないしな」
「うるさいわね。でもそんな顔しないで」
エーリアルの細くて白い指が氷藤の頬に触れる。氷の能力を持っているためなのか、その手は冷たかった。でもほんのりとした温かさも感じられた。氷藤はその手をそっと握りしめる。まるで自分の体温でその手を温めるように。
「誠は黙って、ワタシの応援してればいいのよ」
「黙って応援なんだ」
エーリアルのちょっとおかしな発言に苦笑する。「そこはスルーしなさいよ」というエーリアルの小言が可愛くて、氷藤はまた笑ってしまった。
そんな中、ハウレスはこのディールに決着をつけようと、ゆっくりと近づいてくる。それに応えるように、氷藤もまた立ち上がる。そしてエーリアルを庇うかのように、前に立つ。
「ハウレス、ちょっとストップ」
その声に反応して、ピタリと動きを止めた。もちろん声の主は郁人さんだ。
「やっぱりうちの派閥に来ない?」
「またそれか。それならもう答えは決まっている ──ノーだ」
「なんでそこまであそこに固執するのさ~。何かメリットでもあるの?」
「ディールの度に死なない程度のライフの供給をしてくれるし、対戦相手の情報も提供してくれる。それだけで充分だろ」
「それくらいならうちでもやってるよ。うちには優秀な人材がいるしね。それにあそこには定期的な徴収があるじゃん」
「それはこの国のために使ってるんだ。なにも悪いことじゃないだろ!」
郁人さんの自分の居場所を否定するような発言に氷藤もつい声を荒げていまう。それもお構いなしに郁人さんは話を続ける。
「それは本当にこの国のために使われているのかい? その詳細は知らないんじゃないかい? ちゃんと本質を見抜けているのかい?」
「だからお前は…………」
そこで言葉を区切るように止めた。郁人さんは聞く耳を持たないと言った様子で後ろを振り返る。
「ハウレス、もういいよ。ちょうど時間だしね」
ハウレスは郁人さんの指示に従い、その場から離れる。そして宣言通りにディールの終了を示す鐘が鳴り響いた。
今回で8回目となるディールもまた引き分けという結果になってしまった。
「おい、またかよー!」「あぶねー。もう少しで敗けるところだったぜ」など、様々なヤジが飛び交う中、郁人さんは何でもないかのように俺たちのところに戻ってきた。
そして一言。
「打ち上げしよっか」




