第5章 魔王の決断
時は遡って一千年前、凶隕石ゲロウ衝突前日の魔王城。
「魔王様! なぜ我々だけが犠牲に。人間共は裏切りましたぞ。私の言うことを聞いていれば……」
魔族五大幹部の一人、大魔姫バボンが魔王に向かって叫んでいた。他の四人の大魔幹部たちは下を向いて、立ったままバボンの叫びを聞いていた。
魔王の前に置かれた透き通ったガラスのような石の中に赤ん坊が入っている。
「我々がやらねば結局この星が滅びるのだ……」
魔王バカルは苦しそうに答える。
「人間共は魔法使いの派遣を断りました。やはりあの女に騙されていましたぞ! 私の魔王様への気持ちを差し置いてあんな人間女を選ぶからです。しかも、アルコ様を人間の里に隠そうなど……人間はアルコ様を利用しようとするに違いありません。正気の沙汰とは思えません」
バボンは怒り狂っていた。
「千二百年後にもう一つの凶隕石オウトが衝突するのです。残念ながらゲロウを完全に破壊することは難しいでしょう、一部がこの魔王城に落下し魔王国に甚大な被害が……いや、魔王国が消滅する可能性は極めて大きい。しかし、魔王城でなければ、我々の力を結集させることは出来ない、魔王城の上空が唯一ゲロウを破壊することのできる空間なのだ。だからアルコ様を遥か東の人間の里へ避難させる。そして千二百年後にやって来るオウトを破壊して頂くのだ」
大魔幹部の一人がバボンに諭すように答える。
「私は人間のために死ぬなんてごめんだ。なぜ私が死ななければならないのだ!」
「お前が欠けたらゲロウの破壊はさらに難しくなる。だが、お前がいたとてあんな巨大な隕石を破壊出来るとは思えない……仕方がない、ならばバボンよ、そなたはこの国を去り、もし魔族王国が崩壊したときは魔族を再興してくれ」
四人の大魔幹部はバボンにそれぞれがしていた指輪を渡した。
「魔族再興の折には幹部たちにこの指輪を渡してくれ、魔幹部の印だ」
「筆頭魔幹部モルガンよ、幼馴染のよしみで言うがバカだな……私は人間の裏切りは忘れんぞ。魔王様をたぶらかしたあの女も」
バボンは四つの指輪を握りしめる、その手の指にも魔幹部の印の指輪が青く光る。
「だが、もしアルコ様が人間の手に落ちたときはどうするのだ! 千二百年もの間に人間共がアルコ様を復活させ、我らに害をなさぬとも限らぬ」
魔王はゆっくりと透き通った石の前に歩いて来ると、中の赤ん坊に向かって呪文を唱えた。すると赤ん坊の腕に小さな赤い紋様が刻まれ、それと共にバボンの手の中にある五つの指輪と赤ん坊の横に置いてある護符が一瞬赤く光リ輝くと元に戻った。
「アルコは赤ん坊に戻した、これから千二百年かけて成人する。もし、成人する前に復活してしまった場合、アルコは魔族を殺すことは出来ない。そして、魔幹部の印を持つものがアルコを殺した場合は、その者はアルコの力を継承できるようにした。これで文句はなかろう。アルコは大僧侶マカラに預け、監視してもらう。マカラは信用できる」
「どうですかね? 仮にマカラは良くても、子孫や周りの人間は信用できません。それほどまでに魔王様が言うなら仕方がないですが……」
ゲロウ衝突前にバボンは魔王国を脱出した。
一千年の間、魔族の者たちの間でバボンは魔族再興の母と呼ばれた。
◇
アルコの元へ王様から剣が届いた。
持ってきたのは騎士団長さんの息子さんでイケメン騎士のショウゴさんだった。僕の家に伝わるアルコを復活させた護符はペンダントになって一緒に持ってきてくれた。
アルコは剣を見ると「カッコいいね」と喜んでいた。
「アルコ様、戦いの際は決して無茶をしないで自分を大切にしてください」
イケメン騎士が言った。
「ありがとう。優しいんだね、約束するよ」
と、一歩前に踏み出したので、
「ダメ〜!」とつい割って入ってしまった。アルコとショウゴさんはキョトンとしていた。僕は恥ずかしくなってしまって下を向いた。




