第20章 暗殺者
人間王国の王都に次いで第二の都市も人が住める状態でなくなり、王様は避暑地の別荘に避難し、大臣たちとこの場所で政治を行うことになった。
「お前たちは何をやっとる! はやく魔族軍を打ち滅ぼせ。アルコはどうしたのじゃ、全く話を聞かんぞ! 早くアルコに戦わせるのじゃ!」
王様は怒っていたが、夜は別荘で美女に囲まれて相変わらず楽しくしていた。騎士団長は疲れていた、戦況が思わしくないのと、兵士たちにアルコを参加させることに不満の声が上がっているからだ。ただ、アルコなしで今の状態を好転させる方法もなかった。
「そ、その……アルコは……」騎士団長が口ごもる。
「アルコは魔族と結婚したと聞いている。本当に人間の味方なのか? アルコを監視せよ、もし人間の敵なら倒すのじゃ」
「王様……その役目は私が……」
王様の後ろに立っていた美女の剣士が名乗り出た。
「おぉ、タリス殿か。そなたとはここで楽しく遊んでいたかったがよろしく頼むぞ」
女剣士タリスは王様のつまらない護衛を辞めてアルコの護衛という名目で、監視と場合によっては暗殺をするために屋敷に現れた。
「初めましてタリスです。あなたたちの護衛をすることになりました」
僕とアルコとローゼは「よろしくお願いします」と挨拶した。
タリスの目が光る。
(これがアルコか……イケメンだな。そしてこいつが魔族、五魔星の一人ローゼか。今は人間側だそうだが油断出来ないな)
◇
満月の夜。
杉風が日本風の屋敷の屋根に一人横たわり月を眺めている。杉風は守って倒れていった仲間を思い出す。
桜風は遊園地が好きだった、休日になると二人でよく行った。お化け屋敷では怖がりなのでいつも手を握ってあげた。なぜか桜風は遊園地に行くときはいつもの忍者服ではなくスカートをはいた可愛い服装でくるので、「可愛いよ」と言うと顔を赤くするのが楽しかった。
仕事で辛いことがあると一晩中話を聞いてあげた。すると決まって次の日に桜の塩漬けのおにぎりを握って来てくれた、おにぎりは大好物なので「桜風のおにぎりが世界で一番美味しい」とつい褒め過ぎてしまう。すると時々なぜか桜風が泣いてしまうので、そんなときは抱きしめてあげると落ち着いた。
俺はお花畑を見つけるといつも花飾りを作って桜風に被せた、桜風とお花はよく似合うと思ったからだ。
桜風はいつも俺と一緒に居たいと言ってくれるので、俺は「桜風が会いたいと思ったらいつでも飛んで行くよ」と笑って答えたっけ。面白いから、突然会いに行って驚く顔を見るのが楽しかった。
まさか、桜風が俺のことが好きだったとは思わなかった……
竹風とはよくキャンプに行った。俺は忍者のくせに虫が苦手だったから、いつもテントでは一緒に寝て虫から守ってくれた。怖いので手を一晩中握ってくれて優しい奴だった。お礼にテントでよくマッサージをしてやった、俺はマッサージが得意なのだ。ある日、竹風が毒蛇に噛まれたときは俺は必死だった。傷口を必死に唇で吸って、おんぶして山を降りた。もし死んでしまったらと思ってずっと「死ぬな!」と叫び続けていたのも良い思い出だ。俺がお揃いのマグカップを買ってきたときは、凄く喜んでくれた、いつか二人で世界一周をしようと夢を語ったっけ……
まさか竹風が俺のことが好きだったとは……
柳風とは中学からの友達でダンス仲間だ。社交ダンスのペアを組んでいる。練習では呼吸を合わせるために一ヵ月間一緒に生活して、同じものを食べ、同じ服を着て、同じベッドで寝て過ごしたっけ、楽しかった。でも、大会前に柳風が足を挫いて出れなくなって泣いて謝って来たから「俺はお前と過ごした時間のほうが優勝より嬉しいよ」と言った。俺たちは息が合ったからテニスのダブルスも組んだ。年をとったら、一緒に住もうと俺はよく冗談を言ってた、あいつは本気にしていたみたいだが。
まさか柳風が俺のことを好きだったとは……
松風は俺たち五風魔のリーダー格でおにいさんみたいだった。特に俺は泣き虫で修行が辛いと松風に甘えていた。そんなとき松風は優しく頭を撫でてくれたので、そんなときはふざけて抱きしめてホッペにチュウをした。松風が照れているので、面白がって夜ベッドに侵入して奴の胸で寝たりした。そんな世話焼きの松風が仕事で怪我をしないか心配で、ある日怪我をして帰ってきたので俺は泣きながら一晩中看病してしまった。
二人っきりのときは俺が「大好き!」と言うと飴とかお菓子をくれるので、いつも「大好き!」と言ってたっけ……楽しい思い出だ。
まさか松風も俺のことを愛していたなんて……
奴らのためにもアルコは倒さなければならない。団長の仇も取らねば、チャンスはきっとあるはずだ。
◇
杉風がアルコの偵察をしに屋敷の庭に侵入すると、入り口に鎧を着た女剣士の護衛が付けられていた。
(何故わざわざ護衛を……目立たぬように探りを入れてみるか……)
杉風は庭師に化けて堂々と入り口に向かって歩いて行き、護衛に話しかけた。
「庭師の杉田サンジョウと申します。庭師参上!」
「私はアルコ様の護衛をすることになったタリスだ、よろしく」
杉風は庭に咲いている花を摘んで花束にするとタリスに渡した。
「初めて会った記念に」
「えっ!? あ、ありがとう……」
タリスは頬を赤らめた。
「美しいあなたにお花はよく似合います。しかし僕が手入れしているこの庭にあなたが立っていると、どんなお花もあなたの美しさには勝てませんね。タリス様、僕はこの庭を綺麗にするのが仕事なのです、なので美しいあなたに近づいてしまうことをお許しください、僕の足は震えています、あなたが素敵すぎるからです」
「い、いや、べ、別にお仕事なんだから好きにどうぞ……」
「タリス様は優しいのですね。そんなに美しいのに、僕のことを気遣ってくれるなんて……ありがとうございます。タリス様の邪魔をしないようにしますので、これからもよろしくお願いします」
◇
僕はアルコに言われてタリスさんをトランプに誘った。
「タリスさん、アルコがトランプしたいって言ってるんですけど良いですか?」
「アランさん、ここのお庭は綺麗ですね……」
「えっ? そうですね……」
タリスさんはウットリとお庭を見ていた。
僕たちはタリスさんとゲームをした。
タリスさんはちょっと怖そうな人だと思っていたけど、ニコニコして、ご機嫌な感じで優しい人だった。




