第3章 魔族
魔族軍が占領した地域に建つ洋館にて。
ここに、五体の大魔族が集まっていた。中央に座っている魔将軍エヴァンが静かに会議を始めた。
「よく集まってくれた」
「わざわざ俺たちを呼び出してどうした。我々は人間共との戦いに忙しい。くだらぬ用事ではなかろうな?」
「アルコが蘇った……」
「なに!? 復活には早すぎるぞ!」
「人間どもがこんなに早く。愚かな……人間はどうにもならんな……」
「それでアルコは正常か?」
「わからん……」
「それでは、私が行こう」
一体の男の魔族が立ち上がった。
「おぉ! ダニエル魔少佐が行ってくれるとは頼もしい」
「とにかくアルコと話してみよう。全てはそれからだ」
◇
満月が雲に隠れた夜。
食事を済ませた僕とアルコはお風呂に一緒に入るか揉めていた。
「だからお風呂では抱きついちゃダメ! いつも抱きついてくるんだから」
「今度こそ約束守るよアラン。だから一緒に入ろうよ〜、約束するよ」
アルコはまた僕の唇にキスをしてきた。喋ろうとした口を、アルコのキスで遮られてしまった。
そのとき、部屋のドアがノックされた。門番の衛兵がやってきて「お客様をお連れしました」と言う。普段なら誰も入れないはずなのに、衛兵は黙って門に戻っていった。
しばらくして、ドアをノックする音が聞こえるとイケメンの青年がドアを開けて入ってきた。青年は丁寧にお辞儀をすると、
「ダニエルと申します。アルコ様、ご機嫌麗しゅうございます」
このときアルコの目が赤く変わっていったのに僕は気づかなかった。
「ダニエル様、騎士団長様の許可は得ているのですか? 団長様からアルコを誰にも会わせてはいけないと言われているので……私はアルコ様のお付きの者でございます」
「お付きの者なら黙っていて頂きたい……」
ダニエルが指を僕に向けると、物凄い力で僕は動けなくなった。声も出すことが出来ない。
「お前、アランに何を!」
アルコの目がさらに燃えるような赤い色に変わる。
「この方はアルコ様の大事な方なのですね。危害は加えません、では一緒に聞いて頂きましょう」
◇
ダニエルは椅子に座ると静かに話を始めた。
「私は魔族の五魔星の一人、ダニエル魔少佐と申します。アルコ様、父上を覚えていらっしゃいますか?」
「覚えていない。ママに言われたことは覚えているんだけどママの顔が思い出せないんだ……」
(やはりな……)
「それでは双凶隕石オウトについては?」
「知らない……なんのこと?」
ダニエルは立ち上がるとアルコの前に立ち、アルコの手を握った。
「アルコ様、失礼します」
そう言うと、アルコの体が光輝きだし痙攣して、アルコは悲鳴を上げた。僕は心配して声を上げようとしたが喋れない。苦しそうに悶えるアルコの目が赤く輝くと炸裂音が聞こえた。すると僕の呪縛が突然解かれたので、慌ててアルコを助けようとしたとき、ダニエルは苦悩の表情をしてアルコの手を離して後へ飛びさっていた。アルコの手を握っていたダニエルの左手が石のように変色して固まっていた。
「まさかこれほどの力とは……しかしまるで制御されていない。早すぎたんだ……しかも」
ダニエルは汗をかいて驚きの表情を浮かべる。
「アルコ! 大丈夫!?」
僕はアルコに駆け寄った。アルコは何が起きたのかわからないのか放心状態だった。ダニエルも冷静さを取り戻し再び静かに話を始めた。
「アラン様ですか。大変失礼しました、アルコ様を試させて頂きました。私はアルコ様の敵ではありません」
僕はアルコを抱きしめてダニエルの話を聞いた。
「一千年前のこと、双凶隕石オウトとゲロウと呼ばれる二つの超巨大な隕石がこの星を襲ったのです。そのうちの一つ、ゲロウがこの星に落下しました。魔王は人間に協力を求め魔族と人間でゲロウ隕石を破壊しようとしました」
アルコが怖かったのか震えて僕の手を握ってきたので、僕のアルコを抱きしめる力も強くなった。
「魔族は全力で隕石を破壊しようと努力しました。しかし人間の裏切りによって、ゲロウの一部が魔族帝国に落ち大爆発が起きました、魔王や魔族の幹部のほとんどが死んでしまったのです。さらに、人間はその隙をうかがって魔族に襲いかかり我々のほとんどを撃ち倒したのです」
「そんな歴史は聞いたことはないです。魔族の国で大爆発があったことは聞いてますが……」
「それから千二百年後にもう一つの凶隕石オウトがやって来ます。魔王様はたった一人の息子にオウトを破壊させるべく、魔法をかけて赤ん坊に戻し、ゆっくりと成長させ千二百年後に完全な大人として復活させ、この星の運命を託したのです。そしてアルコ様……その息子こそあなたです。あなたは正統な魔王の血を引く魔族の王となるお方です」
アルコが普通ではないのはわかっていたが、まさか魔王の子供だったとは……
「愚かな人類は自分たちの都合で二百年も早くアルコ様を目覚めさせてしまった。おそらく、アルコ様に我々魔族を倒させようとしているに違いありません。若く目覚めたので残念ながらアルコ様は不完全な状態です。記憶をほとんど失っていますし、魔力を使いこなすことも出来ません。少しずつ記憶を取り戻すと共に魔力も使えるようになると良いのですが……」
「それで、アルコにどうして欲しいのですか! ダニエル様」
僕は恐る恐るダニエルを見た。
「アルコ様が世界を救う前に、我々に命令して頂きたいのです。人間を滅ぼせと……この世界を人間に任せてはいけません、自己中心的なだけでなく、人間同士で戦争までしている愚かな生き物は消さなければならないのです」
「絶対ダメだよ! だってアランがいるもん!」
「やはり正確な判断能力も失われていますね。アルコ様、人間の王に会うと良いでしょう。人間の汚なさがわかると思います。人間を見限ったら我々魔族の元に来てください」
「僕は人間の味方にもならないよ、アランだけいれば良いんだ」
「どちらにもつかないと言うことですか……一ヶ月後に私はまた現れます。そのときにこの話の続きをしましょう。最後に一つだけ……もしアルコ様が世界を救っても人間がいる限り世界は破滅するのです。人間を信じてはなりません」
ダニエルは踵を返すと扉から歩いて出て行った。
◇
その夜。
「アラン〜! 僕怖かったよ〜! 一緒に寝てぇ〜!」
(今夜は仕方がないな……ダニエルさん怖かったもんね。たまには言うことを聞いてあげよう……)
「いいよ。一緒に寝よう!」
僕とアルコはベッドに入った。アルコは笑顔で僕に抱きついて来た。
「怖かったから、手を握って……」
お互いの右手と左手がしっかりと握られた。
「ちょ、ちょっとアルコ……くっ付き過ぎだよ……」
「だって怖かったら、アランが側にいないと寝れないよ……」
「じゃあ、このまま寝よう。でも、大人しく寝てね」
「うん、約束する」
そう言うと、やはり僕の唇に唇を重ねてきた。今日はいつもより長かったので胸がドキドキした……




