第8章 人間対魔族の戦い
すっかり夜が開けて朝日はすでに高く登っていた。アルコと僕がスヤスヤと眠っていると、遠くから聞こえる炸裂音で僕は目を覚ました。
テントから外に出ると遠くで大きな竜巻が発生していて、兵士たちがゴミのように吹き飛ばされているのが見える。僕たちの周りのテントには誰もいなくなっていて、ショウゴさんを始めみんな戦いに行ってしまったようだ、僕は慌ててテントに戻りアルコを起こした。
僕たちが外に出ると、また違った遠い場所で竜巻が起こり、沢山の人が空を舞っていた。
「忘れてたよ、あそこにはアランの親戚がいるんだよね。助けなきゃ」
「し、親戚ってほどでもないけど……で、でも助けないと!」
「桜風参上!」どこからか声がしたと思ったら僕は忍者のカッコをした女魔族に捕まってしまった、首筋にクナイを突きつけられた。
アルコには沢山の鎖が投げつけられ拘束しようとしたが、アルコは素早く避けた。残りの四人の忍者魔族も姿を現した。
「松風、竹風、柳風、杉風参上!」
(いちいち名乗らないと出てこれないのかな、この人たち……)
「避けられたか……動くなアルコ! 動いたらこの従者の命はないぞ!」
アルコに向かって再び四人が鎖を投げつけた、アルコは動かない。
鎖がアルコを拘束すると思われたとき、アルコのまえに黒く丸い魔法の壁が召喚され、鎖はその壁に当たって落ちた。
「昨日、流れ星を見ていたら思い出した魔法だよ。カッコイイ魔王みたいな人がいたな……次は僕の番だね」
アルコが光の鎖を手から出し投げつけると僕を捕まえていた桜風が一瞬で光の鎖に拘束されていた。
「やはりアルコにはまともに行ってはダメだな。いくぞ、全員忍法分身の術!」
四人の風魔が二十人に増えると一斉に手裏剣をアルコに投げつけた。しかし、次の瞬間には二十人の風魔全てが殴られて四人に戻った風魔たちは地面に転がった。手裏剣は空を切った。
「おい! 速すぎるぞ!」
「分身した分も全部殴られた」
「こうなったら、作戦は一つ!」
竹風が再び僕に向かって来た。しかし、僕を捕まえる前にアルコの光の鎖で拘束された。
「アランに触るな。さっきせっかく顔を洗ったばっかりなんだから汚れたらまた顔を洗わないといけなくなるよ」
さらに、アルコが光の鎖を投げつけると柳風と杉風も拘束され、残るは松風一人になった。松風の額に汗が滲む。
松風が何かを空に向かって投げると、それは花火のように光輝き、空に「たすけて」の文字が浮かぶ。
しばらくすると突然、物凄い突風が吹いて僕は吹き飛ばされた。その隙に松風が僕を捕まえようとしたが、アルコが光の鎖を投げて拘束した。テントは吹き飛ばされてぽっかりと空いた空間の中にハーパーが現れアルコと対時した。
◇
少し前。ハーパー魔団長が空を見上げている。
空に浮かぶ「たすけて」の文字、あれは松風のサインだ。
今日の僕は調子が良くたくさんの人間を吹き飛ばした。これならアルコを倒せるかもしれない。
アルコのスピードは桁違いなので、距離をとって魔法や武器で倒すのが良い。五風魔はアルコの弱点を見つけただろうか……とにかく行ってみよう、やってみなければわからない。
僕は現場に飛んで行った。
戦いの邪魔になるので、辺りは吹き飛ばした。松風がアルコの従者を捕まえようとして光る鎖で縛られてしまった、ほかの四風魔はすでに縛られて転がっている。やはりアルコは手強い、僕はアルコと対時した。
「やはりアナタは人間の味方をするんだね」
まずは、五つの小さな竜巻に無数のナイフを混ぜてアルコに飛ばす。五つの竜巻が襲いかかる、アルコが左右に動いてかわそうとするが、僕の竜巻は自動で敵に向かうのだ。
アルコが黒い楯のようなシールドを出した。僕の竜巻が衝突すると、無数のナイフがぶつかる音がして、火花を散らしながら全て地面に落ちた。
その隙にアルコの従者を人質に取って拘束させている五風魔を助けよう。僕は素早く従者を捕まえると抱えて距離を取った。
「アランを離せ」
アルコが言ってきたので、
「なら、僕の部下を離してもらおう」と返した。
アルコが手を振ると五風魔の鎖が消えたので、僕も従者を離して距離を取った。
遠距離攻撃を仕掛けてみよう、手にしている鎌を素早く振り上げて真空カマイタチを放ってみる。次から次へとカマイタチがアルコを襲う、アルコの着ている服が裂けてビリビリになったが傷を負ったように見えない。
破れて露わになった左腕に赤い紋様が光っていた。
アルコが光の槍を空中に召喚し僕に向かって投げつけてきた、速いが何とか避けれた。すると今度は、二十本もの光の槍をいっぺんに投げつけてきた。魔力で作った渦巻きのシールドを出して受け止めようとしたが、光の槍はシールドを貫いて僕の腿に刺さった。激しい痛みで思うように動けなくなった。アルコがさらに何か魔法を出そうとしている、僕にトドメを刺しに来ている。
「松風、竹風、柳風、杉風、桜風参上!」
僕の仲間が助けに来てくれた。
杉風が僕の前に立ちはだかりアルコから守ってくれている。残りの四風魔が手裏剣をアルコに投げつけるが、虚しく黒いシールドに阻まれ地面に落ちた。アルコが両手をクロスすると、光の玉が無数に僕に向かって飛んできた。杉風は大きく両手を広げて、身体を投げ出して僕を守ってくれている。
「団長は俺が守る!」杉風が叫ぶ、光の玉が杉風に向かって飛んでゆく。
「杉風危ない!」
桜風が杉風の前に両手を広げて立ちはだかると、無数の光の玉が桜風に直撃する。
「桜風!」杉風が叫ぶ。桜風が口から血を吐く。
「杉風……私はお前が好きだったの……」
「さ、桜風……」
「ご、ごめんね。私みたいなのが好きになっちゃって……杉風と一緒にいられて楽しかった……私の分も生きてね……」
桜風は意識を失い倒れた、「桜風!!」と杉風が叫んだ。
アルコが再び光の玉を放つ、すると今度は竹風が杉風の盾となって攻撃を体で受け止めた。ドスっ!ドスっ!と嫌な音がした。
「た、竹風!」
「す、杉風……俺はお前が好きだった……お前の笑顔で俺は何度も救われた……ありがとう……」
竹風が白目を剥いて倒れた。「竹風!!」と杉風が叫んだ。
アルコがもう一度光の玉を放った。今度は杉風に当たると思われたが柳風が同じように身を挺して防いだ。
「柳風!!」杉風が叫ぶ。
「杉風……お前とは長い付き合いだったな……好きだった……またいつか一緒に遊べたら……」
柳風は前向きに倒れた。「柳風!」杉風が叫ぶ。
アルコがまたかという顔をして、光の玉を放つ。やはり松風が杉風を庇い後ろ向きで光の玉を背中に受ける。
「松風!」杉風が叫ぶ。
「杉風……実は俺もお前を愛してる……あの世からお前を見ているよ……」
松風が杉風を見つめながら笑顔で地面に崩れ落ちる。「松風!!」と杉風の叫び声がこだまする。
「おのれ!」杉風が涙を流しながら忍刀を抜く。僕は叫んだ!
「待て、杉風! 冷静になれ!」
しかし、杉風はアルコに向かって走って行った。
杉風が切りつけようとした瞬間、アルコは剣の鞘で杉風のみぞおちを打ち、杉風が意識を失った。
その瞬間、それを見ていた僕に異変が起こった。
「いい加減にしやがれ、クソ野郎!」
湧き上がる怒りが僕の形態を変化させた。緑の髪の毛が逆立ち、背中に羽が生え、体が光始めた。力がみなぎり、腿に受けた傷も癒えてしまった、これならアルコを倒せるかもしれない。
アルコは左腕の赤い紋様を見て呟く。
「おかしいな……魔法が出ない……」そう言って後を向くと誰もいないところへ手をかざした。すると、アルコから、真っ黒に赤い稲妻を伴ったいかにも禍々しいビームが発射されると核爆発のような凄まじい大爆発が起きた。
「あれ? ちゃんと出るな……ハーパーに放とうとすると赤い紋様が光って出せないんだ」
とんでもない威力の魔法……アレを喰らったらひとたまりもないが、どうやら僕に向かっては出せないみたいだ。形態変化した僕はアルコを殴り飛ばした。スピードが格段に上がっている、直接鎌で切りつければダメージを与えられるだろう。
「アルコ、大丈夫!?」
従者が叫ぶので目障りだから殺そうと向かったら、アルコが割って入って鎌を剣で受け止めた。奴のスピードも上がっている。
「ひ弱な人間め……目障りだ!」
「アランは凄く強いんだ、トランプだってジャンケンだって僕は全然勝てないんだ。馬鹿にするな!」
ハーパーとアルコが目にも止まらぬスピードでぶつかり合う、鎌と剣が当たる金属音が鳴り響く。アルコが何度も手をかざして魔法を出そうしてるが何も出ない。やはり、僕には黒い魔法が出せないようだ。
「やっぱり出ないから、こっちで行くか」
アルコが呟くと手にしている剣が光始めた。剣の刀身が全て光輝くと、素早く振り抜いた。光が剣から離れて僕に向かってくると思ったときには、鎌を持った右腕が宙を飛んだ。奴は光の魔法は僕に対して出せるようだ。痛みを堪えて右腕を再生させたがアルコの突きが僕の腹を貫く。蹴飛ばして後に飛び去ったがアルコが無数の光の玉を放ち僕に次々と命中する。ゲフッ!と口から血を吐いてしまった、アルコを倒すにはこれしかないと僕は最後の攻撃にでる。
「アルコ……君の力は素晴らしいが、良く考えろ!人間を信じるな……」
テレパシーで仲間と交信する、
「ダニエル、みんな……聞こえるか……僕はダメかも知れない。戦闘のイメージは受け取ったね。後は頼んだよ」
「ハーパー魔団長、アルコの魔法はどうやら、光の魔法と闇の魔法の二種類を持っている? そして、闇の攻撃魔法は我々には使えないようだ。貴重な情報を感謝する」
ダニエルが僕にテレパシーで答えた。
そして僕は最高の技、魔旋風竜巻突きを放つ。
僕自身が弾丸になってドリルのように回転しながらアルコを撃ち抜こうと特攻する。アルコは黒い魔法のシールドを出す。僕の拳がアルコの黒い楯に当たると物凄い炸裂音がした、アルコが僕に押されるが残念ながらシールドを貫くことが出来ないが、僕の全ての力を込めれば行ける! 僕は回転を限界まで上げた、シールドを少しずつ破って行く。
「アルコ、危ない!」と従者が叫ぶとアルコのシールドの後に強烈な光の楯が現れた。従者の首から下げた護符の黄色い光が輝いている。その光のシールドのせいで、僕の攻撃は止まってしまった、そこでアルコは突き出した僕の右腕を掴むと、僕は石に変えられてしまった。
◇
ハーパー魔団長が石化され、戦いが終わり静寂が戻る。アランがアルコに駆け寄る、その時ショウゴさんも戻って来た。
「アルコ……怪我はない?」
「アルコ殿、大丈夫ですか!」
アルコは黙って立っている。
「そうだ、あそこで気絶してる人たちも石にしとこう。仲良しみたいだしね」
アルコはまとまって気絶している五風魔にテクテクと歩いて行き、一人づつ握って石化してゆく。
「アルコ……泣いてるの……どうしたの?」
僕は初めてアルコが泣いているのをみてビックリした。
「この人たちが悪い人には見えなかったな……なんか感動しちゃって……」
「それなら、一緒に神様の祝福をしよう、僕は一応僧侶だから。手を合わせて」
アルコが僕と祝福をした後、全員を石化すると、ハーパー魔団長を五風魔の近くに置いた。ハーパーの左手にはめられている指輪が緑色に光る。
「あれ……全員握ったっけ?……いつの間にか全部石になってる……」
「どうしたの?」僕がアルコに問いかける。
「気のせいかな……まあいいや……ごはん食べようよ、お腹空いた〜」
そう言えば、何も食べてなかった。ショウゴさんがハーパー魔団長を倒したお礼に飛び切りの料理を食べさせてくれると言った。僕たちはテントに向かって歩いて行った。アルコがふと振り向いて石になった魔団長と五風魔を見る。
(これでいいのかな……?)
と、アルコに少しの疑問が湧いていた……
◇
戦場なのに豪華な食事がアランとアルコが目の前に出された。
「アラン〜食べさせて〜! あ〜ん」
仕方なく僕は「はいはい」と言ってアルコに食べさせる。
「しかし、アランはいつからあんな凄い魔法が使えたの? もっと早く使えば良かったのに……」
僕自身もまさか自分があんな魔法が使えたとは驚いた。アルコを守ろうとして無我夢中だった。僕の首から下げた護符に緑色の小さな光がいつの間にか追加されていた。
ハーパー魔団長を失った魔族は人間軍に押されているそうだ。
誰もいなくなり、石にされたハーパー魔団長と五風魔がポツンと残されている。すると、変わり身の術を使って石に化けていた杉風が動きだし闇に消えて行った。




