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Time is money  作者: 桧凪紅
第1章~金命世界~
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派閥

 辺りは静寂に包まれている。俺は矢切やぎり 郁人いくとの次の言葉を待っている。俺たちへの提案とは何なのか。たぶんなんと言われようと、拒否権はないだろう。この状況がそれを物語っている。

 圧倒的な力の差。それを見せつけられた今、俺たちに勝ち目はない。行動を起こす気にもならない。

 イブは床に倒れ、俺がそれを抱きかかえている。俺たちは動くことができない。蛇に睨まれた蛙とはこのことをいうのだろう。ハウレスの威圧感はものすごいものである。こればっかりは実際に対峙してみないと分からない。


「僕たちの派閥に入ってくれないか?」


「派閥?」


「いわゆるチームみたいなものかな。この世界にはそういったシステムはないんだけど、強い人たちはほとんど自分の派閥を持っているよ」


 そういうことか。人型の悪魔をパートナーにしていて、かつどの派閥にも所属していない人間はほとんどいないということなのだろう。そこで新人である俺を標的にしたのか。どうりで異様にディールの間隔が短かった訳だ。このディールは定期的なものではなく、最初から仕組まれたいたんだ。そう考えると、この人が俺たちのことを知っていたのも納得がいく。誰かが俺たちのディールを見ていたんだろう。


「で、どうかな?」


 どうかな?じゃねぇよ。はなから否定されることを目的としていない。この質問は自主的に承諾したことを証明するものだ。運が良いのか悪いのか、ここは誰からも見えない場所である。もちろん声も届かない。


「わかりました」


「ふぅ~、良かった。断られるかと思ったよ~」


 そんなこと微塵も思ってないくせに。たぶんこれはあの人の社交辞令のようなものだろう。でも返ってイライラする。これは注意しておくべきか。


「じゃあ、あと1分ここに座っていようか」


「?」


「僕は仲間の命を奪うほど、お金に執着してないよ。ハウレス、後よろしくね」


「またかよ」


 文句を言いつつも、天井やら壁やらを破壊していく。俺たちの戦闘がまだ続いていることを表すためだろう。簡単に言うと、カムフラージュだ。

 1分とは短いもので、すぐにディール終了の鐘が鳴り響いた。『Timeタイム0』と表示されている上には『Drawドロー』という文字が浮かんでいる。

 観客からはちょっとした歓声に混じって、罵声も聞こえてくる。それもそのはず、このディールに賭けていた人々は全ての賭け金をもっていかれたのだから。どちらかが勝てば、その倍率によってお金が入ってくる。もちろん負けた方に賭けた人にはお金は戻ってこない。本当はもっと詳しく説明されたのだが、俺には難しくてよく覚えていない。つまりDrawドローの時はディーラーの1人勝ちということだ。ここでのディーラーは金命世界きんめいせかいそのものである。


「ちょっとついて来てくれる?」


 ディール終了後、ハウレスをカードの状態にして、俺たちを誘導した。

 イブはすでに歩けるほどに回復している。本調子ではないので、カードになった方がいいと思うのだが、それはどうしても嫌らしい。その理由については教えてくれない。

 俺たちが連れてこられたのはとある廃墟だ。何もない。そんな言葉がぴったりの場所である。


「はーい。みんな集まってー」


 出てきたのは3人。各々、ブツブツ言いながらもリーダーの言うことは聞くらしい。

 今までどこにいたんだ?


「人数が少ないのは気にしないで。できたばっかりだから。じゃあ、改めて。僕は矢切 郁人。郁人でいいよ」


「オレは淵上ふちがみ 雅樹まさき。よろしく!」


「アタシは霧島きりしま 瑠美るみ。ここでは情報処理をやっている」


 この2人に関してははじめましてだ。問題は残りの1人。そいつはどこからどう見ても……。


「沙織、なにしてんだ?」


「わたくしもここに招待されたんですわ」


 こいつらは俺のディールを見ていたんじゃない。沙織のディールを見ていたんだ。そこでたまたま人型の悪魔をパートナーにしている俺が対戦相手になったもんだから、俺に声をかけた。そして沙織とのディールであまりにもあっさりと負けてしまったから、その実力を確かめるためにディールを申し込んだ。


「ここでは親しみを込めて、全員を下の名前で呼ぶことになってるから。そこはちゃんと守ってね」


 今一度、2人の顔を見る。

 淵上 雅樹。比較的にいい奴そうだ。こいつの笑顔は郁人さんとは全く違う。嫌味なんて一切ない。純粋な笑顔だ。なんだか眩しい。

 身長は高く、いい体つきをしている。いわゆる巨漢だ。だがガチムチという訳ではない。髪は明るい感じの茶色。非常に男前だ。

 ここは長身が多いな、というのが俺の感想だ。


 霧島 瑠美。こちらはなんとも可愛らしい女の子だ。とにかく小さい。

 中学生くらいか?こんな小さい子どもまで、この世界に来ているのか。

 髪はセミロングの黒。なんだか犬みたいな印象を受けた。でも、ここの情報処理をしてるって言ってたな。意外と秀才なのかもしれない。


「郁人さん、いいんですか? こんな小さい子どもまで入れて」


 その言葉に電光石火のごとく反応したのは郁人さんではなく、瑠美ちゃんだった。


「小さい言うな!! アタシはもう19なんだぞ!」


 は? 19!? 俺より年上じゃないか。もしくは同年代。


「慎哉君、一応言っておくね。この世界には高卒の人しかいないんだよ。だから最低でも18歳以上の人しかいないってことになるね」


 マジかよ。こんな小さいのに。


「おい、慎哉。お前また小さいとか思っただろ?」


「いや、思ってないって」


 何度も言うが、この子はここの情報処理をやっているから、俺の名前を知っているのは当然のことで…………うわぁ!


「いってー」


 俺の言い訳も虚しく、頬を引っかかれた。いきなり飛んできて、ビンタがくるかと思い、目をつぶったら、この通りである。

 瑠美ちゃんに向かって、小さいってのは禁句だな


「改めて瑠美ちゃん、よろしくね」


「うぅーーーー。とりゃ!」


 うなっている姿が可愛いなと思っていたら、今度は逆側の頬を引っかかれた。ちゃん付けも禁止だったとは。

 訂正。瑠美は犬なんかではなく、猫でした。





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