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Time is money  作者: 桧凪紅
第1章~金命世界~
14/25

それぞれのディール

 初の顔合わせから、早一週間が経った。本日は雅樹と瑠美のディールがあるので、その観戦に沙織と郁人さんと来ている。

 本当は来たくはなかったのだが、なんでも「仲間の悪魔についてはちゃんとチェックしておくように」とのことだ。

 ディールの観戦はビルの屋上からできるようになっている。大きいディールだとモニターなどが設置されるようだ。今回はそこまで有名どころの人たちのディールではないのだろう。その有名どころというのが俺にはまだ分かっていない。派閥のリーダーがそれに当てはまるのだろうか。もしくはライフが多い人か。

 その辺はどうでもいいとして、まもなく雅樹のディールが始まろうとしていた。

 ふと視線を雅樹に移すと、すでに悪魔を呼び出し戦闘態勢にはいっていた。対戦相手も身構えている。鐘が鳴る前からピリピリとした緊張感が漂っている。

 雅樹の悪魔を見て、一瞬たじろいでしまった。あんなもの見せられて、驚かないやつなんていないだろ。俺の最初の対戦相手の悪魔であったタウロスよりは若干小さいが、それでも人をはるかに凌駕する巨体をもち合わせている。

 その巨体は青色の鱗で覆われていて、頭には悪魔の特徴である角が生えている。背には自分の身体ほどもある翼がある。その翼の翼膜は黒く、コウモリのそれと似ている。瞳は藍色で、蛇目みたくなっており、尻尾も生えている。

 つまり西洋の神話で悪魔と称され続けているドラゴンである。口元からは鋭い歯がのぞいている。

 相手の悪魔はこれぞ悪魔という感じの容姿をしている。体の全身は黒で覆われていて、人のような形をしてる。大まかな悪魔だと、デーモンのようである。瞳は怪しくきらめいていて、そいつと対峙たいじするだけで身の毛がよだつようだ。だがそれは雅樹のドラゴンを見る前ならばの話。そいつは人と変わりない大きさで、雅樹のそれと比べると明らかに小さすぎる。勝敗はもうすでに決まっているようなものだ。


 ディールの開始を知らせる鐘が辺りに鳴り響いた。

 動いたのは相手の悪魔だけ。雅樹はピクリとも動かない。

 相手はドラゴンに向かおうとはせず、雅樹に向かっている。自分の悪魔ではドラゴンには勝てないことを理解しての行動だろう。だがそれを考えていない雅樹ではない。

 デーモンが雅樹に触れる直前、突然ドラゴンが間に己の爪を突き立てた。そのとき初めてドラゴンが動いた。デーモンは後ろに跳び、いったん距離をとる。


「郁人さん。雅樹のドラゴンの能力ってなんなんですか?」


「ないよ」


「え?」


「あのドラゴンには能力なんてないんだ。もしかして慎哉君はすべての悪魔に能力があると思っているのかな?」


「違うんですか?」


「能力は人型悪魔の特権だよ。まあ、彼女みたいな例外もいるけどね」


「彼女?」


「時機に分かるよ。沙織ちゃんもそう思ってたくらいだから、知らなくても仕方ないのかもね」


 沙織という単語に反応して、さっきから黙って後ろに立っている沙織を見る。沙織は顔を若干赤くして、うろたえている。あたふたしていて、両手が行き場をなくしている。おい、その手はなんだ。その手は。


「仕方ありもせんのよ。わたくしだって、初心者なんですから」


「この前は俺の知識のなさに短絡して、偉そうに解説していたくせに」なんてことは絶対に言わない。だってこれ以上は言うなと目が語っている。しかも言ったら、絶対怒るだろ。もう目に見えている。めんどくさいことはごめんだ。


 そんなことを考えているうちに鐘が鳴った。今日は仲間のディールを観に来たというのに、これでは本末転倒だ。

 対戦相手を見ると、ターゲットがあったであろう場所にぽっかりと穴が開いている。デーモンにも同じように胸の真ん中に穴が開いている。ドラゴンの爪で貫かれでもしたのだろう。

 すでにドラゴンの姿はなく、雅樹ただ一人だけが立っていた。周りからは轟音のような歓声がどこからともなくあふれてくる。雅樹はその歓声に背を向けるようにビルの中へと消えていった。対戦相手とデーモンはいつの間にか消えていて、先程までディールが行われていた場所には何も残っていない。

「ディールにおいての殺傷行為で死ぬことはない」俺は最初にそう説明された。なぜそうなのかは説明されていない。それがルールなのだと。1+1が2であるように、この世界にとって、それは当たり前のことなのだろう。理屈なんてものはない。だが俺はどうしてもその摂理を受け入れることができない。別に雅樹を人殺しにしたいわけでも、そう思っているわけでもない。

 ただ何かが引っかかる。ま、気のせいだろうけどな。それに俺のカンは当たらない。テストの2択問題のときも……って、これ以上は長くなりそうなので割愛。


「ブレスも使わずに勝ったのか。相変わらず、とんでもない力だね~」


「ブレス?」


「雅樹のドラゴンは高出力のエネルギーを吹くんだよ。大きいレーザーみたいなね。僕の時は使ってたんだけどね~」


 やっぱり闘ってたのか。たぶんこの口ぶりだと勝ったのだろう。あれに勝つとか、ハウレスもとんだ化け物だな。


「あの程度なら私でも勝てるわ」


 おっと。いきなりしゃべりだすからビックリしちゃったじゃないか。ていうか、イブいたの? 全く気付かなかったぜ。お前の能力、もうステルスってことでいいんじゃね? そしてこいつはなにを張り合っているのだろう? とりあえずそのこぶしを引っ込めろ。危ないから。


「次は瑠美ちゃんの番だね。瑠美ちゃんの悪魔はおもしろいから見といた方が良いよ」


 あれ? この人今、瑠美“ちゃん”って言わなかったか? 俺はダメなのに、郁人さんはいいのか。これがリーダーの特権ってことなのかな。だとしたらしょうもないなぁ。


 そんなこんなしているうちに、雅樹もビルの屋上に到着していた。


「お疲れ~」


「どもっす。オレの闘いはどうだったよ?」


 突然話しかけられ一瞬、間が空く。郁人さんと話すものだとばかり思っていた。本当にこいつは馴れ馴れしいな。


「すごかったとしか言いようがないな。もう圧倒的だったというか」


「そうか。まあ、あんまし手ごたえがなかったのは確かだな」


 すると突然、ディールの開始の合図がなった。ここまでの会話はひとまず終了だ。

 瑠美の悪魔を見て、これまた驚いた。雅樹のドラゴンのときとはまた違った驚きである。今度は小さい悪魔だ。なんたって瑠美より小さい。出てくる順番が逆だったのなら、別に驚くほどのことでもなかったのだが。こう言ってはなんだが、弱そうというのが第一印象である。

 郁人さんによると、瑠美の悪魔はメリアスと言うらしい。メリアスの身長は大体130㎝程度。髪は明るめの緑色で、瑠美とは違いロングである。瞳はくりくりとして大きい。色は髪と同じ緑色。外見はとてもかわいらしい(小学生のような)女の子だ。

 そこで俺は違和感に気付いた。そう。メリアスには悪魔の象徴とも言える角がない。郁人さんが例外・・と言っていたのはこのことなのだろうか。さらに背には翼ではなく、昆虫のような半透明の羽がある。その姿はどう見ても悪魔には見えず、他に言い例えるならまるで“妖精”のようだ。妖精とは人の肩に乗る程度の小さいものをイメージしていたのだが。

 うって変わって、今度は対戦相手の悪魔。こちらはなんと人型悪魔だ。高位悪魔と呼ばれている人型に対して、悪魔とも分からないメリアス。俺にはどっちが勝つか、全く予想ができない。ま、見たままを言えば、メリアスが敗けるだろうとは思うけどね。

 そして辺りに鐘が鳴り響く。

 メリアスは手にハンマーを取り出す。ハンマーと言っても、巨大で物騒なものではなく、おもちゃとして売ってあるようなピコピコハンマーである。サイズは普通のカナヅチくらいで、殺傷能力はたぶんないだろう。それを手に、相手に向かって駆け出した。その速度も人並み。本当にこのディール大丈夫か? 普通に敗けそうなんだけど。

 メリアスはハンマーを振りかぶり、相手の悪魔に振り下ろす。相手はその攻撃とも言えない行為を避けようともせず、身体で受け止める。やはりダメージは見受けられない。そしてもう一撃くらわせる。ピコと虚しい音が鳴った。

 耐えかねた相手は右手を横に振る。たったそれだけの行動でメリアスは軽々と瑠美のところまで押し戻される。本当にメリアスのスペックは人間並みのようだ。


「あと一回だね」


 郁人さんが何か意味深な言葉を呟く。この意味を知るのに、そう時間はかからなかった。

 メリアスは吹き飛ばされてもめげずに相手に向かって走っていく。もちろんハンマーを振りかぶりながら。

 先程までの攻撃でそれには威力がないと判断し、今度はハンマーを右手で掴みにいく。ピコ。そんな音と共にメリアスは遠くに投げ飛ばされるかと思われた。

 ハンマーを握った手に力はなく、だらんと下に垂れている。メリアスがハンマーから手を離すと、それを握ったまま、手は完全に下に垂れた。その後、メリアスはちょんと後ろに押す。そんなものは攻撃ですらなく、ただ触れただけだ。

 しかし相手はそのベクトルには逆らえずに、重力に従い後ろ向きに倒れる。たったそれだけ。それだけの行動で人型悪魔を地面につけた。

 相手は身動きひとつ取れない。何かに縛られているようでもなく、ただただ脱力している。それでも口だけは動くらしく、なんとか話そうとしている。


「なん……だ、これ。力が……はい、らない」


 これがメリアスの能力。郁人さんに聞いたところ、あのハンマーで三回叩かれると、神経の伝達組織が一時的に止まってしまうそうだ。その効果の時間は10分。このディールの時間と一緒である。つまりこの能力にかかった悪魔はそのディールの間は身動きどころか、魔力さえも使えなくなる。神経ってそんなものだからね。そんな中で意識が保てるのは人型悪魔だけだそうだ。さすがは高位悪魔と言ったところだ。

 これで相手の悪魔は全く使い物にならなくなった訳だ。しかしここで重大な問題が発生してしまっていることに気付いてしまった。誰がターゲットに攻撃するの?

 メリアスはあの能力以外は人並み。いくら空を飛べると言っても、相手の運動能力によっては追いつけないかもしれない。だからと言って、瑠美に攻撃させるのも無理がありそうだ。だって、ちっちゃいし。

 だが今回は俺のそんな心配は不要だったようだ。相手が驚いて腰を抜かしているところに、すかさずメリアスが飛んで行って、ターゲットに触れた。よほど自分の悪魔を信頼、いや過信していたのだろう。

 ここで俺が信頼という言葉を使わなかったのは、相手の態度を見れば分かる。だって、すごい偉そうだったんだもん。「行けっ!」なんて言っちゃってさ。恥ずかしい。これで負けたから、さらに恥ずかしい。そんだけ“俺って強い”オーラが出てれば、信頼という言葉がふさわしくないのは一目瞭然だろう。

 これだけの能力を持っていても瑠美の勝率はそこまで高くないらしい。その原因の1つはメリアスの身体能力にあるのだろう。いくら能力が優れていても、当たらなければ意味がない。たとえ能力が発動したとしても、人間に逃げられては無意味だからな。

 という訳で、雅樹と瑠美のディールも無事、二人の勝利で幕を閉じた。





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