第7章 緑の旋風ハーパー魔団長
僕とアルコは騎士団長のイケメン息子のショウゴさんと一緒に百人ほどの兵士を連れて戦場へ向かっていた。北西部での魔族との戦いが苦戦しているので加勢に行くことになった。アーリーの襲撃により魔族がアルコを狙っていることがはっきりしたので、アルコは王様に上手く丸め込まれて人間を守ることになった。
「アルコ殿、アーリー魔軍曹をよく倒してくれた、おかげで昨日は楽しいパーティーが開けたぞ。アイツのおかげで南西部は壊滅状態だったのじゃ、これであの地方はなんとかなるかもしれない。今度は北西部があぶないのじゃ。あの場所にはアランの親戚の親戚の親戚が沢山戦っておる。アランの家族を守っておくれ、アランの命を守るのじゃ。ワシも全力で応援するぞ! わしの兵士を連れていけ」
王様の家臣たちはみんな下を向いていた。
「うん、アランの家族がやられちゃったらアランが悲しむもんね。僕、頑張るよ」
アルコはこう答えたが、僕は複雑だった、いいのだろうか……
ショウゴさんとアルコが並んで歩いている、僕はすぐ後を歩く。
「アルコ様は一人であのアーリー魔軍曹を倒したのですね。凄いです」
「ショウゴが持ってきてくれた剣の調子は良かったよ。凄く役に立った」
「役に立って良かったです。アルコ様の剣さばきを見てみたいです、それと、光の不死鳥を出せると」
「うん、アーリーの魔法見てたら何だか出来そうだなって、今度は光の武器を出そうかな」
「凄いですね、でもアルコ様は大事なお方なので無理はしないで下さい。今度の戦いは私たちも参加しますので、アルコ様に負担のかからないように頑張ります」
「ありがとう、ショウゴは優しいね」
ちょっと二人の距離が近すぎる気がするのは僕の気のせいだろうか……すると、アルコがイタズラな笑顔で振り向くと、
「アラン疲れた〜! おんぶして〜!」
と言ってきた。するとショウゴさんが、
「アルコ様がお疲れなら私が……」
と言って来たので「大丈夫です。僕がします」と言っておんぶをした、今日の僕は聞き分けが良かった。
◇
戦場に着くと怪我をした兵士が驚くほどたくさんいた。
もともと魔族三万に対して人間軍は十万、数では負けないのだが、魔法使いや僧侶が少ない。最近は魔法使いと僧侶不足とは聞いていたが全部で五十人くらいしかいない。
昔は魔法使いが沢山いたのだが、盗みや痴漢など魔法を犯罪に使う人が増えたので、魔法使いは毎日の行動を全て魔法協会に提出しなければならないので面倒で目指す人が減っている。僧侶も同様で、修行中は坊主にしなければならず、滝に打たれたり、断食などの荒業が不人気に拍車をかけている。最近は、お葬式にお金をかける人も減っているので生活がキツイと不満を漏らしている僧侶も多い。
僕は僧侶の修行は積んでいるのだが、まだ半人前なので、かすり傷を治す程度の魔法しか使えない。
空を飛ぶ魔族が厄介で、弓矢で撃ち落とすのが難しい。もっと厄介なのが、人間軍の中に突然無数の竜巻が起きて大勢の兵士が吹き飛ばされている、魔族五魔星の一人、旋風のハーパー魔団長とよばれる大魔族の仕業だ。今は人間軍は五万人が動ける状態になっていた。このままではどんどん数を減らしてやられてしまう。
ショウゴさんは僕たちをテントに案内した。
「今日は疲れていると思いますのでゆっくりしてください」
「でも、沢山の人々が傷ついています。傷の手当を手伝います」
「アランが行くなら僕も手伝うよ」
僕とアルコは医療テントに移動し傷ついた人たちに包帯を巻いたり、傷口を洗ったりした。あまりの痛さに泣き出す人もいた。
「ねぇ、何でそんなに痛くなるまで戦ってるの?」
アルコが無邪気に兵士に問いかける、
「し、仕事ですから……」
「何で戦ってるの?」
「わ、わかりません……私は命令されて戦うだけです」
「そんなに痛くなるなら戦わなければいいのに……」
僕は兵士たちの精神的ストレスを心配してアルコを僕たちのテントに連れていった。外はすっかり夜になっていた。
「みんな頑張ってるんだから、何でとか言っちゃダメだよ」
「アランは戦いたいの?」
「僕は別に……」
「じゃあ帰ろうよ」
アルコがそう言ったとき、物凄い轟音が聞こえた、テントが激しく揺れて地震のようだった。
慌てて外に出ると竜巻がいくつものテントを吹き飛ばしていた。そのため沢山のテントの真ん中にポッカリと何もない空間が出来上がっていた。その中心に一人の魔族がいた。
緑の髪の毛と緑色に輝く目をした美しい少年の姿をした魔族が一人で立っていた。年齢は僕と同じくらいだ。手に鎌のようなものを持っている、その手の指輪が緑色の光を放つ。
◇
僕の名前はハーパー、五魔星の一人で緑の旋風ハーパー魔団長と呼ばれている。北西部の人里離れた高原に僕たち魔族の街を作ろうとしたら、人間が攻めて来たので戦争になった。敵の宿舎を襲撃したら、僕の前にあのアーリー魔軍曹を倒したアルコが立っていた。
「何しに来た。人間の味方をしにか?」
「違うよ。もう帰ろうと思ってたんだ」
アルコが答えると、側にいた騎士が僕を襲って来た。
「アルコ様、ここは私が!」
「ショウゴさん!」
僕が騎士を鎌で真っ二つにしようとしたら、仲間の五風魔が現れ、その内の一人、松風が騎士を受け止めた。
「松風、竹風、柳風、杉風、桜風参上! 団長、コイツらは俺が相手にするんでもう夜遅いから帰って下さい、お疲れでしょう」
「アーリー魔軍曹がやられた、無茶はするな」
「なら私も残るよ」
「桜風か、頼んだ」
「僕たちも帰るから止めようよ、もう夜遅いよ」
アルコが呟くとテントに向かって歩き出した、従者が慌てて後を追っている。桜風が松風の加勢に入り二対一になると、アルコが目に見えないスピードで割って入り松風と桜風はあっという間に吹き飛ばされてしまった。僕にも見えないスピードだった、恐るべし速さだ……杉風が五本の十字ナイフをアルコに投げつけたが、アルコは全て素手でキャッチしてしまった。
「眠いから止めようよ、今夜はアランと一緒に星を見る約束をしてるんだ、テントで一緒に寝るのは楽しみなんだ」
アルコが戦う気がないので、僕もやる気が失せてしまった。今日は疲れたし一度引き返そうと思った。
「我々の敵になるなら容赦はしない、人間に騙されるな」
僕は風魔五人を連れて小さな城に戻った。松風は暗い表情をしていた。
「あれが魔王の子か……まるで見えなかった。あれは化け物だ、団長より強いよ……」
「俺たち五人全員でかかれば……」竹風が呟く。
「無理だと思うわ。何か作戦を考えないと」桜風が答える。
正直、魔団長ハーパーと呼ばれた僕にも見えなかった。剣術では相手にならない、魔力で行くしかないかも。僕があっさり引き下がったのは、疲れた状態では勝てる自信が無かったのもある。
「明日は五風魔全員でアルコの弱点を探ろう。団長はまずは敵の兵力を減らすことに専念してもらおう」
杉風が僕を見つめた。
「アルコより、まずは人間軍を倒すのが先だね。お前たちに任せるよ、僕は後から行くから」
◇
その夜、アランとアルコは星空を眺めていた。
「見てアルコ! 凄く綺麗だよ、天の川まで見えるよ!」
僕とアルコは星を見上げる。
「見て! 流れ星だよ!」
僕は流れ星を指差した。すると、
「アラン、手を繋いで……」
また、甘えて来たかと僕はアルコの手を繋いだ。するとアルコの手が汗でびっしょりだった。少し手が震えている。
「どうしたの? 具合が悪いの?」
「ううん、流れ星を見てたら何かを思い出した気がしたんだ。今、頭に魔王みたいな姿がボヤッと浮かんで……何故か力がみなぎって、これが魔力なのかな?」
僕とアルコは手を繋いだままテントに帰って一緒に寝た。




