第21章 魔少佐ダニエル
一千年前、魔族帝国崩壊後、人間軍による魔族狩りは凄惨を極めていた。魔族五大幹部の生き残りバボンは傷だらけだった、周りに部下もいなくなっていた。
「この辺りにいたぞ! 探せ!」
騎士や魔法使いがバボンを探している。人間王国と沈んだ魔族帝国の国境付近まで来たのだが、見つかって処刑されるのも時間の問題かもしれない。疲れて動けないでいるバボンの前に一人の人間が現れた。もうダメだと諦めているとその人間はバボンを肩に担ぎ、人間の服を着せてバボンをかくまってくれた。
「あなたに会わせたい人がいる」
その人間の家で傷だらけで何日も寝込んでいると、一人の人間の女が現れた。その女と仲間は魔族をコッソリ逃していると言って、北の人里離れた洞窟の奥にバボンを連れて行った。洞窟にはその女が連れてきた魔族が何人もいた。
「あまり出入りすると、あなたたちがここにいることがバレてしまうかも知れないから、もう私たちは現れない。頑張ってね」
女はそう言うと二度と現れることはなかった。人間に対して憎しみしかなかったバボンが唯一気を許した女だった。その女の名前は「マカラ」と言った。元大僧侶だったが、今はただの人間だった。
◇
時を戻して、杉風がタリスに初めて会った記念の花束を渡してから十日後。
庭師の格好をした杉風が息を切らせて走ってくる、屋敷の入り口に立つタリスが杉風を見つけた。
「あ、スーくん! 今日は早いのね。どうしたの走って来て?」
「スーくん参上! こいつがね、タリスちゃんに早く会いたいって言うから」
そう言うと杉風は花飾りをタリスに見せてから頭に被せた。
「あ、ありがとう……」
「タリスちゃん可愛いから良く似合うよ。昨日の遊園地楽しかったね」
「私、お化け屋敷は苦手だったけど、スーくんが手を繋いでくれたから平気だった、楽しかったね。また行こうね」
「タリスちゃんのスカート姿は本当に可愛かったよ。いつも黄金の鎧の姿しか見ないから」
タリスが顔を赤くする。
「タリスちゃんがあんなにダンスが上手だと思わなかったよ」
「出会った次の日にダンスに行こうなんて驚いちゃった。王様のところで働くことになったからお母さんが習った方がいいって言ってたから少しだけ教わったんだ。スーくんのダンスは素敵だったよ、空を飛んでるみたいだった、誘ってくれて嬉しかった……」
「キャンプのときはごめんね。僕は虫が苦手で……」
「テントで手を握ってって言われてビックリしたけど、いつでも私が守ってあげるよ。お揃いのマグカップありがとうね。一緒にまたコーヒー飲もうね」
「キャンプでタリスちゃんが作って来てくれたおにぎり美味しかった。世界で一番美味しかったよ」
「スーくんていつも甘えん坊なのに、私が辛いときは抱きしめてくれてカッコいいよ」
「だってタリスちゃんが一番好きだから!」
「スーくん……」
「いつも立ちっぱなしで足が疲れてるんじゃない? 僕はマッサージが得意だから今夜は揉んでみるよ、少しでも楽になるといいな」
タリスが杉風の胸に「ありがとう、嬉しい」と言って飛び込む、杉風はタリスを抱きしめる。
(すっかりこの屋敷の者たちに、俺が庭師と信じ込ませることに成功したようだ。しかし目立たぬようにしたはずだが、この護衛に付きまとわれてしまった。俺が風魔ということが気づかれているかも知れない、さすがアルコの護衛をするだけのことがある。疑われているようだ、気をつけなければ……)
二人はそのままどこかへ消えていった。窓からアルコが屋敷の門から出ていく二人を見て、
「ねえ、あの護衛の人いつもどっかへ行っちゃうね」
と指を指して笑った。
◇
人間王国の主要都市は全部で五つ。
既に二つの都市が壊滅的になり、今三つ目の都市がダニエル魔少佐軍によって破壊された。
「ダニエル様、少しお休みになられては……」部下が心配する。
「ローゼはあてにならない、五魔星で戦えるのは私一人になってしまった。休んではいられない」
「しかし、それでは身体が持ちませんぞ」
「ありがとう、少しは休むようにするよ……」
ダニエル軍は第四の都市に向かって進軍した。
人間軍はニ万の軍を率いて待ち構える、ダニエル軍は一万まで減っていたが先頭をダニエルが行く。
槍を持った騎士たちがダニエルに襲いかかると、ダニエルが巨大な赤いドラゴン十匹を召喚し三百騎の騎士が吹っ飛ばされた。五人の魔法使いが光線を放つとダニエルは赤いシールドで防ぎながら炎を魔法使いに向かって放つ、魔法使いもまた吹っ飛ばされると、アーチャーたちが数え切れないほどの矢をダニエルに向かって降り注いだ。炎の竜巻で矢を焼き尽くすが一本の矢がダニエルの腿に刺さった。ダニエルは笑って矢を引き抜くと炎の剣を取り出し大きく薙ぎ払うとアーチャーのいる辺りが大爆発を起こす。仲間の魔騎士の一人が孤立して兵士に囲まれていたので、飛んで救い出したが槍が石になっていない右腕の肩に刺さり血が飛び散ったがなんとか魔騎士を抱えて後方へ下がった。そして、無数の炎の弾丸を人間軍に放ち沢山の兵士を倒した。ついでに魔軍隊アリの退路を確保するために敵兵士の真ん中を突っ切り炎の壁を作ってアリを助けた。
一ヶ月続いた第四の都市の戦いはダニエル軍の勝利で終わった。
街の民衆が逃げて行くのを見て、人々に向かって「アルコはこの世を破壊する魔王だ。アルコを倒さなければならない、人間たちよ、王はアルコを武器として利用しようとしているがアルコは危険だ、早く殺してしまえ。そうすればこの戦争は終わるのだ。この戦争はアルコを倒すための戦いなのだ」と言った。
逃げ惑う人々はアルコのせいでこんな目に合っていると口々に不満を漏らしていた。
ダニエルは傷つきながらも最後の都市に向かって進軍を始めた。
◇
アルコが額に汗を流して僕を見つめた。そしてゆっくりとサンドイッチを手に取る。
「それじゃあ、行くよ……覚悟はいいかな」アルコが意を決してつぶやく。
僕もアルコもお手伝いおばさんも息を飲んだ。ローゼは目をつぶっている。
ローゼはお手伝いおばさんに料理を教えてもらっていた。思い出すのもおぞましい過去の記憶がお手伝いおばさんと僕を襲う。特訓の末、ついにローゼがサンドイッチを作り上げた。
アルコがサンドイッチを口に入れる。
「お、美味しいよ! ローゼ! 美味しいよ!」
ローゼが涙を流す、僕もおばさんも泣いていた。アルコが笑顔でもう一切れのサンドイッチを手に取り口に運ぶ。お手伝いおばさんも泣きながらつぶやく、
「昨日はついに何も壊さず掃除機をかけれたのに、今度はサンドイッチを……ローゼちゃん凄いよ」
「あ、ありがとう、おばさん!」
ローゼがおばさんと抱き合う。その姿を見て、また僕は泣いてしまった。




